ケイの読書日記

個人が書く書評

森博嗣「喜嶋先生の静かな世界」

2015-02-28 17:25:46 | Weblog
 先日読んだ「キシマ先生の静かな生活」という短編の拡大版。主人公の橋場君は、そのまま森博嗣ではないだろうが、かなり近い自伝的な作品じゃないかな?
 拡大されている部分は、喜嶋先生の事ではなく、橋場君の生活がすごく詳しく書かれている。学生→修士2年→博士3年 というアカデミックな私の知らない世界は、なかなか刺激的。

 大学4年生になって、卒論を書くため講座配属になった、その時の指導教官が喜嶋先生だった。(ちょうど、萌絵さんにとっての国枝桃子先生)
 喜嶋先生は、とても優秀な研究者で、素晴らしい論文を発表して認められているんだが、身分は助手。出世には興味がなく、教授などになると時間が取られ、研究ができなくなると思っている。
 もちろん、喜嶋先生は、出張も多いし忙しいので、実際の指導は先輩院生の中村さんがやることが多い。(ちょうど、萌絵さんにとっての浜中さんみたい)この中村さんが、なかなかユニークな人なのだ。
 橋場君と初めて会ったとき、「君のあだ名はゲゲゲの鬼太郎だろう?」と言った中村さん。言うか?初対面の人間に? でも、橋場君も心の中で、「中村さんは鬼太郎に似ている」と思ってたんだから、どっちもどっちだ。
 この中村さんと週に2回ゼミを行う。他に誰もいないのだ。だって不人気の講座だもの。英文の専門書を読むのだ。うげっ!! 2人で? 中村さんは英語が得意らしい。
 (うんと先の話だが、中村さんは、喜嶋先生の紹介でアメリカの大学に職を得て、そちらで金髪美人と結婚し、幸せな家庭をもうけているらしい)


 この頃から橋場君は、研究の楽しさに目覚め、大学院に進学する。気になるのは異性関係だが…。
 理系って、圧倒的に男の方が多いから、リケジョはモテモテのような気がするが…大学にいるうちに、これぞという男を捕まえておかないと、就職してから苦戦するようだ。
 橋場君も、同じ学部の女の子から告白されるし、進学した大学院で、気のある素振りをしてくる女性もいる。
 ただ、理系の人って、男女とも淡白。半年に1度のペースで、彼女が部屋に泊まっていき、そのままゴールイン!!
 えらいよ! 頭の中が恋愛でいっぱいで、こぼれ落ちそうになってる人に理解してもらいたい。淡白な付き合いの方が、長続きするって事。
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岩波明「精神科医が読み解く 名作の中の病」

2015-02-23 11:13:32 | Weblog
 タイトル通り、小説の登場人物を対象とし、精神科医が、彼らの病気や行動を読み解こうとするエッセイ。

 私の既読の物としては12作品。
 芥川龍之介「歯車」  天童荒太「孤独の歌声」  コナン・ドイル「唇のねじれた男」  高村薫「マークスの山」  ステーグ・ラーソン「ドラゴンタトゥーの女」  島田荘司「魔神の遊戯」  夢野久作「ドグラ・マグラ」  高木彬光「人形はなぜ殺される」  江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」  テネシー・ウイリアムズ「ガラスの動物園」  宮部みゆき「名もなき毒」  夏目漱石「坊ちゃん」


 未読の物は51作品。
 その中で、東野圭吾「片想い」と島崎藤村「夜明け前」は、ぜひ読んでみたい。「片想い」は、性同一障害の元女性が、殺人事件に巻き込まれる話。「夜明け前」は、藤村の実父がモデルの主人公が、統合失調症を患い、旧家の座敷牢に幽閉され、孤独死した話。


 今更ながらだが、精神に問題を抱えている登場人物の方が、作中で魅力的だったりする。
 こういった傾向は、実生活でもあって、いわゆるボーダー(境界性パーソナリティ障害)の人って、異性から求愛されることが多いと思う。「ほっておけない」「自分が彼(彼女)を立ち直らせてみせる」といった庇護欲を、かき立てられるのかもしれない。
 ただ、初めのうちはよくても、最終的にはうまくいかない。なぜなら、付き合う相手が替われば、症状が改善する、なんていう単純なものでなく、その人本人が、変化しなければならない問題だからだ。
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津村記久子「まともな家の子供はいない」

2015-02-18 13:20:57 | 津村記久子
 津村記久子の小説では、主人公は社会人が多い。でも、これは受験生セキコ14歳が主人公なので、さほど期待せずに読んだが…いいなぁ。津村記久子の小説って、本当に私の感覚にピタッと来る。

 セキコの父親は、親から受け継いだ設計事務所をつぶしてしまって、再就職するがどこも長続きせず、今は家でブラブラしている。母親は、そういった夫に文句を言う訳でもなく、せっせとパートに出掛け家計を支える。夫婦仲は良い。
 妹は、勉強ができるので、母親から期待され、私立中学を受験するらしい(どこにそんな金があるんだ!とセキコは怒っている)周りに合せるのが上手で、家でぶらぶらしている父親とゲームを一緒にやって、たまには洋服を買ってもらっているらしい(これについても、失業者が無駄遣いするな!とセキコは怒っている)

 家の中で、セキコ1人がカリカリ怒っている。なんといっても中学3年生。家の経済状況が分かるから、そして受験で公立か私立か決めなきゃならいから、イライラが募るのだ。成績は中の上から中の中を行ったり来たり。

 夏休み、勉強しなくちゃならないが、うっとうしい父親がいるので、家にいたくない。かといって、図書館は、大学受験を控えた高校生や、居場所のない中高年のおっさんたちで、座る場所すら確保するのが大変。
 そう、図書館って驚くことに、本を読んだり借りたり勉強する人は、むしろ少数派。行き場がないおっさんたちの、暇つぶしの場所になってるんだ!! 新聞読むふりして、うたたねするおっさんたち。私もよく目撃する。どういう訳か、おばちゃんはいない。
 まあ、無料だし、冷暖房完備だから、理解できないことはないが…。

 セキコは、塾の夏期講習が休みになる盆前後の一週間、どう過ごせばいいか、途方に暮れている。でも、同じように居場所がなくて困っている中学生が、他にも大勢いるんだよね。
 塾のクラスメートも、それぞれの家庭の事情を抱えている。本の題名通り『まともな家の子供はいない』
 中学生って本当に大変だよ。家だけじゃなく、学校でも、塾でも。


 スクールカーストみたいなものは、どこでも存在する。セキコと友人のナガヨシは地味な女子だから、華やかなグループより、下位にランクされるけど、セキコは、妬んだり羨んだりしない。ちゃんと、自分のポジションを分かって楽しんでいる。
 セキコやナガヨシに、私も会ってみたいな。
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林真理子「ロストワールド」

2015-02-13 10:49:10 | Weblog
 林真理子の小説は、あまりハズレがないが…これは、残念ながら失敗作だと思う。

 バブル期に大儲けした不動産屋と結婚した瑞枝は、一女をもうけたものの離婚。そしてバブル崩壊。夫だった男の会社はあっけなく倒産し、詐欺まがいの事件を起こし、男は表舞台から消えた。
 慰謝料はもらっていたが、子どもの養育費など、払ってもらえる状態でなくなり、瑞枝は以前フリーライターの仕事をしていた事もあり、脚本家として生計を立てている。
 その瑞枝に、バブル期に華やかな生活を送った男女を書くよう、TVドラマ脚本の依頼が来る。内心、葛藤があったものの、引き受けた瑞枝は、当時、親しくしていた夫の取り巻きたちを取材しようとするが…。

 バブル期ってのは、だいたい1985年から91年と定義されるようだ。
 私は地方都市に住んでいるし、その頃は子育ての真っ最中だったので、恩恵を受けた覚えはないが、ニュースでは、株価は3万8900円まで上がり、証券会社の女子新入社員が、何百万円ものボーナスをもらったという話も聞いた。
 都市部の住宅価格がべらぼうに高騰。特に首都圏では、億ションが当たり前、東京都心では5億10億のマンションだってザラだったみたい。
 ワンレン、ボディコンの美しいお姉様方が、ディスコ(今はクラブっていうの?)のお立ち台で扇子を持って踊りまくり…。


 小説の中で、瑞枝の書いた脚本では、あまり視聴率が取れず、プロディーサーに書き直しを命じられ、当初の意図とは違うサスペンスものになってしまう。
 それと同じことが、林真理子がこの「ロストワールド」を書く時にも、起きたのかなぁ。
 最初の方は面白かったが、半ば過ぎから、やたら恋愛モードになってくる。37歳の瑞枝が、うんと年下の若手俳優と、元夫の友人だった売れっ子建築家から求愛されるのだ。SEX描写もけっこう出てくる。

 この「ロストワールド」は、読売新聞に連載されていて、読者の反応が良くなかったので、恋愛要素をたっぷり入れて、起死回生を図ったんだろうか? 担当者と一緒に。
 そんなふうに疑いたくなる作品です。
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森博嗣「今夜はパラシュート博物館へ」

2015-02-08 20:00:47 | Weblog
 8つの作品収録。
 「どちらかが魔女」 あの大御坊が!!! 萌絵のいとこで、犀川・喜多と同級生で、キンキラ女装が大好きだった、あの大御坊が、ダークスーツに茶のネクタイ、髪をサラリーマンのように分けている。だって大御坊は○○するんだもの。
 ああ、犀川先生も喜多先生も、しっかりしてね。

 「ぶるぶる人形にうってつけの夜」 これは、S&MシリーズとVシリーズ(練ちゃんや紫子さんが出てくる)の合作ですね。両方のキャラが出てくる。2人が下宿している阿漕荘は本当にぼろアパート。今では、こんなアパートないだろうね。
 それはそうと、このタイトル「ぶるぶる人形にうってつけの夜」って、「バナナフィッシュにうってつけの日」から取ったんだろうか?


 「双頭の鷲の旗の下に」 これが一番印象深かった。森博嗣の母校・東海高校がモデルだと思われるT学園に通う高校1年生S君、H君、F君。文化祭前夜のざわついた1日を描いている。
 S君はもちろん犀川少年だろう。H君、F君も、森博嗣の高校時代の友人にモデルとなった人がいるんだろう。それほど、彼らの会話は生き生きしている。
 
 文化祭の前日、S少年は「永久運動機関」と「放電して気流を起こして飛ぶUFOもどき」をせっせと作っていたが、遅れているので、こっそり教室に泊まりこむ。
 その日の夜中に起った不思議な出来事。4階の教室の一つから、光が点滅していた。どうやらモールス信号らしい。
 翌朝、廊下の窓ガラスに穴がたくさん開いているのが発見された。ひょっとして散弾銃? 学校中で騒ぎになり、警察に連絡しようか、という話も出たが…。
 これの答えは、最後に明らかになる。へーーー、物理の問題ですね。これ。
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