ケイの読書日記

個人が書く書評

群ようこ「作家ソノミの甘くない生活」

2015-01-29 09:49:41 | Weblog
 群ようこがモデルだと思われる作家ソノミ(57歳)が、年齢からくる体力的な衰えや、体調不良に落ち込み、高齢の実母や叔母の身勝手な言動に振り回され…というお話。モデルというより、彼女そのまま。

 それら以上に、ソノミの気になる関心事は、自分が身を置いて生活の糧を得ている出版業界の窮状。
 出版不況が深刻らしい。林真理子ですら、本が売れないと嘆いているんだもの、他の作家は…。

 一応、ソノミはキャリア31年という設定。最初は編集プロダクションに勤め、転職したらそこで雑文書きの依頼があり、そのまま専業作家になった。おかげさまで固定ファンも付き、本も売れ、知名度も上がり、20年ほど好調だったが、ここ10年で本がパタッと売れなくなった。
 出版という業界が斜陽化しているという事は、出版社の経理事務からも、よく分かるという。

 作家になって最初の20年間、原稿料の支払いミスなんて、ただの一度もなかった。それが、この10年、次々と起こる。
 えらく少ないので、出版社に電話すると、「すみません。間違えました」と謝って、すぐ差額は支払われる。しかし、翌月号でも同じミスが…。
 そうかというと、考えていたより多くのお金が振り込まれ、確認の電話をかけると、「間違って、多くのお金を振り込んでしまったので、差額分を返してくれ」と言われる。そのため、炎天下の中、遠い駅前の銀行まで、大変な思いをして歩いたらしい。
 そういった事が度々起き、おかしいなぁ???と怪訝に思っているうちに、本が売れなくなったという。

 これ、わかります!きちんと経理事務ができる人材が、他業種に流れてしまってるんだね。まるで、沈みかけている船から、ねずみが逃げ出すみたいに。


 だからソノミは、以前だったら「何歳くらいまで仕事をしようか」と考えていたが、今では「何歳まで仕事ができるんだろう」と不安を感じる。
 会社勤めだったら、厚生年金があるけど、フリーランスだと定年がないから、将来も仕事ができると期待して、年金を掛けてない人もいるだろう。困ったね。

 ただ、群ようこだったら大丈夫!! 「あんなにたくさんいた読者の皆さんは、どこに行ってしまったんだろう」と嘆くが、デビューから30年以上たった今でも、こういったハードカバーの立派な本を一流出版社から出してもらえるんだもの。たいしたもんです。
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森博嗣「地球儀のスライス」

2015-01-22 11:00:58 | Weblog
 森博嗣の第2短編集。今度こそ、犀川&萌絵のその後が書かれているはずだと、期待して購入したが…残念。

 10編中2編がS&Mシリーズ。『石塔の屋根飾り』は、すごくミステリアスな謎で、私も色々考えた。解答もピタッときて納得だが、学術色が強いので、お気楽に読めないよ。思考するのが好きな人には、ぴったりだろうけど。
 もう一つの『マン島の蒸気鉄道』は、鉄道ファンだったら楽しめるだろうが、私の趣味ではないな。
 喜多先生や、萌絵さんのいとこの大御坊、それに睦子おばさま、執事の諏訪野まで登場。睦子おばさまは、婦人集会に出席するため現地の教会に出掛けているから、サプライズ・ウエディングが!!!と大いに期待したが、まったくのハズレで、蒸気機関車の写真の話で終わったので、本当にがっかりした。

 犀川先生と萌絵さんの仲は、1mmも進展なし! なんだよーーーー!


 作品としては…『僕は秋子に借りがある』が一番好きかな? 素性のよく分からない女の子から話しかけられ、短期間、付き合うが、彼女には目的があった。ちょっと物哀しいお話。森博嗣自薦短編集に、このタイトルが付けられているから、本人も気に入ってるんじゃないか?

 あと『気さくなお人形、19歳』は、次の瀬在丸紅子シリーズのキャストが勢揃い。小鳥遊(たかなし)君、紫子ちゃん、保呂草さん(この人は名前だけ)そしてボロアパートの阿漕荘。つまり、次回シリーズもよろしくって事ね。

 
 先日、萌絵さんが住んでいるっていう設定の、徳川園周辺の高層マンションに行ってきた。ありますねぇ。徳川園の東には。(西側は、高さ制限があるんだろう、古い街並みが残っている。文化の道として、名古屋市が保存しようとしてるみたい。)
 ああ、ここら辺の高層マンションの21階と22階に萌絵さんが住んでいたんだ、と想像すると、感慨深いものがあります。
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森博嗣「まどろみ消去」

2015-01-17 17:19:07 | Weblog


 森博嗣の第一短編集。11作品中2作品のみ、萌絵さんが登場するだけなので、ちょっと残念。ミステリらしいミステリは、萌絵さんが出てくる『誰もいなくなった』くらいかな。

 森ミステリを読みたかった人には肩透かしの短編集だが、別の面白さもある。大学院生の生活が、垣間見えること。修士課程や博士課程に在籍している、大学院生の日常。例えば、『真夜中の悲鳴』『キシマ先生の静かな生活』など読むと、自分の知らない世界の事が書いてあって、興味深い。

 特に『キシマ先生の静かな生活』に出てくるキシマ先生は、とても優秀な研究者で、その分野では一目置かれている人だが、身分は助手。だから、すごく薄給。しかも、ヨイショができない人らしく、助教授に昇格することは、まず無い。だいたい、専門分野が教授たちと違っているらしい。
 そのキシマ先生は、ずーーーーっと好きだった女性と45歳で結婚。九州の大学に、助教授として栄転した。しかし…うまくいかなかった。
 先生は2年で大学を辞めた。先生の奥さんは自殺して亡くなったと、風の便りできいた。
 
 キシマ先生は、無理をして無理をして無理をしたんだ。以前から恋焦がれていた女性と結婚するために、気楽で自由な研究生活を手放したんだ。その歪が悲劇をうんだ。


 悲しいね。『容疑者Xの献身』のXみたいだね。Xも出身大学では職を得られず、別の大学の助手として雇われたが、あまりの薄給と雑用の多さ、それに学内の派閥抗争に巻き込まれ、大学を辞め、生活のため高校の数学教師となった。


 作品中に、主人公が「1日中、たった一つの微分方程式を睨んでいた、あの素敵な時間は、どこにいってしまったんだろう?」と嘆く場面がある。
 いやーーーー、真性理系の人って、本当にスゴイと思うよ。
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森博嗣「笑わない数学者」

2015-01-12 10:27:35 | Weblog
 犀川&萌絵シリーズの第3弾。これ、TVドラマ化されなかったから、つまらない作品なのかなと心配したけど、そんなことない。なかなか面白いです。
 ただ、セットが大掛かりになりすぎるから、ドラマには敬遠されたのだろう。

 
 偉大な数学者・天王寺博士の住む『三ツ星館』で開かれたパーティに招待された、萌絵と犀川先生。三ツ星館内にあるプラネタリウムで星空を楽しんだ後、博士は萌絵に要求され、12年前と同じように、庭にある大きなオリオン像を消して見せる。
 しかし、一夜明けて再びオリオン像が現れた時、その足元には無残に殺された死体が横たわっていた…。


 三ツ星館の平面図が付いているので、ちょっと、綾辻行人の館シリーズを思い出す。そのせいでもないだろうが、この作品って、森ミステリにしては珍しく動機がはっきりしている。
 ほら、森ミステリって、HOW(どうやって)が重要視され、WHY(なぜ)が、あまり書かれないじゃない? え?なぜ、この人があの人を殺す必要があるの?ってよくわからないまま。
 でも、今回は、動機があまりにも生々しくて、お昼のメロドラマみたい。
 もちろん、トリックも秀逸。ただ、平面図が付いているので考えやすい。私でも分かりました。

 三ツ星館は、長方形の真っ平らな大きな敷地に、三つのドームが斜めに連なっていて、渡り廊下で結ばれている。平面図で見る分には楽しいが、実際は暮らしにくいだろうなぁ。家具なんてどうやって置けばいい? 無駄なスペースがすごく多くなりそう。作り付けの家具じゃないとダメだろうね。


 この数学者・天王寺博士は、子どもや孫やお客を集めて、数学的ゲーム問題を出題することが好きなようだが、いけ好かないジジイだ。そんなパーティなんて私は絶対行きたくないね。でも、こういった数学的ゲーム問題が好きな人もいるんだよね。萌絵さんみたいに。
 犀川先生の妹・摂津子さんも、パズルマニアで、世界中の知恵の輪とかパズルを集めているらしい。家系なんだろう。
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西尾維新「OVER HEAVEN」

2015-01-06 10:03:00 | Weblog
 VS JOJO 第2弾  西尾維新XDIO と華々しく帯に書かれている。

 荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」が、週刊少年ジャンプに連載されている事は、もちろん知っているが、私、実はジャンプはたまに読むが、この「ジョジョの奇妙な冒険」は飛ばしている。
 ジャンプって、ファン投票の結果が雑誌の掲載順番にシビアに表れていて、この「ジョジョの~」は、いつも後ろが定位置なので、さほど人気がないんだろう、でも、すごーーーく長く連載されているから、固定ファンがしっかり付いているんだろうなと想像していた。
 うーん、なぜ読まないかというと、絵柄がイマイチ好きになれない、それに戦闘シーンばかりで、途中で読んでも意味が分からないだろうと思ったのだ。
 ただ、読まないといっても、目には触れるので、「スタンド」とか「スタンド使い」という単語は知っていた。


 この本を、図書館の書架で見つけた時、普通だったらスルーするが、西尾維新が書いているので借りてみる。なるほど、面白い。
 スタンドというのは、スタンド使いの守護霊みたいなもので、特殊能力を持っているようだ。例えば、このジョジョの敵役、DIOのスタンドは「ザ・ワールド」 時を支配するらしい。
 スタンド使いは、自分のスタンドを闘わせ、勝敗を決めるのだ。

 このスタンドの持っている特殊能力がスゴイ! こういう事を考えるマンガ家って本当に天才だと思う。「ハンターXハンター」の念能力みたいなものか。ただ、念能力は修行によって身につくが、このスタンド使いというのは、先天的なものなんだろうか? 「弓と矢」というアイテムで、スタンド能力を得ることもできるらしいが、修行は必要ないんだろうか?
 なにしろ原作マンガを読んでいないので、わからない。
 それに驚くべきことに、人間だけでなく、動物にもスタンド使いがいるのだ。本書の中にも、犬のイギーというスタンド使いが出てくる。本当に最初から犬なんだろうか?悪い魔女に、犬に変えられた王子様じゃないの?


 荒木飛呂彦氏を、先日TVで見たが、すごく若い。1960年生まれだから、今年55歳になるはず。絶対見えない。少し老けた芸大生に見える。彼にも「若さを保つ特殊能力を持つスタンド」が付いてるんじゃないか?!と思えるほど。
コメント (2)
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