ケイの読書日記

個人が書く書評

J.D.サリンジャー 村上春樹訳「ライ麦畑でつかまえて」

2013-03-30 09:56:29 | Weblog
 村上春樹の新訳なので、本当は原題のままの「The Catcher in the Rye」なのだけど、そうすると私が英文で読んだと誤解されるといけないので、一般的な邦題にします。

 ホールデンという、17歳のハンサムでお金持ちの男の子が、名門の子弟が集まる寄宿制の学校を、学業不振で追い出される。放校の通知が行く前に戻ると、両親が大騒ぎするので、2~3日ぶらぶら時間をつぶし、ほとぼりを冷ましてから家に帰ろうとする。
 N.Y.のホテルに泊まったり、ナイトクラブに行ったり、娼婦を買ったが、脅されお金を巻き上げられたり、ガールフレンドと芝居に行ったが気まずくなったり…。
 手持ちのお金が無くなったので、家にこっそり忍び込んで、妹からお小遣いをもらって自己嫌悪に陥ったり、信頼していた先生の家に泊めてもらったが、ひょっとしてゲイなのでは?と疑って飛び出して来たり…。
 とにかく、とんでもないドタバタを巻き起こす。


 この小説は1951年に発表されたようだが、それから60年以上たった今でも、多くの読者の心を惹きつける理由は、分かるような気がするな。

 このホールデンという主人公は、自分以外みんな馬鹿!という鼻持ちならない奴なんだが、その年代特有の痛々しさが魅力的。
 作者自身がモデルなんだろうけど、なんとか世の中に自分を合わせようとしているけど、あっぷあっぷしてうまくいかない。

 少し離れて見ている分には魅力的だが、同室のルームメイトだったり、家族だったり、恋人だったりしたら、うまくやっていくのは無理だろう。


 それにしても、N.Y.の街の素晴らしい事と言ったら!! ホールデンの家はN.Y.にあって、彼は学校を飛び出してから、ブロードウェイや五番街といった世界一の繁華街をぶらついていた。戦争が終わって5年たっただけだなんて思えないほど華やか!   そうだよなぁ、アメリカ本土は被害を受けていないんだものね。
 でも、タクシードライバーの態度は最悪。客を客とも思わぬ態度。いくらホールデンが頓珍漢な事を聞いたとしても、あんなに怒らなくてもいいのにね。
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古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち」

2013-03-23 10:06:15 | Weblog
 筆者の古市氏は、気鋭の若き社会学者として、TVのコメンテーターをやっているので、以前からこの「絶望の国の幸福な若者たち」を読んでみたいと思っていた。

 古市氏は1985年東京生まれ。慶応大学から東京大学の大学院へ進み、総合文化研究科博士課程在籍。(今はどうなのかな?)
 つまり、20代後半。写真を見ると、本当にイマドキの若者。

 読みやすいとはいっても、一応、社会科学の本なので、サクサク読める訳ではないが、それでも面白かったです。


 自分の子供は、3人とも20代だが、一番自分たちの世代(昭和30年代生まれ)と違うという点は、地元を大切にしている事だと思う。これは「絶望の国の幸福な若者たち」にも、よく取り上げられている点。

 例えば進学や就職。私たちの世代で地方在住者だったら、経済的に可能なら、ぜひ東京の大学に行きたい、就職も、できれば東京で働きたい、という人が多かった。特に男の子の場合。
 でも、イマドキの受験生は、地元志向がすごく強い。拍子抜けするほど。金銭的には助かるけど、若いのにもっと中央志向を持たなくていいの?と言いたいほど。
 それを支えているのが、地元の友達を大切にする気持ちだと思う。特に、中学時代の友達と、あまり離れたくないんだ。

 東京に対するあこがれは、無いわけじゃない。でも、地元の友人と集まって海に行ったり、スノーボードに行ったり、バーベキューをしたり、それが一番楽しい。そんなカンジかな?

 それを「内向きな若者たち」と批判する人もいるけど、私は良いことだと思うよ。この本の筆者・古市氏も。
 ちょっと前に『おかれた場所で咲きなさい』という本がベストセラーになったけど、本当にその通りです。
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三津田信三「山魔の如き嗤うもの」

2013-03-18 16:04:15 | Weblog
 この刀城言耶シリーズは何冊あるか知らないが、3冊ほど読んだろうか、その中でこの「山魔の如き嗤うもの」が、一番いいと思う。
 特に前半部分は、『遠野物語』を意識しているんだろう。とても面白い。



 終戦後間もなく(たぶん昭和25年頃)奥多摩の集落に昔から伝わる成人参り(三つの山の里宮から奥宮までを1人で辿って礼拝するという儀礼)を行なっていた青年が、道に迷い、忌み山に入り込み、そこで恐ろしい体験をすることから、この小説は始まっている。

 決して入ってはならない、入れば恐ろしい祟りがあるとされた『忌み山』に迷い込みさまよっているうちに、一軒の家にたどり着く。
 なぜこの『忌み山』に家がある?と不審に思ったものの、野宿したくない青年は、頼み込んで泊めてもらう。
 中年男、若い男、老婆、若い女、子ども…得体のしれない一家。
 翌朝、青年が起きて階下に降りていくと、誰もいない。朝食の用意はしてあり、戸には内側からカギがかかっているのに…。一家消失。


 この謎を解くように依頼された刀城言耶は、さっそく一家消失の現場に向かうが、そこで後頭部を殴られ、顔を焼かれた男の死体が発見される。これを発端として、次々と起こる殺人。

 
 一応、この地方の童歌をもとにした見立て殺人になっているが、見立てが成功しているとは言い難い。無い方がいいような気がするなぁ。
 犯人は誰か、刀城先生も苦労していて、最重要容疑者がコロコロ変わるが、まぁ、そんなもんだろう。
 有栖川有栖のように、論理だって犯人を捜している訳じゃない。誰でも犯人だと言いくるめる。
 ホラーミステリと分類されるかもしれないが、ミステリ部分は弱い。
 でも、ホラー部分は、本当に読みごたえあり!
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岸本葉子  「そこそこ」でいきましょう

2013-03-12 11:24:36 | Weblog
 私も「そこそこ」でいってます。
 岸本さんが、あちこち(新聞・雑誌・小冊子etc)で書いたエッセイを加筆修正し、構成したエッセイ集。

 先日読んだ『買わずにいられる?』は、そこはかとない面白みがあって楽しく読めたが、今回のは1編が短いせいか、岸本さん独特のユーモアがあまり感じられなかった。
 まあ、初出が「朝日新聞」「原子力文化」「東京新聞」「共同通信」「NHK俳句」といったお堅い所ばかりなので、彼女の持ち味が発揮されなかったのかも。

 岸本さんの俳句への傾倒ぶりは、なかなかのもの。
 吟行にも参加している。吟行というと、名所・旧跡・寺や神社と思っていたら、秋葉原に吟行している。吟行か…いいな。自分が風流人になったみたい。
 
 俳句かぁ…興味が無い訳じゃないけど、まだそこまで枯れてないな。
 「ちびまるこちゃん」たまに出てくる「友蔵こころの俳句」なんていいと思うが、あれは俳句というより川柳ですよね。


 川柳で有名なのは、大手生命保険会社の主催する「サラリーマン川柳」 
 今は「シルバー川柳」「女子会川柳」なんてのもあるらしい。
 「女子会川柳」か…。どんな句が載ってるんだろ。私も、出版業界を応援するため、買ってみるか。
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東川篤哉「中途半端な密室」

2013-03-07 13:19:35 | Weblog
 東川篤哉は「謎解きはディナーのあとで」で大ブレイクした推理作家。その彼の、初期傑作5編が収められている。

 いやー、面白いです!! びっくりしました。同じユーモアミステリ系の赤川次郎よりも、こっちの方がいいんでないの?と言いたいほど。

 
 屋外のテニスコート内で、ナイフで刺された男の死体が発見される。
 コートには内側からカギがかかり、周囲には高さ4メートルほどの金網が張ってある。犯人は内側から鍵をかけ、わざわざ4メートルの金網をよじ登って逃げたの?まさか?自殺に見せかける訳でもあるまいに。
 この不可解な状況を、探偵役はキチンと無理なく解明する。

 他の4作品も、魅力的な謎に整合性のある答えが用意されていて、謎解きの楽しさを満喫できる。

 難をいえば…キャラが弱いかな? 表題作以外は、岡山市内の大学生「敏ちゃん」「ミキオ」コンビが探偵役だけど、ほのぼのしている。これは作者が岡山大学の学生だったことの影響だろう。ローカル色が強く、ほほえましい。

 それに、ホラーとかオカルトとかバイオレンスの要素が全くないので、退屈に感じる人もいるだろう。これだけのトリック考え出せるんだから、犯人の動機・心理描写・時代背景などで膨らませれば、かなりの長編になるだろうが、多額の原稿料を欲しくないのか、短編ばかり。 
 ゆるーいユーモアが、この人の持ち味なんだろうね。
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