ケイの読書日記

個人が書く書評

益田ミリ 「永遠のおでかけ」 毎日新聞出版

2018-10-30 14:59:25 | 益田ミリ
 そう、「永遠のおでかけ」 絶対に帰って来ないおでかけ。第1章は、叔父さんの死から始まり、日々の雑感を織り交ぜながら、お父さんの思い出や亡くなった経緯などを書いている。
 それほど仲の良い父娘ではなかったようだが、それでも大切なお父さん。だんだん親が年を取り、自分はコミックエッセイストとして経済的にも社会的にも成功してくると、自分が保護者のような気持になってくるみたいね。ミリさんは、自分の子どもがいないので、なおさら。

 ガンで余命6か月というお父さんに、ミリさんは「お父さんの子ども時代の話を取材してみたいんだけど」と伝え、話を聴いている。優しいなぁ。ミリさんは。傾聴ボランティアだね。
 人間って、どんなに悟ったような人でも、自分のことを語りたいと思ってるんだ。昭和9年生まれのお父さんは、生き生きとしゃべりだす。子どもの頃、家が貧乏だったという話をよくするが、戦争の話が全く出てこないのは意外!
 大阪だから、空襲が無かったわけないのに。それとも、ミリさんが興味を示さないと思って避けたんだろうか?


 私の父は、もう20年以上前に死んでいるが、あまり話をしなかったなぁ。大正15年生まれだから、現在からすれば面白い話が色々あったろうに残念。
 そういえば、戦後、めちゃめちゃニシンという魚が獲れて、食用にするだけじゃなく肥料にし、田畑にまいていたと言ってた。その肥料の中にはニシンの卵の数の子が混じっていて、肥料として撒きながら、ポリポリとかじっていた。数の子なんて、全然高価じゃなかったって話を聞いた覚えがある。


 「最期は家に帰りたい」というミリさんのお父さんの望みで在宅医療となったが、それもほんの数日。病状は急激に悪化し亡くなった。東京にいるミリさんは、大急ぎで大阪に帰り、お父さんと涙の対面。
 そして、ここからお金の話。葬儀屋さんとの攻防が始まる。お父さんは、こういう事にお金をかけるのを嫌っていたので、できるだけ質素にしようとしたが、「全部、一番安いのでいいです」とは言えない雰囲気があったそうだ。
 そうだろうなぁ。ケチというより、父親を大切にしてないと思われるのがイヤなのだ。


 『直葬』というのが、あるらしい。葬式をせずに、亡くなったら即、火葬場に持って行く。焼く前に、お坊さんが少しお経を読んでくれるらしいが、サッパリしてるね。もちろん料金は安い。この直葬が、今では関東圏だと1/3あるそうだ。
 こういう世の中なんだね。
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恩田陸 「ブラック・ベルベット」 双葉社

2018-10-24 13:45:56 | 恩田陸
 主人公・神原恵弥(かんばらめぐみ)は、アメリカの製薬会社日本法人に勤め、1年の半分を海外出張している。ウィルスハンターというのだろうか、薬の原材料になりそうなものを世界各地で探しているのだ。
 その彼が知人から「T共和国に行くなら、この女性アキコ・スタンバーグを探してほしい」と頼まれた。T共和国では、薬や健康食品の見本市が開かれ、それの視察に行くのだが、もちろんそれは表向き。水面下では、怪しげな人物との接触を図ろうとしている。
 T共和国の見本市に到着した恵弥が、指示されたカフェに行くと、窓からアキコ・スタンバーグが歩いているのが見えた。驚き慌てて、彼女を追いかけると、彼女は通り魔に刺されて…。

 恩田陸の作品だから、ツマラナイわけないが竜頭蛇尾というか尻すぼみというか…。謎は一応解けたが、すごいアクションシーンを期待していたのに、ちょっと残念。
 これは、シリーズ第3作という事なので人気があるんだろう。キャラが立ってる。青年マンガ誌に連載されてもおかしくないぐらい。

 主人公・神原恵弥は、とっても個性的。中肉中背、引き締まった筋肉、短く刈り上げた漆黒の髪に浅黒い肌、端正な顔立ち、年齢は30代半ば。でも、最初の独白のセリフが「わざとなの?」だったので、えっ?! 女の人だっけ? と、前のページを読み返したのだ。ゲイに近いバイという設定。
 彼の双子の妹も、腹黒く口と根性が悪い弁護士だし、彼の友人たちも放浪癖があったり、エリートだけどエキセントリックな所があったり。脇役陣も魅力的。

 そうそう、恵弥には特殊な能力があり、見た物を写真のように記憶することができる。地図を記憶するのは得意で、等高線を見れば3D画像を写し出すがごとく、頭の中に実際の風景を思い描くことが可能。
 人物でも、正面、右側、背後、左側、上から、下からの写真が複数あれば、頭の中でその人物が立ち上がってくる。スゴイ能力!
 こういう登場人物は、恩田陸作品によく出てくる。

 シリーズ第1作『MAZE(メイズ)』 第2作『クレオパトラの夢』両方とも双葉文庫で出てるらしい。絶対読もう!

P.S. 私、一番最初に「恵弥」を「えみや」と読んでしまったので、どうしても「めぐみ」とは読みづらい。一度頭に入っちゃうと、面倒くさいよね。
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芦辺拓 「奇譚を売る店」 光文社

2018-10-18 10:49:54 | その他
 「また買ってしまった」6話すべてが、このフレーズで始まる。まるで昔話が「今は昔」で始まるみたいに。
 では、何を買ってしまったかと言うと、これが古本。古本屋巡りが好きな、さほど売れてない作家が、純粋に古本を好きで、あるいは自分の小説のネタがないかと、このうらぶれた古本屋に吸い寄せられていく。

 『帝都脳病院入院案内』『這い寄る影』『こちらX探偵局 怪人幽鬼博士の巻』『青髯城殺人事件 映画化関係綴』『時の劇場・前後編』『奇譚を売る店』 6話ともなかなかそそられるタイトルではありませんか!
 私は『こちらX探偵局 怪人幽鬼博士の巻』が一番印象に残った。ストーリーはこうだ。小説の主人公である「私」は、いつもの古本屋で、古い少年漫画雑誌のバックナンバーをまとめ買いする。懐かしかったのだ。子供の頃、このちょっとマイナーな雑誌に連載されていた『こちらX探偵局』という漫画が面白くて夢中で読んだが、次回が気になりながらもそれきりになっていたのだ。その続きが読みたくて大枚をはたく。そして…。

 作品としての出来がいいというのではなく、私の子供の頃のマンガ雑誌の雰囲気がよく出ていたから。作者の芦辺拓のプロフィールを見ると1958年生まれ。ああ、やっぱり!私と同い年だ! (ちなみに大阪府生まれで同志社大法学部卒とある。これって有栖川有栖とドンピシャ!同じじゃない?作風はだいぶ違うけど、交流はあったんだろうか?)

 当時(昭和40年代をイメージ)の少年漫画雑誌って、今みたいに多くなくて、隅から隅まで丹念に読んだ覚えがある。
 私は「マーガレット」「りぼん」派だったけど、6歳年上の兄が読んでいた「少年マガジン」が家にあって、「巨人の星」「あしたのジョー」もリアルタイムで読んだなぁ。マンガ雑誌ってマンガだけでなく読み物も充実していた。それもちゃんとした小説じゃなくて、「ピラミッドの秘密」とか「ミイラの作り方」とか「世界の名探偵」「推理小説のトリックあれこれ」など、子どもの心をわしづかみにして離さない読み物がたくさん載っていた。
 当時は単行本というのがあまりなかったので、マンガが大大大好きという子は、雑誌の自分のお気に入りの連載漫画を裁断して、自分でひもで縛ってまとめ、繰り返し読んでいた。

 古き良き時代ですなぁ。
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三浦しをん 「あの家に暮らす四人の女」 中央公論新社

2018-10-12 11:58:45 | 三浦しをん
 三浦しをんの小説って、拍子抜けするほど、女のドロドロしたところ毒々しい所が書かれてない。三浦さんの小説を全部読んだわけじゃないから断定はできないが、代表作の『舟を編む』にしても、登場人物があまりにもサラリとしていて、驚かされる。この人自身が、きわめて恋愛に対して低体温の人なんだろう。
 そういう部分は、群ようこさんを思い出すなぁ。
 その反対に、女の内面のいやらしさをMAXに書く作家さんもいて、それはそれで自分の心を覗き込まれているようで、読むのは結構シンドイ。

 『あの家に暮らす四人の女』というタイトルなので、若草物語や細雪のような4人姉妹を思い出す人も多いだろうが、この小説内では、牧田家の母親と娘、娘の友人とその後輩という4人組が主要キャスト。(作者は、細雪をイメージしてるみたい)
 JR阿佐ヶ谷駅から徒歩20分の閑静な住宅街。150坪の庭のある豪邸に4人は住んでいる。しかし、なんといっても戦後すぐ建てられたので、古くてボロい。ただ、部屋の数だけはあるので、娘の訳ありの友人たちが転がり込んできた。

 ストーカー事件や強盗押し込み事件などはあったが、もっぱら4人の日常生活を淡々と記述してある。それに牧田家の母親のダンナ(つまり娘の父親)が家を出て行った経過がからめてあり、ハラハラもドキドキもせず、ゆったりと読める。陽だまりの中で、うつらうつらしながら読むのに最適。


 でも、こういった血縁で無い人が混じった女の共同生活って、一種のユートピアだよね。
 古くて隙間風は入るが都心に近い一軒家に下宿。庭が広く、家庭菜園をしているので新鮮な野菜が食卓に並ぶ。家賃は友達価格。炊事や掃除は当番制。洗濯は各自が自分の分をする。仕事から帰ってくる時、誰かがいて「おかえり」と言ってくれる。食事やお風呂の準備は当番の人がやる。翌日が休みだと、誰かの部屋に集まってガールズトーク。ほんっと!!夢みたい。

 作中で娘が物思いにふけるシーンがある。「先のことなど、誰にも分からないのだから、いずれ1人になってしまうかもしれないなどと、不安や怖れに溺れるばかりなのは馬鹿げている。いま、友達とそれなりに楽しく暮らしていて、季節は夏だ。その幸福と高揚をささやかに満喫しない手があるだろうか」
 なるほど、至言ですなぁ。
 初出を見ると『婦人公論』の連載。やっぱり、中年の女って、こういう夢を見たいんだよね。私も含めて。
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出久根達郎 「セピア色の言葉辞典」 文春文庫

2018-10-07 12:26:00 | その他
 今では使われないが、昔はよく使った言葉の語源とか使用法、意味の変遷など、古本屋店主の筆者が、エッセイ風にまとめてある。

 一番最初から衝撃を受けた。「ぼる」これって、私は最近の俗語だと思っていたけど、結構古いんだ。明治の西洋史学者滞欧日記に、この「ぼる」が使われているらしい。「明治32年11月28日、先頃マルセーユにて同行者と一緒に写したる写真は、7枚にて80フランという非常なるぼられ方をしたるが…」  へーーー、当時のエリートが日記に書いているんだ。
 「むさぼる」から来てるんじゃないかと、筆者は推測する。

 それから「現ナマ」。現金をギャング風に言うとこうなる。どう考えても戦後の言葉だと思ってたが、江戸時代からあるらしい。ビックリ!!! 1800年代ごろには、すでに常用されていたようだ。
 しかし…時代劇で「現ナマで百両」なんて悪代官が越後屋に要求してたら、時代考証ちゃんとしろ!と怒る視聴者がいるだろうね。

 こういった分かりやすい文章ばかりじゃなくて、しっかり読んでいるつもりでも、私が物を知らないからだろう、意味が分からないエッセイがある。例えば、業界用語や花柳界言葉。まあ、業界用語の符丁など、意味が分からなくても全くOKだが、花柳界の言葉なら、意味を知りたい。でしょ?
 そうそう、「訳知り」は、一般的に使われている言葉だが、もともとは「情事に通じている人」を指すんだそうだ。遊郭で使われだした言葉らしい。
 そういえば「訳あり」の訳って、雰囲気的に色っぽい事情を想像しちゃうよね。

 また筆者は猫が好きなので、猫の話もよく出てくる。 
 ある時、寒川猫持という人から、歌集が贈られたそうだ。その中に、猫の歌ばかりが載っている。こんな歌がある。
 「食っちゃ寝て 起きりゃまた食い十六年 ドラえもんにもバスにもならず」   笑っちゃいました! 私も、みぃ太郎の川柳を作ろうと思っているが、なかなか難しい。猫持さんのようにはいかない。
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