ケイの読書日記

個人が書く書評

城繁幸「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか」

2008-05-28 09:10:21 | Weblog
 前作『若者はなぜ3年で辞めるのか』の続編。そうだよね。3年で辞めた若者が、今どうしているか知りたいよね。

 で、辞めた若者20人のその後が書かれている。もちろん全て成功例。こういう所に筆者のアンフェアを感じてしまう。どうして失敗例を載せないのかな? そっちの方がうんと多いと思うのに。


 新卒で会社に入社し、目の前には年功序列というレールがずっと途切れなく続いている、と思っている新入社員の皆さん。レールは途中で途切れていますよ。途中で放り出されるくらいだったら、自分で降りて自分の可能性を試してみませんか?
 とアドバイスされても、そもそも自分の可能性を信じられない人だったらどうするのか?

 高度成長期のように、長く勤めたらポストが用意されている、なんて事はもう無い事は知っている。だけど自分で下車しても、もっと不遇な境遇になりそうだ。だったら放り出されるまで会社に居よう、と考える人が大勢いるのは当たり前。

 だいたい、個人より組織でプレーした方が能力が発揮できる人の方が、割合としては多いのではないか?


 マクドナルドの100円マック。それを企画する人と、実際にお店で100円マックを作る人との間には、埋めがたい経済格差がある。
 でも、皆が皆、100円マックを企画する人にはなれないし、なったらその人たちも困るでしょう?
 お店で安いお給料で働く人がいなくなったら。

 そうなんだよね。私達が美味しいものを安価で食べる事が出来るのも、低賃金で働いてくれる人が居てこそ成り立つ。
 うーん、矛盾してますな。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

二階堂黎人「吸血の家」

2008-05-23 09:39:16 | Weblog
 すっごく面白い。今までに読んだ二階堂黎人の作品の中で、一番出来が良いのではないか?

 3件の(広い意味での)密室殺人が起こる。本家本元のカーのトリックよりも、よほど完成度の高い優れたトリック。
 カーの方は、導入部が怪奇的でどんどん引き込まれるが、肝心のトリックは「なーんだ、バカバカしい」というものが多い。しかし、この作品は舞台設定は地味だが、トリックはとても現実的。
 犯人が密室殺人をやろうと意図したわけではなく、色んな人が自分のやるべき事をやって結果として密室殺人ができあがる。
 そうだ、そういう可能性だってあったんだ、とやっと気がつく。


 ただ1つ、この作品にも難点がある。それは、黎人と蘭子の会話を通して、古今東西の推理小説のウンチクが語られるのだが、トリックまでバラしてしまう事がある!!
 例えば、カーの『テニスコートの謎』。テニスコートの中央に遺体があり、足跡は被害者のものと発見者のものだけで犯人の足跡が無い、という状況はこの『吸血の家』の第3の殺人とそっくり! もちろんトリックは全く異なっているらしい。

 その『テニスコートの謎』のトリックを本文でばらしてしまっているのである。ほのめかす程度ではなく、白日のもとにさらしている。
 ああ、こういう事は止めてほしい。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

細川貂々「どーすんの?私」

2008-05-18 11:40:02 | Weblog
 「ツレがうつになりまして」でブレイクした細川さんの自伝コミックエッセイ。てんてんさんが高校3年生の時から、アルバイトや正社員を経て、絵の専門学校へ入学する所までを綴っている。

 何をしたらいいか分からない、という若い人向けに「自分もこんなんだったよ。でも好きなこと見つけて、それを仕事にしているよ」というメッセージになっている。

 しかし、てんてんさんはヒドイ。高3の時、就職も進学もどっちもイヤ、というので卒業後、自宅でテレビ三昧の日々。さすがに親の手前、申し訳ないのでアルバイトに行くが、それも続かない。
 ハローワークの人に諭され、コンピュータの中身を作る工場のラインで働くようになる。
 事務職の方がラクだと聞いて、別の会社の事務職に転職するが、人間関係のわずらわしさにすっかり疲れ、辞めたいと思っている時、『専門学校ガイド』を目にする。そこには、絵の学校がいっぱい紹介されていた。自分の貯金でも行けそうな絵の専門学校があって…。

 その専門学校で、てんさんは生涯の夫と生涯の友に出会うことになる。このコミックエッセイはそこで終わっている。ああ、この続きが読みたいな。

 こういった社会人向けの専門学校って、やる気のある人が集まっているだろうな。でも、その中で絵の仕事に就ける人は、ほんの一握り。彼女もマンガ家デビューが27歳のときで、しばらく売れなかった。
 でも、今はこうやって結果が出せたんだもの。実力があったんだね。てんてんさんは。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

奥山貴宏「33歳ガン漂流 LastExit」

2008-05-13 10:53:24 | Weblog
 結論から書くと、筆者・奥山貴宏さんは2005年4月17日に亡くなったらしい。
 私は亡くなった事を知った後で、第1作目の『31歳ガン漂流』を読み出したから、その結末は分かっていたけど、彼のブログ等をリアルタイムで読んでいた人は、ショックだっただろうな。

 結びには、奥山さんのお父様、お母様の挨拶が掲載されている。
 奥山さん自身はそのことについて一切書いていないのだが、サイボーグ母として作品中に度々登場するお母様は2度目のお母様だそうで、とても驚いた。(実のお母様は彼が高1の時死別したらしい)
 だって本当に献身的に看護しているから。ギッシリ食料品をかばんに詰め込んで何度山形から上京なさった事か。

 お父様は、山形の方で開業医をなさっているらしい。非常に抑えた筆で淡々と息子さんの事を書かれていた。
 赤ちゃんを産んだばかりの妹さん、10歳年下の弟・秀君。
 とてもいいご家族です。

 表紙には、元気だった頃の奥山さんの写真が使われている。帯には「オレを覚えておいて欲しい」の語句が。 
 忘れないです。奥山さんの事を。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大山典宏「生活保護VSワーキングプア」

2008-05-08 11:30:09 | Weblog
 生活保護と聞いて、思い出す事件が二つある。1つは2006年北九州市で「おにぎりが食べたい」と日記に書き残して餓死した50代男性の事件。
 今の日本でこんな事が起こるなんて、と本当に驚いた。民生委員は何をしていたのだろうとも思った。男性にはお子さんが2人いるらしいが、そのお子さんに自分の窮状を訴えなかったのだろうか?

 もう1つは、これも2006年秋田県で自分の娘と近所の小1の男の子を殺害した畠山鈴香被告の事件。
 この人が生活保護を受けていると、ワイドショーで知ってびっくりした。
 乳飲み子をかかえているならともかく、健康な小4の娘一人育てているだけで、どうして生活保護を受けられるんだろう? 秋田県って基準がゆるいんだろうか?
 それに複数の男性と非常に親密な関係になれる体力があるんだったら、働けるだろうに。
 そう思ったのは私だけではあるまい。


 筆者の大山さんは、生活保護のケースワーカーを経て、現在は児童相談所に勤務。ボランティアで『生活保護110番』というサイトを運営している。
 筆者がこの本で主張しているのはこうだ。

 高齢者と障害者は生活保護を受けやすいから、さほど問題にはならない。今、一番問題なのは、若い人で生活保護を受けたいがなかなか申請が通らない人たちだ。
 ぼろぼろになって再起不能になってからやっと生活保護が受けられる。
 これを、もっと早めに受けてもらい、早めに回復してもらって、きちんとした納税者になってもらう方が、かえって国の負担は軽くなる。

 うーん、筆者の主張する事は正論だが、人間というのは安きに流れるもの。もちろん職を得て納税者になる人もいるだろうが、そのままずっと最期まで生活保護を受け続ける人も、相当数でてくるだろう。
 一度受けた生活保護を、ケースワーカーが途中で打ち切るのはなかなか難しいらしい。


 しかし…皆さん知ってた?
 生活保護費というのは、東京のような物価や家賃が高い地域では、地方に比べかなり高め。
 例えば、この本の中に事例として40歳の独身男性が出てくる。彼は30歳代で起業し上手くいった時期もあったが、持病が悪化し、にっちもさっちもいかなくなり生活保護を利用する事になる。
 家賃は別に支給、医療費無料、年金免除なので、額面月給20万のサラリーマンと同じくらいの生活ができるそうだ。
 また、4人家族の生活保護世帯の経済効果は年収400万くらいらしい。

 こりゃあ、必死になって国民年金収めなくても、困ったら生活保護を受けようと思う人が増えるのも当然だろう。
 現在の国民年金の給付水準は、満期の40年全て掛けたとしても、月額65,000ぐらいじゃないかな。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする