ケイの読書日記

個人が書く書評

梶井基次郎+げみ 「檸檬」(れもん)  立東舎

2018-06-30 06:25:30 | その他
 以前読んだ『猫町』と同じ立東舎の乙女の本棚シリーズの1冊。若い女性向けの絵本。若くない私が読んでます。

 すごく有名な短編小説だが、私は初めて読んだ。梶井基次郎は1901年(明治34年)生まれ。少年時代から文筆家を志すが、肺結核が悪化し31歳の若さで逝去する。短命だったので作品数は少なく『檸檬』以外、私は知らない。

 でも、素敵な話だよね。作者自身がモデルだと思われる肺病の学生が、京都の町をさまよい歩き、果物屋で檸檬を買って丸善の中に入り、画本を積み上げて檸檬をその上に置いて出てくる。
 この、丸善の棚にレモンを置いて出てくるという悪戯は、当時大流行したらしい。あはは。

 肺結核って、戦前の日本の国民病で、本当に多くの人が肺結核で亡くなっている。伝染病だけど、インフルエンザみたいに感染力が強くないせいか、それほど嫌われていないのが驚き!
 主人公の学生は、常に身体に熱が出ているので、友達に自分の熱を見せびらかすために、手の握りあいをしても嫌がられない。それとも、友人たちは心の中ではイヤだなぁと思いながらもそれを面に出さず、付き合っているんだろうか?
 この時代、肺結核は遺伝病という間違った思い込みが根深くあったが、徐々に伝染病だという知識が浸透していた。もともと基次郎の父方の祖母が結核だったらしい。昔のことだから、孫と婆さんが一緒の部屋で寝起きし、同じ食器や箸を使ったりしたんだろう。

 でも肺結核って特別なポジションの病気だよ。先回ブログにUPした『倒立する塔の殺人』の中でも、薄幸の美少女は肺病で死ぬことになっている。大腸カタルで死んだら興ざめだもの。
 結局、肺結核って50年前の少女マンガにおける白血病のようなものなんだ。私の小学校低学年の頃の少女マンガって、白血病で亡くなる美少女ばかりだった。毎回、同じストーリーだと思いながらも、毎回、同じように泣けるんだよね。

 そういえば『ベルサイユのばら』のオスカルも、最後の方で喀血してたんじゃないだろうか?
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皆川博子 「倒立する塔の殺人」 理論社

2018-06-24 12:41:48 | 皆川博子
 戦時中の都立高等女学校と、それに隣接するミッションスクールが舞台。 戦時中でもミッションスクールって開校してたんだ。驚き!! でも、キリスト教会も、戦争中、潰されなかったようだから当然か! 
 もちろん、明治の開校時にはいただろう外国人宣教師も外国人教師も、開戦前には皆、帰国させられていたし、軍部のしめつけも強くなる一方。ミッションスクールの生徒といっても、クリスチャンはほとんどいなかったようだ。
 仏教徒だが、お金があって良家の親が、娘のハクをつけるために、ミッションスクールに入学させたらしい。

 そのミッションスクールの図書館の本棚の中に、美しいノートが紛れ込んでいた。誰かが小説を書くことを願ってか、真っ白い紙面のノートのタイトルは『倒立する塔の殺人』。偶然手に取った少女が、小説を書き始め…。

 作中小説の中にまた作中小説があって…と複雑な構成。そもそも『倒立する塔の殺人』というタイトルのノートは、誰が何の目的で図書館に置いたのか、そしてチャペルで空襲にあって死んだ上級生は、なぜ防空壕でなくチャペルにいたのか、という謎を解くミステリ小説でもある。

 意外かもしれないが、皆川博子は1984年に『壁 旅芝居殺人事件』で日本推理作家協会賞を受賞している。ヘタな推理作家よりよほどキチンとしたトリックを考えるんだ。
 でも、この小説の素晴らしい所は、トリックよりも戦時中の女学生たちの美しさ…かな。戦局はどんどん悪くなり、物資もますます手に入らなくなる。密かに慕っていた相手も学徒出陣で出征していった。学校に行っても授業はなく、軍需工場で作業に追われる日々。質素すぎる食事。
 でも女学生たちは、休み時間に「美しき青きドナウ」を合唱し、ワルツを踊る。古い日本映画を見ているようです。


 皆川博子は1930年生まれなので、この小説の女学生たちと同世代。この本が出版された時は2007年で77歳。創作意欲が全く衰えないよね。驚くばかりです。デビューが遅いせいかなぁ。
 
 朝の連続TV小説『半分、青い』で、すずめやユーコがアイデアが浮かばずスランプに陥ってるけど、彼女らはマンガを職業にするのが早すぎたのかもしれない。18歳で売れっ子漫画家に弟子入りして、ひたすら描いてきた。そりゃ、マンガの技術は上達するだろうが、どうしても実体験が乏しくなる。インプットが無ければアウトプットはできない。
 昔、ジョージ秋山が「僕が政治家になったら、25歳まで創作してはならないという法律を作りたい」といったそうだが、そういう意味もあるのかな?
 でも、少女マンガの場合、年齢が高くなると感覚が古くなるというデメリットもあるしねえ。難しいなぁ。
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上野千鶴子 「ひとりの午後に」 NHK出版

2018-06-19 17:54:56 | その他
 先回、香山リカを読んだせいか、フェミニストで有名な上野千鶴子のエッセイを読んでみたくなる。でも、数ページ読んで、京都の美味しい和菓子(上野先生は学生時代、京都に住んでいた)の所で、気が付く。これって、以前、読んだことある!!って。
 エッセイって、同じ題材を何度も別のエッセイに仕立てる事があるから、それなのかな?と思い、先に進んでいくと…上野先生の生まれ育った金沢の町の事、開業医だった父親から溺愛された事、母と祖母の折り合いが悪かったこと、などなどの文章がドッサリ載っていて、既読を確信!
 これを止めて、別の本を読み始めようか…とも考えたが、数年前読んだ時とは違った発見があるかもしれないと、最後まで読む。

 記憶力が悪いので、まるで初めて読むように新鮮な感動がある。
 これって、そんなに古い本じゃない。2010年発行だから、上野先生のベストセラー『おひとりさまの老後』の後に出された本なのだ。だから、上野千鶴子を有名にしたフェミニズム運動の本じゃなくて、高齢者問題にかなりの紙面をさいている。

 エイジズム(高齢者差別)という言葉があるそうだ。アメリカのフェミニスト バーバラ・マクドナルドさんの言葉が引用されている。

 若い女たちは、あなたがどんなふうに生きてきたかを聞かせてくださいと、年老いた女のもとへライフヒストリーのインタビューにやって来る。だれも、私が日々何を感じ何をして生きているかを訊こうとしない。そう、彼女たちは、私の「現在」にではなく私の「過去」にしか関心を払わない。しかし私は「過去の人」ではなく、こうして日々を生きている、ただ高齢なだけの女だというのに。高齢者は過去の抜け殻ではない。それどころか、だれも経験したことのない年齢という日々に新しい現実を探検している最中だというのに。


 ただ、ただですよ。このバーバラさんが20歳だった時に、80歳の女性に探検家としての敬意を払っていたかは、分からない。20歳の女性は、自分が将来80歳になるという事が実感できないんだ。若いという事は、そういう事。

 自分が今、86歳の母のお守りをしていて言いたい事は「では、あなたはそうしましたか?」だ。母は繰り返し体調の悪さを愚痴り、私がそれに真面目に答えないので文句ばかり言うが、では、あなたは自分の親や舅姑の愚痴に付き合い、優しい言葉をかけてやったの? それどころか、ろくに顔もみせなかったでしょうに。
 自分がやってきたことを思えば、あきらめもつくんじゃないの?と言いたい。
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香山リカ 「今のあなたで大丈夫!」 新講社

2018-06-14 14:04:43 | 香山リカ
 不思議だ。また香山リカの本を読んでしまった。別に、香山リカに生き方を指南してもらおうと思ってる訳でもないのに、読んでスッキリするなんて一度も思った事ないのに…。
 どうして私は、香山リカの本を借りるんだろう? 暇つぶしになって害が無いから? 香山リカさんは誠実な人だと思う。すっごく多くの本を書いているが、それも収入を増やすためというより、彼女の本を読んで、少しでも心が軽くなる人がいれば幸い、と思って書いてるんじゃないか?

 1960年北海道生まれ。私より2歳下だが、ほぼ同年代と考えていい。
 リカさんは、医大生のころから文章を書いてTVにも出てたので、昔からちょこちょこ読んでいたが、若い頃はムカつくこともあった。「そんな事いったって、アナタは女医さんでエリートなんだから可能だけど、普通の人はできないよ」とかね。
 ただ、最近はだいぶカドが取れてきたと思う。(これって私の側の変化なんだろうか?)

 2010年に出版されたこの本には、リカさんのちょっと残念な話も載っている。「ピンチの時には、これを思い出して自分を励ます」という方法を彼女は実践しているのだが、そのアイテムは…。リカさんは落ち込んだ時、こうつぶやく。
 「でも、ミミちゃんに会えたじゃない」 「でも、また『しまだ屋』に行けるじゃない」
 リカさんは、イヌやネコをたくさん飼っているが、動物にはあまり好かれない。でも、ミミちゃんという黒猫だけは、帰るとゴロゴロ言いながら足にまとわりついてきて、心に小さな灯がともったような気持ちになるそうだ。
 そして『しまだ屋』というのは、近所の深夜まで営業している蕎麦屋で、落ち込んだりすると、この店に行って温かい蕎麦を一杯食べると「ああ、おなかいっぱいで幸せ」という気分になり、明日も頑張ろうという気力がわくんだそうだ。

 ああ、なんというささやかな喜びを生きる糧にしている事か!!! あまりにもささやかすぎやしない?
 リカさんって、東京医科大学卒の精神科医で、立教大学現代心理学部教授なんだよ。その人が、ニャンコ1匹、お蕎麦1杯で幸せになるなんて! なんという安上がりな人だろう!!

 自分にとっての『ミミちゃん』『しまだ屋』は何だろうか?と考える。うーーーーん。みぃ太郎はいるけど、帰宅しても寝てるし(足にまとわりつくのは、エサをねだる時だけ)蕎麦はあまり好きじゃない。うどんの方が好きだし。そういえば実家近くにあるうどん屋の「小エビ天婦羅うどん」は、すっごく美味しい。生きててよかった、という気になる。私も安上がりな女だね。
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「領主館の花嫁たち」 クリスチアナ・ブランド 猪俣美佐子訳 東京創元社

2018-06-08 14:12:43 | 翻訳もの
 1840年、アバダール館では当主の妻が若くして亡くなり、悲しみに沈んでいた。残された幼い双子の姉妹は、新しく赴任してきた家庭教師のテティに育てられ、美しく成長する。…が、このアバダール館には、恐ろしい秘密が隠されていた。

 一応、作者はゴシックホラーのつもりで書いてるんだろうが、もともと駄作なのか(失礼!)訳が悪いのか(もっと失礼!)あまり面白くない。

 屋敷の恐ろしい秘密といっても、最後に明かされるんじゃなく、最初に書かれてあるので、読者にとっては秘密でも何でもない。その250年前、つまり1590年、エリザベス1世の時代に、アバダール館では、恋人の裏切りにあった若者が自ら命を絶ち、彼の姉が、その館と一族に呪いをかけたのだ。この館の花嫁は決して幸せにならない。悲惨な死を迎えると。

 この姉と弟の幽霊2人組が、ドタバタしてるんだよね。ゴシックホラーがコメディになってしまってる。イギリスには古い屋敷がたくさんあり、こういった屋敷に棲みついている亡霊話は多いと思うけど、もうちょっと重々しく登場してほしいね。

 ただ、この亡霊2人組のエリザベス1世時代の話は、生き生きしていて面白い。1590年には、もう女王陛下はボロボロの歯をして分厚い白塗りであばたを隠したグロテスクな老女だったとか、処女王で結婚はしなかったが、臣下の若い男をせっせと寝所に連れ込んだとか、女王陛下の父親ヘンリー8世はなかなかのハンサムで、本当に女に手が早かったとか。


 1840年に双子の姉妹の母が亡くなってから10年後、再び物語は動き出す。双子の美人姉妹は、同じ男を愛し、妹がその勝者となり、彼と婚約するが、それが新たな悲劇の始りとなり…。

 これも本当にバカみたい。なんでわざわざお隣の息子と結婚するのさ?! もっと広範囲で探せばいいのに。この時代、良家の子女は学校に行かず家庭教師を付けて教育したから、こうなるのかな?
 そうそう、この物語の中に教会は全く出てこない。宗教色もない。どうして? いくらなんでも不自然じゃない? 日曜礼拝に行かないの? そこで聖職者に相談して、亡霊対策を立てるべきです。
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