ケイの読書日記

個人が書く書評

クリスティ作「満潮に乗って」

2005-04-21 15:11:56 | Weblog
 裏表紙に載っているあらすじを読んで、これはいままでに読んだことが無い、と確信をもって買ったのに最初から3P目の「細君のほうも爆風にやられて、なんと素っ裸にされてしまったんです」という所を読んで、あっこの本よんだことある、と気がついた。
 だからどういったカラクリで、どういったドンデンがえしがあるか、ということは最初からわかっていたが、それを差し引いても、おもしろい。

 これは1946年第2次世界大戦が終わったが、まだ世の中が混乱している時代の話。戦前は余裕ある暮らしをしていた一族が資産家の親戚をなくし、戦後の労働党政権になってからの重税で、にっちもさっちもいかなくなっている状態の時に殺人事件がおこる。動機はたぶん金。

 イギリスは戦勝国だから戦後はまだましだろう、と思っていたが、やはり大変なようだ。朝食のテーブルは貧しく、食料あさりに大変な手間がかかる。『配給手帳』なんてものも出でくる。戦前なら楽に暮らせた収入が、戦後半分税金に取られてしまう。地方税も家のかかりも雇い人の給料もあがる一方。
 戦前は何もしないでのんびりしていられた人が、今では1日14時間も働き続け倒れる寸前。銀行からもう預金が全然無い、と連絡があり、パニックになっている。

 クリスティの良さは作者が長生きで多作なのでイギリスの中産階級の暮らしぶりがどのように変化しているかよくわかることだ。トリックなどより、こっちのほうがうんと読み応えあると思えるほどだ。だから作品が何年に書かれたかが、とても重要になってくる。

 最後にこれもミステリ。
 私がずいぶん前にこれを読んだ時「細君のほうも爆風にやられて、なんと素っ裸にされてしまったんです」に対応してポアロが最後の謎解きで「いくら爆風がはげしくても、素っ裸になるなんてことがあるだろうか」と言う場面があったと記憶しているがこの小説にはそれがなかった。これって訳者が抜いたの?それとも私の記憶違い?!
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クリスティ作「愛国殺人」

2005-04-20 15:09:53 | Weblog
 重婚が犯罪の動機になっていることはクリスティの小説の中で多い。この小説でもそう。しかし重婚ってそんなに簡単にできるものなのだろうか。
 日本には戸籍というものがあり、結婚したら、そこに記載されるので、実質的な重婚はともかく法的には重婚できないが、イギリスの場合、結婚証明書が発行されるだけなのかしら?それだったら重婚のやりたい放題になってしまう。
 わたしは、戸籍といったものが、どこの国にもあると思っていたが、ある国の方がめずらしいらしい。だから、簡単に別人になれるのだ。それにイギリスの場合、昔から植民地政策をとっていたからインド帰りとかアメリカ帰り、と称すれば少々おかしいな、と思ってもそれで通ってしまうのだろう。

 クリスティは、なぜベルギー人で難民としてイギリスに渡ってきたポアロを主人公にしたのだろうか。イギリスは長いこと世界の中心だったので外国からの移民が増え、生粋のイギリス人たちの外国人差別もまた激しい。イギリス人同士でもスコットランド人は差別されているような雰囲気がある。またギリシャ人やイタリア人といったラテン系も低く見られている。(どうしてだろう?ギリシャ文明やローマ文明はヨーロッパ文明の礎となっているのに)ましてや有色人種に対する偏見などすごいだろう。そこらへん書き方が難しいせいか登場人物に東洋人や黒人がでてくることはほとんどない。もっともクリスティのミステリは中産階級か上流階級が舞台となっているのがほとんどなので当たり前といえば当たり前だが。

 この作品で、ワトソン役とレストレード役をやっているのが、ジャップ警部。この人、好きだなあ。他にもスペンス警部やバトル警部などが出てくるが、私はジャップ警部が一番好き。ポアロとの会話はかけあい漫才みたいでとてもおもしろい。
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クリスティ作「バートラム・ホテルにて」を読んで

2005-04-04 14:53:16 | Weblog
 TVドラマのミス・マープルシリーズ(イギリスのBBC放送)で、これを見たことがあり、強く印象に残っている。推理小説としては、いいできではないのだろうが、この小説の舞台となっているバートラムホテルの雰囲気が素晴らしくクラシックなのだ。古き良きエドワード王朝の面影を今なお残す格調高いホテル。エドワード王朝というのは、20世紀最初の頃か。イギリスが日の沈まない帝国だった頃の雰囲気そのまま。

 この「バートラム・ホテルにて」が刊行されたのは1965年。現実のイギリスは沈滞しているが、このホテルの入り口の大ロビーには称号を持っているイギリス人たちが実際に伝統的な午後のお茶を飲んでいるのだ。ちまたでは第二次世界大戦後アフタヌーンティの習慣などすっかりすたれているのに!

 バターたっぷりのマフィンやシードケーキ、燻製にしん、キドニーパイ、ベーコン、グラウスの冷肉、ヨークハム、オックスフォード・マーマレード、名前を聞いただけでは、どんなものかわからないが、でもおいしそう。

 しかし、イギリス料理ってまずいので評判らしい。だいたい、イタリア料理店、中華料理店、フランス料理店、トルコ料理店、といろいろあるのに、イギリス料理店というのを私見たこと無い。イギリス料理でまあまあおいしいのはローストビーフだけだ、とイギリス留学から帰ってきた人が言っていた。

 でもクリスティの筆にかかると、すごーくおいしそうになるのよね。同じくクリスティの「パディントン発4時50分」の中にルーシーという家政婦さんが出てきて、彼女の作る料理が私にはなじみのないものばかりだけど、素晴らしくおいしそうだった。



 この「バートラム・ホテルにて」の中にエルヴァイラ・ブレイクという、とんでもないお嬢さんがでてくる。彼女は両親の離婚で2歳の時に母親と別れ、父親とは5歳のときに死別。それ以来、親戚や知人のもとに身を寄せている。21才になると莫大な財産を相続することになっている、もうすぐ20歳のきれいなお嬢さんである。イギリスの学校を終えて今度はイタリアにある伯爵夫人の学校に入り、社交界へ出る仕上げの準備をして、イギリスに戻って来ている。しかし時代は1965年、日本なら昭和40年。そんな時代に『社交界へ出る仕上げの準備をするための、イタリアの伯爵夫人経営の上流階級子女向けの学校』なんてものが存在するんだね。

 イギリスも労働党政権下では税率がすごく高くて大変だ、という話を聞いたことがあるが、どんな時代でも余裕のある人はいるらしい。数年前ベストセラーになった「ブリジット・ジョーンズの日記」の中にも、イギリスの階級社会的な雰囲気はあちらこちらに書かれていた。 
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