ケイの読書日記

個人が書く書評

五十嵐貴久「シャーロック・ホームズと賢者の石」

2013-04-30 15:27:46 | Weblog
 ホームズ・パスティーシュ4編。
 やはりパロディよりも、パスティーシュの方が面白いと思う。たくさん読んだ訳ではないけど。
 パロディって、ホームズやワトソンの名前をもじった探偵(例えばシャーロ・コウムズとホワットソン博士とか)が、おかしな冒険をして笑いを取るようなパターンでしょ?

 それよりも、ホームズフリークの作家が、コナン・ドイルに敬意を表して、自分の中に形作られているホームズやワトソン像を、存分に活躍させるホームズ贋作の方が、よっぽど面白い。

 この作品集には、下記4話が収められている。
①彼が死んだ理由  ライヘンバッハの真実
②最強の男     バリツの真実
③賢者の石     引退後の真実
④英国公使館の謎  半年間の空白の真実

 表題作は③「賢者の石」だが、私は④「英国公使館の謎」が、一番秀作だと思う。
 舞台は、明治22年の東京。ああ、シャーロック・ホームズがTOKYOに現れるのだよ!!  英国公使館内で、ズタズタに切り裂かれた娼婦の死体が見つかる。内部犯としか考えられない。公使館内では、日本の警察に連絡せず、自分たちで何とか犯人を捜そうとするのだが…。

 老人だが、まだ衰えてはいないホームズのカッコいい事と言ったら!!!

 しかし、この話にはワトソン博士が登場しないんだ。それが物足りない。それを考えると②「最強の男」の方が、良いかな? ワトソンと一緒に部屋でくつろいでいるホームズが、ブラジル大統領暗殺を阻止した時の思い出話を始める、という設定。

 ①「彼が死んだ理由…ライヘンバッハの真実」は、斬新なアイデアの作品だけど、あまり好きになれないね。むしろ、ホームズフリークから苦情が来そうだ。
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法月綸太郎「犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題」

2013-04-24 14:18:23 | Weblog
 12星座後半の6つの星座にまつわる6つの難事件。

 星座がらみだから、ギリシャ神話の話が、各短編の最初にちょこっと引用されているが、イヤな奴だよね。大神ゼウスって。子ども向きギリシャ神話を読んだ時から思ってた。なんと好色な神様だろうと。
 同意の不倫はともかく、レイプって、いいんですか? それに近親相姦も。
 いったい子どもが何人いるんだろう? 本人も判らないんだろうなぁ。
 そして、こういった神話が語られるという事は、古代ギリシャ人も、そうとう奔放だったという事か。


 このⅡでは、表題作「三人の女神の問題」が、一番いいと思う。
 10年前に解散した、女性3人組のアイドルグループ。彼女たちが所属していた事務所の元社長が、殺害される。
 犯人と目されたのは、元ファンクラブ会長。彼は、殺害をほのめかす声明文を、ブログにアップして服毒自殺していた。
 しかし、捜査を進めるうち、共犯者がアイドルグループ内にいたことが分かる。
 3人のメンバーのうち、いったい誰が共犯者なのか?

 元会長が、アイドルメンバーにかけた電話の順番、通話時間、間隔などを手掛かりに、綸太郎の推理がさえる!!



 他、一番イマイチと思ったのは「錯乱のシランクス」。ダイイングメッセージ物なんだよね。作者が、色々バラエティーに富んだものを書こうという意欲は分かるけど、ダイイングメッセージって、どうとでも受け取れるから、嫌なんだよね。こじつけなら、いくらでもできる。
 ダイイングメッセージで成功した作品って、あるんだろうか? 私には思いつけない。


 そのほか、短編だから仕方がないにしても、もう少し、法月警視と綸太郎のプライベートな日常も書いてほしい。そういえば、初期の作品に、綸太郎のガールフレンドとして、図書館司書の女の子が出てくるが、あの人はどうしたんだろう。
 最近の綸太郎に、女っ気は全くない!
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村上春樹編訳 「レイモンド・カーヴァー傑作選」

2013-04-19 14:08:26 | Weblog
 最近、私が村上春樹の翻訳物をよく読んでいるのは、にわかファンになったからではない。
 我が家のテーブルや机に、なぜか放置されているので、もったいないから読んでいるのだ。どうも三男が、買ったはいいが、読まずにほったらかしにしているらしい。
 授業で使ったんだろうか? とにかく、ほとんど読んでいない。読んだ形跡がない。新品同様なのが、情けない。
 せっかくの、村上春樹サマではないか。そんなことじゃ、女の子にモテないよ。


 という事で、レイモンド・カーヴァーを読む。1938年~1988年。アメリカの小説家・詩人。村上春樹が気に入って翻訳して日本に紹介したので、人気上昇中…らしい。
 
 この傑作選の中には、短編ばかり収められているので、すごく読みやすい。もともと短編作家なのだ。そうだなぁ、麻とか木綿とか、天然の繊維の手触り。
 1960年代~1970年代の、アメリカのプアホワイトというかブルーカラー家庭の日常が、淡々と小ざっぱりと書かれている。
 このころのアメリカは世界の富を独り占めした国だったが、貧しい人は貧しかったんだ。
 この世代の作家だったら、ベトナム戦争の事は当然避けて通れないと思うが、このカーヴァー氏は、政治的な事柄にはまったく興味がないようだ。



 一番気に入った作品は「収集」。掃除機のセールスマンと、その対応をしている男のやり取りが、ちょっとシュール。戯曲にするとすごく面白いんじゃないかな?

 もう1作「足もとに流れる深い川」も気にかかる。
 仲の良い中年男4人が、川にキャンプに出掛ける。5マイルも歩いて、やっとのことでキャンプ地につくと、若い女性の全裸死体が川上から流れてくる。驚いて警察に知らせようとするが、5マイルも戻るのは大変だ、どうせ死んでるんだ、という事で、予定通りキャンプを続け、帰る途中で警察に通報。
 その行動が、周囲に波紋を投げかける。

 そうだよね。全裸の水死体が流されていかないように、繋ぎ止めているその川の水で、ウイスキーの水割りを作り、皿を洗うのだ。ちょっとしたホラーです。モデルとなった事件でもあったのかな?
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法月綸太郎「犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題」

2013-04-15 08:50:34 | Weblog
 星占いの12星座。その前半6星座にまつわる6つの事件を、名探偵・法月綸太郎が、美しく解決!

 実はこの中で「ゼウスの息子たち」と「ヒュドラ第十の首」は、前に別のアンソロジーで読んだことがある。
 その時は、それほど良い出来とも思わなかったが、再び読んでみると…なかなかの秀作ではないか!!
 今どき、こんな端正な本格を書く人って珍しいよ。法月氏は遅筆で有名らしいが、そうだろう、量産できないよ。この作風では。



 表題作は「六人の女王の問題」。筆者が、すごく力を入れて俳句の暗号などを作ったのは理解できるが、私は早々にリタイア。考える事を止めた。私の頭ではチト無理。
 でも、こういったパズルが好きな人にとっては、素晴らしい作品なんだろう。
 けれど、パズルが解けなくても、被害者の事件前後の行動から推理するのも楽しい。

 私が一番いいなと思ったのは、「冥府に囚われた娘」。都市伝説が発端となって、綸太郎が事件を知ることになる。

 ある女子大生のケータイに、友人A子からメールが届く。旅行で家を空けるから、鉢植えに水をやりに来てほしいって。自分も帰省するので、すぐに断りのメールを入れるが不達で戻ってくる。ケータイにかけてもかからない。
 おかしいなと思って、A子のマンションに行くと、部屋は空っぽ。管理人にきくと、A子は何日も前に意識不明で倒れ、病院に運ばれたが、植物状態が続いているという。 
 どうもダイエットのために、毎日何リットルものミネラルウォーターを飲んで、水中毒になったらしい。
 マラソンなどのスポーツ選手が、水分補給しすぎて血液中の塩分バランスが崩れ、こん睡状態に陥ることがある状態。
 ただ不思議なのは、A子が入院中に届いたメール。いったい誰がメールした? 植物状態になったA子に、水をやりに来てほしいという事なの?

 ね、ちょっとヒヤッとしませんか?
コメント (2)
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奥田英朗「ララピポ」

2013-04-09 14:42:55 | Weblog
 「ララピポ」って何だろうと思い、手に取る。
 外国人が「a lot of people」を早口でしゃべると、日本人には「ララピポ」と聞こえるようだ。

 一種の犯罪小説なのだが、金塊強奪とかビル爆破とか、そういった派手な犯罪ではない。 
 格差社会の底辺でうろうろしているうち、ショボい犯罪に手を染めていくというパターン。

 例えば、第4話には、ノーと言えないカラオケボックスの店員・青柳が出てくる。
 青柳は家賃6万円のアパートに住んでいて、何人もの新聞の勧誘員にしつこく食い下がられ、なんと一般紙を3紙、スポーツ紙を1紙、取る羽目になるのだ。
 その他も、しつっこいセールスマンに迫られ、浄水器やフライパンのセット、ジェットバス、どんどん契約させられていく。

 アホか!あんたは!!!   セールスマンがどんどんドアを叩いても、決して出るんじゃない!  居留守使えばいいんだよ! 耳栓して、布団かぶって寝てればいいの。なんで律儀に対応するのか理解できない。

 セールスってのは、ドアを開けたら、もうすでにセールスマン側が8割方、勝利しているといわれる。
 ドアを開けさせるために、「玄関の前に100円玉が落ちてましたが、あなたのではないですか?」なんて嘘をつくセールスマンもいると聞く。

 とにかく「ドアを死守せよ!」と、小説の中に飛び込んで、青柳に大声で説教したくなりますね。

 これも、認知症のお年寄りに群がる悪徳セールスマンと同じで、あそこの住人はガードが緩い、押せばなんとか契約できるという噂が、同業者の間に広まるからだろう。

 この青柳のバイト先のカラオケボックスも、援助交際の子たちを断りきれず、売春宿のようになってしまう。
 青柳、断れないんだったら、逃げろ!!  
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