ケイの読書日記

個人が書く書評

綾辻行人「迷路館の殺人」

2008-03-29 12:21:08 | Weblog
 これも「時計館の殺人」と同じくらい面白い。やっぱり館シリーズは初期の作品の方がいいね。

 推理小説界の大御所・宮垣が新進推理作家4人を自分の住む『迷路館』に招き、競作させる。一番すぐれた作品を書いた者が、宮垣の莫大な遺産の半分を手に入れることができるのだ。
 迷路館が舞台、被害者は作家自身、といった作品上の条件のもとに、彼らは作品を書き始める。その作品どおりの惨劇が自分の身に降りかかるとも知らずに…。

 審査員として、評論家・編集者・ミステリマニア(これが島田潔)の3人も招待されていて、作家と同じく密室となった館に閉じ込められる。


 いつものように綾辻の巧みなミスリードで、読者のほとんどがカン違いしただろうが、渦中にいる登場人物たちはお互いをよく知っていて、勘違いできないはず。

 犯人は「なぜ須崎の首を切りおびただしく出血させたか?」→「犯人の血の跡を隠すため」
 そこまで追求した島田潔が、その可能性を見逃すなんて考えられるだろうか?
 男だったらかえって真っ先にその可能性が頭に浮かぶかも。

 ミスリードは良いとして、そこがすごく引っかかる。
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奥山貴宏「32歳ガン漂流エヴォリューション」

2008-03-24 09:24:15 | Weblog
 12月に読んだ『31歳ガン漂流』の続編。前作の時は、あまりのショックにご本人も混乱していたが、今作品では悲惨だが自分のやりたい事が見えてきて、迷いがなく集中してきている。

 大学卒業後、編集の仕事にたずさわって、それからフリーライターとして独立、着々と足場を固めていた時に31歳で肺ガンである事が判明。余命2年と宣告される。
 良くも悪くも自分には文章を書くことしか残されていない、それなら出来る所までできるだけの事をやってみよう、という覚悟が清々しい。


 そんな事を書くと筆者に「わかったような事を言うな!!」と怒鳴られそうだが確かにキレイ事ではすまない。特にお金。話には聞いていたが、抗ガン治療費というのは、とても高額らしい。
 健康保険を使っても、支払い窓口で目の玉が飛び出るほどの請求額。それも、効果が感じられれば支払うかいもあるだろうが、苦しいだけ体力を消耗するだけでは…ね。

 それに「この痛みから逃れられるなら死んでもいいと思った。正気を保っているのが難しいくらいに痛いのだ」と書かれている凄まじい痛み。
 私も「死んだ方がマシ」と思えるほどの痛みを、陣痛の最後の方で経験した事があるが、せいぜい1~2時間のことだ。

 しかし、奥山さんはこの先、生きている間ずっと(間隔はあるだろうが)その痛みと闘わなければならない。モルヒネを使わない以外。


 家族やブログの読者から、ホスピスに入ったらと奨められるが筆者は断固拒否する。最後まで闘って死にたいと。
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三浦展「下流社会・第2章」

2008-03-19 09:47:05 | Weblog
 かくして金持ちはますます金持ちに、貧乏人はますます貧乏に、経済格差はどんどん広がる、といった目の前が暗くなる1冊。
 グラフを多用してなかなか説得力がある。


 若い男のデータが面白い。それを見ると年収が高いほど、妻に専業主婦を求めるという傾向と高い年収を求めるという傾向の両方が存在し、二極化している。

 例えば、男性(30~34才)年収700万~1000万の人では、妻は年収ナシでOKという人は42.4%だが、妻に年収500万以上を求める人も45.5%いる。
 驚くべき数字!!
 年収500万以上の女性って…まだまだ少ないと思うよ。

 また35才以上には見られない傾向もある。例えば、年収150万~300万の男性で妻に年収300万以上を求める人が50%いる。
 つまり、年収の低い男性が自分よりも年収の高い女性を求めている。

 人間の正直な気持ちだろうけど、こうなるとなかなか結婚は難しいかも。
 一生働き続けたい、という女性が増えているのは事実だが、それはもっともっと豊かな生活がしたいという動機が主であり、亭主や子どもの生活費を一手に引き受ける覚悟がある人は少数派だろう。
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倉知淳「過ぎ行く風はみどり色」

2008-03-14 10:08:38 | Weblog
 法月綸太郎が「天然カー」と評したという話だから、とても期待して読んだが、うーん、残念ながら期待はずれ。
 もっとも、本家本元のカーにしても「おい、そんなんありかよ」というトリックが多いので、そういった意味ではカーらしいと言えなくもない。

 世田谷の高級住宅の離れで、引退した金持ち老人が殺された。犯行時刻の少し前から雨が降って、離れの周りの足跡はハッキリ残るはずだが、離れに近づいた形跡は全くなし。
 渡り廊下には複数の目撃者がいて、誰も通っていないと証言。つまり完全な密室。

 この第一の殺人に続いて、第二、第三の殺人が起こる。しかし…雪に閉ざされた山荘というならともかく、警察が介入しているのになんで第1の殺人が解決されないのか、の方が不思議。謎でもなんでもない。

 それに比べると、第二、第三の殺人の方がよっぽどトリックらしいトリック。


 先回の「星降り山荘の殺人」では、UFOの知識をめいっぱい披露していた作者は、今回この作品では超常現象のウンチクを垂れまくり。
 こちらの方面に疎い私には、なかなか興味深かった。

 人間が感じたり考えたりする、あらゆる感情や思考は、ごく弱い電気信号の流れだ、という説は私も聞いた事がある。
 この電気信号は、個人の脳内を流れるだけでなく、微弱ながら外部にも漏れ出ていて、他の人間の脳に影響をあたえるのではないか。
 例えば、ある人物がある場所で『恨めしい』と強く思う、その人が立ち去った後でも『恨めしい』という感情の信号がそのあたりを漂う、そしてそこを通った人の脳がその信号を読み取って、『ぞっとした』『何か恐ろしいものを見た』と感じ、幽霊を見たと主張する。

 仮説だろうけど、なるほどねと思わせる。

 名探偵役の猫丸先輩は、なかなかキュートなキャラだけど、他のメンバーがちょっと魅力不足。
 特に恋愛心理描写はいただけないなぁ。ちょっとキモチ悪い。もっとあっさり出来ないだろうか?
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島田荘司「魔神の遊戯」

2008-03-09 09:53:17 | Weblog
 これも、やられましたね。見事に引っかかりました。どうして私は、いつもいつも騙されるんだろう。最初から、何かおかしい、とは思ってたんだよね。いくらスウェーデンの有名大学の教授でも、ロンドンのような大都会ならともかく、ネス湖畔の田舎で外国人が(特に東洋人が)受け入れられる訳が無いのだ。
 その違和感を大切にしていけば、犯人は分かったかもしれないのに…ああ、残念。

 ネス湖畔の小さな村で、旧約聖書の魔神が村人を、それも初老の女性を、次々と襲う。村人の身体を引きちぎり、ヒイラギの木の上、学校の時計台の上、大きな振り子時計の中、等々奇妙な場所に配置していく。
 このちっぽけな寒村も、高齢化の波には勝てず、60歳の女性でも若いんだそうだ。若いコ好きな島田荘司にしてはめずらしいが、やはりそれには理由がある。

 このお話で、ミタライは主役ではなく、脇役その3ぐらい。語り手はアル中の自称小説家バーニーと、北海のトド・ダンフォーズ署長。この2人の掛け合い漫才のような会話がまた面白い。
 この作品中、ミタライは金田一化していて、次々と殺人が起こり、全くの役立たずである。それにも理由がある。
 謎は最後に一気に解ける。

 ミタライ物にしては珍しく、会話が結構しゃれている。石岡君が登場しないからだろうか?
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