ケイの読書日記

個人が書く書評

内館牧子 「すぐ死ぬんだから」 講談社

2021-07-31 08:17:31 | その他
 すごく仲の良い70歳代のご夫婦がいた。奥さんのハナはせっせとオシャレに励み、旦那さんは「俺、お前と結婚したことが人生で一番良かった」なんて歯の浮くようなお愛想を言う。近所でも評判のおしどり夫婦だったが、突然だんなさんが倒れ、意識が戻らないまま死んでしまった。

 推理小説ではないのでネタバレでも書こう。死後、ダンナにもう一つの家庭があり、そこに愛人と子どももいた事が発覚。(寂れた商店街の酒屋のしがないオヤジに、そんな才覚がよくあったな、とも思うが)
 特に愛人との子どもには、自分の名前の一文字を与え、岩太郎と名付けた。(ちなみに旦那は岩造。本妻のハナとの間の子どもには雪男と名付けている。これによって長男・雪男はかなりのショックを受けた。当たり前だよ)

 こういう時、残された妻は、どう思いどういう態度を取るんだろうか? やっぱりね。古女房に「ハナは俺の自慢だよ」とおべんちゃらをせっせと言っているような男には裏があるんだ。普通は思っていても、心の中に置いて口には出さないよ。裏があるから、その後ろめたさで、過剰に妻に愛情表現するのさ。

 結局、ハナは「死後離婚」する事も考える。「死後離婚」というのは俗称で、正式には「姻族関係終了届」というらしい。法的に関係を終了すれば、完全に他人。無関係。旧姓に戻して実家のお墓に入るという。確かに、ダンナと同じお墓に入ろうとは思わないよ。岩造の仏壇もゴミに出したし。

 生きている亭主ならともかく、死んだ亭主なんて死後離婚などしなくても、どんどん忘れていくんだろうと思う。どんどん記憶が薄れていって、亭主だけでなく子どもの事も忘れ、自分が子どもの頃の記憶だけが残る。

 内館牧子さんは、ご自身にお子さんがいないせいか、子どもに夢を持ちすぎると感じる。例えば、この作品に出てくるハナの子どもや孫たち、すごく優秀。優秀でない人は、すごく優しくハナ想い。そんな事あるかよ!! 「8050」問題、「7040」問題で困っている親や祖父母はいっぱいいると思うけど。親や祖父母のお金を狙ったり、暴力を振るったり、苦しんでいる親や祖父母はどっさりいるよ。新聞を読んでよ!
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林真理子 「中島ハルコの恋愛相談室」 文藝春秋

2021-07-24 14:49:09 | 今村夏子
 中島ハルコは歴史上の人物ではなく、林真理子の小説のキャラクター。50歳過ぎの厚かましいおばちゃん。50過ぎとしては美人だが、年齢は誤魔化せない。社員50人の美容関係の会社を経営している。本人曰く。美人社長として有名で、マスコミからいつも取材されるようだ。

 一方、語り手は30代後半のフードライター。比較的、お金持ちの家のお嬢さん。(フードライターってのは貧乏な生まれ育ちだとなれないんだって。裕福な家庭に育って、子どもの頃から美味しい物を食べなれている人間でないと、この仕事には就けないらしい。そんなもんかなぁ)不倫関係の愛人とは10年も続いている。その顛末をハルコに相談している。だからタイトルが『中島ハルコの恋愛相談室』

 よくある設定だが、あまり無いのが中島ハルコのキャラ設定。なんと!!珍しい事に、名古屋生まれ名古屋育ち中高を金城学院出身のお嬢様ってことになっている。中学・高校が公立なのが当たり前の名古屋では、私立の金城中学・金城高校出身者は『純金』といわれ、裕福な家庭のお嬢様の証なのだ。(もちろん大学もあるが、大学はお嬢様でなくても入れるので、価値はグッと下がる)
 いやぁ、林先生、よく調べましたね。他にも「娘が3人いれば身上潰れる」という諺もあるし。お嫁に行く時もっていったタンスや電化製品、和服をズラッと座敷に並べ近所の人に見せる風習もある。(今では廃れてると思うけど) 
 何よりも驚いたのが、林先生が名古屋のそういった習慣を好意的に書いているのだ。名古屋人として素直に嬉しい。

 以前、村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』を読んだとき、その作品の主人公も名古屋出身の設定だったけど、筆者があまり良いイメージは持っていない雰囲気だったので、気分が悪かった。
 確かに閉鎖的な土地柄だと思うよ。あまり地元を離れたがらない。私もそう。地元を離れなくても仕事がたくさんあるからだと思う。もちろん職種によっては、どうしても東京に出た方が有利という事はあるだろう。この中島ハルコさんもそう。今は東京にオフィスを構えている。でも、お母さんやお兄さんが名古屋にいるものだから、いっつも帰っているよ。
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湊かなえ 「ホーリーマザー」

2021-07-17 10:51:48 | 湊かなえ
 この作品は、前回UPした「ポイズンドーター」と対になっている作品。前回の「ポイズンドーター」は娘側からの視点だけど、今回は母親側からの視点。「ホーリーマザー」直訳すれば「聖母」 そう、客観的にみれば、女優・藤吉弓香の母は、聖母と言っていい人だった。
 夫が交通事故で早くに亡くなったので、女手一つで懸命に働いて娘を育て、東京の女子大を卒業させた。欲しい洋服も買わず、行きたい旅行にも行かなかったと思うよ。全てを一人娘に捧げたと言ってもいい人生。

 でも、どんな善い人でも、その献身の見返りを求めずにはいられない。娘に父親と同じ教師になる事を要求。教師になりたくないという娘と激しく対立する。結局、採用試験不合格になったので、非正規で役所に勤めているところをスカウトされ、芸能界へ。いやぁ、人生って何が幸いするか分からないね。

 こういう事はよくある。母親と対立するって事は、娘が健全に育った証でもある。芸能界に入りたいっていうより、母親から離れたいんだ。今では、女優としての活躍を応援しているんだから、「母親とは有り難いものだ」と弓香も思えばいいのに、それができない。
 毒親をテーマにしたトーク番組で、自分の母親がいかに毒親だったかとぶちまける。
 もう一人くらい、兄か弟か、兄弟姉妹がいればよかったのにね。 そうすれば、母親の関心も分散される。これって、とても大事な事だと思う。

 今は、1人の子にお金と手間をかけて大切に育てよう、という風潮があるけど、逆効果なんじゃないかと思う。親の目が届きすぎると、子どもはダメになると思う。親はちょっと抜けていた方が良い。

 弓香のお母さんは残念なことになってしまったが、その原因が娘の弓香にあったとしても、お母さんは娘の幸せを願っているよ。母親ってそういうものです。
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湊かなえ 「ポイズンドーター」

2021-07-09 14:33:59 | 湊かなえ
 「ポイズンドーター」直訳すれば「毒娘」。「毒娘」という言葉が一般的か知らないが「毒親」という言葉に対して生まれた言葉だろう。

 女優の藤吉弓香は、故郷で開催される同窓会の誘いを断った。母親に会いたくないのだ。母親は早くに夫を亡くし、女手一つで娘を育ててきた立派な女性だ。客観的にみれば素晴らしい賢母だが、娘の目からは違って見えた。
 娘を常に自分の支配下に置き、コントロールしようとしてきた。小さな頃は、母親が常に正しく、母親の気に入らない言葉や行動をする自分が悪いと思っていた。でも、中学の頃に、自分の頭痛の原因が心因性のモノ、母親に原因がある頭痛だと気づいてしまったのだ。

 お母さんも、片親だからダメなんだと言われないように、娘をきちんと育てようと一生懸命なんだ。ただ、やっぱりやりすぎだと思う。鞄の中や机の中を探って、何を読んでいるか誰と仲が良いのか探ろうとするのは、嫌がられるだろうね。
 交通事故で亡くなったお父さんは、高校の国語教師だったので、娘にも教員になることを強く望んだ。娘は、本当は小説家になりたいという夢があるのに…。(結果として女優になったけど) 子どもの未来を勝手に決めるなよ。

 同窓会の参加を断った後で「毒親」をテーマにしたトーク番組への出演依頼が届く。さんざん迷ったが、弓香は出演することにした。そして…

 私も母親だから、この弓香のお母さんを「毒親」として切って捨てるのには抵抗がある。頑張って働き、自分の事は後回しにして娘に仕送りし、東京の女子大に通わせたんだから。
 でも、娘が「毒親」だと思うなら「毒親」なんだろう。私も子どもから「毒親」と思われてるかな? ただ、幸か不幸か、女の子ではなく男の子3人だったから、もう小学校高学年の頃からコントロールできなかったよ。
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湊かなえ 「優しい人」 

2021-07-02 15:17:42 | 湊かなえ
 こういう事ってある。ただ親切にしただけなのに必要以上に懐かれて迷惑している人。ただの親切を、特別な好意だと受け取ってまとわりついてしまう人。この組み合わせは最悪で事件を引き起こす。

 明日実は母親から「誰に対しても優しくするように」と言われ育ったせいか、子どもの頃から誰に対しても親切だ。子どもは残酷で周囲が「〇〇君ってキモいよね」と言えば、自分がキモイと思っていなくても、キモイと言ったり態度で表わさなければならない雰囲気なのに、明日実は親切に対応した。
 そのため担任の先生に頼りにされ、周囲が遠まきにする難がある子の係りのようになっていた。しかし明日実も好きでやっている訳ではなく、仕方なしにやっているだけなので、何かの拍子にそれが相手にバレると、相手の子は大変ショックを受け、事態は前よりももっと悪くなることがあった。

 ただ、明日実の名誉のため書いておくと、彼女は「男に媚を売りまくる女」「自分を優しい女だとアピールしたがる女」そういう訳ではないのだ。
 普通の、自分は「非モテ系男子」と自覚している人は、ああ「ただ誰にでも優しい人なんだ」「自分はワンオブゼムなんだ」と身の程を知って、そのまま通り過ぎるけど、中には好意を持たれているってカン違いする男も出てくるわけで…。

 この非モテ男子の気持ちって、すごく良く分かる。私もそうだけど、こういう人って恋愛アニメのキャラなんかが好きで、自分がサッパリ異性に対して魅力が無いのは自覚しているけど、心のどこかで、でもひょっとしたら自分にもチャンスが訪れるかも…なんて期待してるんだよね。これは男女を入れ替えても同じ。
 誰にでも優しい男の子はいるし、その優しさを自分に対する好意とカン違いする女は、世の中にいっぱいいると思うよ。

 とにかく事件は起こった。明日実は、付き合っている人がいると伝えたのに、友彦はぐんぐん距離を詰めてくる。周囲も悪いんだよ。明日実と友彦は会社の同僚で、他の人たちと一緒にいったバーベキューで周囲が「友彦さんと明日実さんってお似合いのカップルですね」みたいに囃し立てるから。無責任に煽るなよ。

 やっぱりねぇ。付き合っている人がいるなら、最初からビシッと拒絶した方が良かったんだよ。お互いに。
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