ケイの読書日記

個人が書く書評

田房永子 「呪詛抜きダイエット」 大和書房

2017-07-31 10:29:49 | その他
 田房永子さんのコミックエッセイは、以前『母がしんどい』を読んでいろいろ考えさせられたので、今回も手に取った。これは…ダイエット本というより、自分のコンプレックスは何に起因しているんだろう?という自分探しの本なのかなぁ…。

 太っている事がイヤでイヤでしょうがないが、やせる行動をしない。すごい勢いでよく食べる。足りなかったらどうしようと思うから、2つ3つ買っておく。それを一瞬で食べちゃう。摂食障害の人が大量に食べた後、吐くのを繰り返すが、それはしない。
 まるで「太っていたい」と身体が思っているようだ。

 モテない人ではないと思う。ある種の男性(一人で平気、むしろ大好き)には、すごく好まれるようだ。それに、コミックエッセイの才能もある。大勢のマンガ家さんの中から、仕事を依頼され本にして、収入を得ているんだもの。
 田房さんは結婚して子供もいるけど、ダンナさんの収入を当てにしていない。むしろダンナさんより多いと思う。だから、気になるセラピーは片っ端から受けている。保険がきかない事も多く、料金は高い。
 それに、母親の過干渉が原因で実家と絶縁しているが、姑とはうまくやっているし、コミュニケーションが苦手なわけでもない。

 つまり外面と内面のトータルでいえば、平均以上の人なのだ。そんな人がどうして痩せたいと思っているのに痩せられないのか、不思議。

 (本人の解釈では)最後にその謎がとける。束縛はするが可愛がってくれた、おばあちゃん・叔母さん・お母さんよりも、幸せで自由でお金持ちで美しい女になっちゃいけない、という呪詛を自分にかけていたんだと。
 この部分がどうもよく理解できないが、いくら身内だからと言って嫉妬心はある。応援するふりをしながら足を引っ張ることは、よくある事かもしれない。


 それにしても、一緒に楽しく食事をした後、「太りすぎだと思うので、食べる量を減らして」とメールしてくる叔母さんって何者? いくら叔母・姪の間柄でも、そんなこと連絡してこないよ。この人、自分と姪は、一心同体だと思っているのだ。
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森下えみこ 「40歳になったことだし」  幻冬舎

2017-07-24 10:01:43 | その他
 タイトル通り、作者が39歳から41歳になったあたりの日常をつづったコミックエッセイ。こういったコミックエッセイって本当に人気あるね。一番知名度が高いのは益田ミリさんだろうが、この森下えみこさんも、なかなかの人らしい。なんていったって、幻冬舎から本が出せるんだし、イラストやコミックエッセイで生活が成り立つんだもの。本当にすごい!!!


 森下さんは、子供の頃からトレンディドラマが大好き。東京にあこがれていて、就職の時、東京のデパートに採用が決まったが、実際の勤務地は地元・静岡で、本当にショックだったようだ。
 地元で転職を繰り返し、副業としてのコミックエッセイも軌道に乗り始めると、思い切ってお勤めを辞め、イラスト・コミックエッセイ1本に。
 打ち合わせと観光のため東京に行った時に、ふと立ち寄った不動産屋で、気に入った物件を見つける。
 西荻窪、1K、築8年、家賃7.8万円、7.2帖の白いフローリング、台所はIH、収納も結構広い。
 ふーーーーん、自分が住むわけじゃないが、間取りを見るのは楽しい。森下さんは、その場で即決。審査が通ったら契約してすぐ住むことに。早い!!! でも、森下さんの場合、もともと実家暮らしじゃなくて、地元でもアパートを借りて住んでいたんだから、少々家賃が高くなるだけで、あとは何の問題もないんだな。


 やーーー、いいなぁ。西荻窪とか吉祥寺とか、マンガ家やイラストレーターがいっぱい住んでいそう。土地の空気が違うんだろうね。そういえば、私が敬愛する岸本葉子さんも、ここらにお住まいだと思う。 自分まで一緒に引っ越しした気分。ああ、岸本さんと同じ空の下で、同じ空気を吸う事が出来れば、幸せな気分になれるだろうな。

 森下さんが、友人の友人宅でのパーティにおよばれした後、そのパーティの主催者があまりにも何もかも持っている人(しっかりした会社で、やりたい仕事をして、素敵なマンションに家族と住む)なので、自分との違いに落ち込む場面があるが…森下えみこさんも、素敵な人生を送っていると思うよ。「みんな私より幸せにみえる」って? 大丈夫。あなたを見て、幸せそうだとうらやましがってる人間がここにいます。
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湊かなえ 「母性」 新潮文庫

2017-07-19 11:35:00 | 湊かなえ
 話の本筋とは関係ないのだが、すごく変で気になって仕方がない箇所がある。
 最初のページに新聞記事として「Y県Y市**町の県営住宅の中庭で、市内の県立高校に通う女子生徒(17)が倒れているのを、母親が見つけ、警察に通報した。**署は、女子生徒が4階にある自宅から転落したとして、事故と自殺の両方で原因を詳しく調べている。」という記述がある。
 そのつもりで読んでいたら、最後の方で、その女子生徒が大きな農家である自宅の庭のしだれ桜にロープをかけ、首をつろうとする場面が出てくる。えええ?! どっち?! それとも自宅で首をつり、枝が折れて下に落ちた身体を、県営住宅の中庭に引きずったんだろうか? でも、女子生徒の自宅は4階にはないんだよ。 単純ミス?

 女子生徒の母親は、立派な両親のもとに素晴らしい家庭環境で育ち、絵画教室で知り合った男性と結婚し、高台の小さな一軒家で暮らし、娘が生まれる。だが、火事で家は焼け、夫の実家で義父母と住むようになる。もともと大地主で資産家、ドラマのような嫁いびりが始まった。
 私は、いつ彼女が離婚して県営住宅に引っ越すんだろうと、期待しながら読んだが、最後までそれはなし。

 作者は思い込みがあって、気が付かない事もあるだろうが、担当者とか校正の人とか、気が付かないんだろうか? だって初出は2012年の単行本だし、2015年には文庫でも出ている。どうして訂正しないんだろうね。

 湊かなえさんも、売れすぎて雑になってるかも。こういった小さな事件or事故の裏側にある、表に出せない真実を丁寧に書いていくのは、湊かなえの得意とするところだが、今作品はそれが上手く行ってない。

 女子生徒の祖母(母の母)が、もやっとする。現実離れしている。一緒の毒親なのかな?
 別に子供を虐待するわけじゃない。むしろ、その反対で、愛情を精一杯注いで、大切に大切に育てている。娘もその愛情にこたえている。でも「お母さんは私の分身」なんて娘が感じだしたら…フリルの付いた虐待と言われても仕方ないんじゃない?
 日常生活でリルケの詩を口ずさむような母親なんて…私だったら迷惑だよね。
 娘の夫になる人を評して「湖のような人。たぎる情熱や一番大切な感情を深い底に沈めているんじゃないかしら?」なんて詩的な表現をするのは、越権行為。

 この女子生徒の祖母は、家が火事で焼けた時、不幸というかヒロイックな死に方をした。そんな事、できないよ!! あまりにも立派。この人と対照的なのが父方の祖母。嫁をいびり倒す。人間的、人間的。ちょっとホッとするね。
コメント (4)
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鈴木大介 「最貧困女子」 幻冬舎新書

2017-07-14 15:17:52 | その他
 ちょっと前、話題になった1冊。どうしようもなく気が滅入ってしまうタイトル。

 そもそも筆者が言うには、貧乏と貧困は違うらしい。貧乏は、ただお金がないだけだが、貧困というのは、お金が無いだけでなく家族や友人の縁がない状態。友人はいないし、家族がいても頼れなかったり、逆にお金を無心されたり…。だから、孤立無援。そういう状態。

 確かに「貧乏」より「貧困」の方が、言葉がきつい。その「貧困」よりもっと困難な状態にいるのが「最貧困女子」。

 多くはセックスワーク(売春や性風俗産業)で生活している。えっ?! セックスワークって高所得でしょ?と意外に感じるけど、昔ならともかく、今はそんなに稼げないようだ。もちろん、とてもキレイで若くて話が面白くて…という女の子たちは、とんでもない高給を手にするだろうが、容姿に恵まれず、お客とコミュニケーションが取れず、しかもさほど若くないと…ファミレスでアルバイトするより安い賃金になってしまうらしい。

 考えてみれば納得がいく。風俗の垣根がすごく低くなって、多くの若い女の子がドッサリと勤めだせば、単価が安くなって当然だよね。しかも男の方は2次元の美少女しか興味が無い、生身の女は必要ないって人が増えてるから、ますます供給過剰になる。

 色んな女性が取材されて登場するが、「恋愛体質」の人ばかり。勤めている風俗店の店員さんやお客さんと一緒になっても、幸せな家庭が築けるとは思えないなぁ。生活に困窮したシングルマザーが、生活保護を受けられるのに拒否し、出会い系サイトでお客の中から結婚相手を見つけるつもり、と言うのには驚いた。
 白馬に乗ってくる王子様は、出会い系サイトにはいないって!!

 ここはひとつ、木嶋香苗なならって、高年男性にターゲットをしぼったら?30~40歳くらい年齢差があったら、いくらブサイクでも大切にしてもらえると思う。
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村田沙耶香 「殺人出産」 講談社

2017-07-09 16:58:55 | 村田沙耶香
 芥川賞を取る前の村田沙耶香の話題作。
 近未来の日本。少子化で人口が減るのを食い止めようと、政府は「10人産めば、1人殺してもOK」という法律を作る。この時代、人工子宮があるので、男でも人工子宮を取り付け出産することもあるらしい。
 どうしても殺したい相手がいる場合、子どもを10人産んで役所に殺人届を提出する。翌日には、殺す相手に電報で通知がいく。殺される相手は拒否できない。自殺はできる。逃げても逃げ切った人はいない。1か月後、役人がやってきて連れていかれる。

 うーーーん、そんな時間がかかる方法を使わなくても、子どもがいる方がうんと経済的にお得な制度にすればいいんじゃない? 例えば、3人産めば3LDKの家賃がタダになるとか。
 だいたい、人工子宮があるなら、人工妊婦だってできて当然だし、人間は卵子と精子を提供するだけ、あとは人工子宮と保育器におまかせといった世の中になってると思う。
 
 政府は人口減に危機感を持っているという話だが、政府が欲しいのは、納税してくれる人間であって、税金をいっぱい消費してしまう人間が増えても困る訳よ。人工子宮と保育器で誕生した赤ちゃんは、成人するまで多額の税金を必要とするだろう。なにしろ親の無償の育児がないんだから。

 そういえば、タイで赤ちゃん牧場みたいな事をやってた若い日本人カップルがいたなぁ。貧しいタイ女性にお金を払って代理母になってもらい、十何人もの赤ちゃんをマンションで育てていた。カップルのうち女性は、性転換手術をして女性になった人らしく、出産能力が無い。男性の方は大金持ちのお坊ちゃんらしい。あの人たち、どうしてるんだろう?


 他にも『トリプル』『清潔な結婚』『余命』が同時収録されている。特に『トリプル』が刺激的。近未来の日本では、カップルでつきあうよりトリプル(つまり3P)でつきあう方が一般的になっているという話。
 そういえば、高校生の時、社会科の授業で、原始の世界では群婚が当り前と聞いたなぁ。男の群れと女の群れが結婚し、生まれた子供は父親が特定できないので、群れの子どもとして皆で育てたらしい。
 ということは…トリプルは先祖返りなのか?
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