ケイの読書日記

個人が書く書評

島田荘司「溺れる人魚」

2009-04-29 14:50:48 | Weblog
 最近(2004年以降)の中篇4篇を収めた作品集。
 初めの3篇のワトソン役は、ハインリッヒ・フォン・レーンドルフ・シュタインオルト。フォンが付いているという事は、昔は貴族だったんだろうか? ドイツ語圏の科学ジャーナリストである。
 作品は推理小説というより「ちょっと医学的知識をまぶした読み物」というカンジですね。

 ウプサラ大学に御手洗が行ってからの彼が取り扱う事件は、えらく科学的背景がある物が多く、とてもじゃないが石岡君の手に余ると、作者の島田荘司は考えたのだろう。さっさと石岡君をクビにして、ハインリッヒをワトソン役として御手洗にあてがった。

 御手洗・石岡コンビの時は、事件そのもの以上に2人の掛け合い漫才が面白かったが、ハインリッヒとのコンビではそれは無理。なんだか寂しいね。

 私は御手洗物を最初から順番に読んでいないし、未読の作品が多いせいか、えらく唐突に御手洗がスウェーデンに行ってしまった様な気がしているが、そこら辺のいきさつを詳しく書いた本があるんだろうか?もしあるなら、何を置いてもまずそれを読みたいね。
 誰か知っていたら教えてください。

 さて、最後の『海と毒薬』は、石岡君が御手洗に女性読者からの手紙を紹介している手紙。『異邦の騎士』のファンにはたまらない魅力を持った作品だろう。
 横浜に住んでいる人だったら、彼ら彼女らの歩いた道や訪れたお店を巡ってみるのも良いかもしれない。
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角田光代「エコノミカル・パレス」

2009-04-24 16:03:08 | 角田光代
 前に読んだ『対岸の彼女』が、すごく読み応えがあったので、続いて角田光代を読んでみる。

 34歳、女性フリーター。年下の同棲相手は失業中。うだるような暑さだというのにエアコンは壊れ、お金がないので買い替えも修理も出来ない。
 生活費の負担はどんどん増える。
 おまけに旅先で知り合った男が会社を辞め、ガールフレンドを連れて転がり込んでくる。もちろん一銭も払わない。

 こんなどん詰まりの生活の中で、彼女はハタチの男の子に恋をした。しかし当たり前だが全く相手にされず…。

 主人公はバブル世代。といってもジュリアナ東京のお立ち台で扇子を手に踊っていた訳ではないが、それなりに良い思いもした。
 割の良いアルバイトはいたる所に転がっていて、フリーターでも不安はなかった。
 しかし…景気が悪くなってくるにつれ時給のいいアルバイトは激減。面接に行っても不採用になる事が多くなった。
 それは年下の同棲相手も同じ。1年たったら正社員にしてくれるという話で勤めた広告代理店を、同僚や上司との摩擦で辞め、3ヶ月先に支給されるという失業保険を待ちつつ家でゴロゴロしている。
 仕事を探しに行く気配はない。
 雑文書きのアルバイトもしている彼女と、同棲相手は6畳プラス3畳のアパートでずーっと顔をつき合わせている。


 あーーー、本当にどん詰まりですね。私は彼女がいつ家から逃げ出すだろうと思いつつ読んでいたが、最後までおなかの中は不平不満で一杯だが、家出はしなかったね。エライです。

 読んでいて気が滅入ってくるけれど、不思議なユーモアもあり面白い作品。
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角田光代「対岸の彼女」

2009-04-19 11:34:49 | 角田光代
 近くで古本市があり、ぶらりと立ち寄った時、目に付いたので買ってみた。

 専業主婦・小夜子と、ベンチャー零細事業の女社長・葵との友情と亀裂を書いた第132回直木賞受賞作。

 それぞれの中学高校時代の話が書かれていて、自分にも心当たりがありすぎて、読んでいて苦しい。

 35歳の女社長が自分の子どもの頃を述懐してこう語る。
「お友達がいないと世界が終わるって感じ、ない? 友達が多い子は明るい子。友達のいない子は暗い子。暗い子はいけない子。そんなふうに誰かに思い込まされているんだよね」

 その通り、でもそれは35歳になって初めて口にできる事であり、中学・高校時代にそう感じていても、一生懸命グループから離れないように浮き上がらないように細心の注意を払って行動していた自分を思い出す。
 世界の各地で紛争があり、大勢の人が死んだり傷ついたりして大変な事になっており、自分の今の生活がいかに幸せなものか、頭の中では理解しているけど、でも、この狭い交友関係が自分にとって全てに優先するような気がしていた。その時は。

 友達が多くて楽しそうにしている人も…それなりの苦労があるんだとわかったのは、学校を卒業してしばらくしてからです。

 いじめにあって遠くの高校に引っ越した葵と、恵まれない家庭のナナコ。2人の友情は切なくて胸を打ちます。ナナコが今、どんな生活をしているか分からないけど、葵との1年半を懐かしく思い出す事があるんでしょうか?
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島田荘司「摩天楼の怪人」

2009-04-14 10:47:01 | Weblog
 高層の摩天楼が舞台なので「水晶のピラミッド」を何となく思い出した。あれより現実的な話です。

 1969年、ミタライがコロンビア大学助教授だった時のこと、という設定。
 ミタライは「将来のノーベル賞有力候補」という触れ込みで、瀕死の大女優に紹介され、彼女の50年前の事件の謎を解いて欲しいと依頼(挑戦?)される。

 ミタライが日本でしょぼくれた占い師をやる前は、アメリカで大学の先生をやっていたという話はどこかで読んだことがあるので違和感は無かったが、この時のとても社交的なミタライには驚く。
 本文にはこう書いてある。

 「妙に華やかな気配を発散させる男で、だから私は演劇関係者なのだろうと思った」

 ええええ????これって御手洗潔の事?! 「パラレルワールドのミタライ」じゃなくて?
 最後までこんなカンジ。明るく華やかで生命力に満ち満ちているミタライ。最後にはなんと!!ロッククライミングまでやってしまうのだ。

 いったい何が彼にコロンビア大学助教授の職を捨てさせ、日本に行かせたのか?
その謎の方が、大女優50年前の謎より興味あります。だってミタライこの時まだ20代の半ばのはずだよ。うーん、何があったんだろうね。

 島田作品には珍しく、カラーイラストやマンハッタン島の地図も付いている。こういうのを見ると、一週間ほどマンハッタンの高層ホテルに滞在し、夜景を楽しみたいなぁとつくづく思います。
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群ようこ「半径500Mの日常」

2009-04-09 09:00:41 | Weblog
 また群ようこの本を買ってしまった。BOOK OFFで一度に3冊。やっぱり読みやすいからね。初出一覧を見ると1980年代の後半。まだバブルがはじける前。そうです。「ちょっと古臭い。え?これ何年の?」と思うところが随所にあるエッセイです。

 群さんが日本人には珍しく、英語のヒアリングが得意だとは知っていたが、その理由がこの本の中の一節『女ガキ大将、天才ピアニストへの夢があえなくついえたソナチネの日々』で判った。
 ちなみに群さんは大学時代の夏休みアメリカへ行っている。そこでバイト先のおばさんたちの英語が聴き取れるようだから、私は読んでいて驚いた。
 また別の本で、ああ日本人の喋る英語も聴き取れなくなったといった嘆きが書かれていたが、ここでも英語のヒアリングに自信を持っていたことがわかる。

 群さんは耳がいい。なぜなら小さい頃、ピアニストになりたいとハッキリした夢を持ち、4歳か5歳からピアノのレッスンに通っているのである。
 親に強制されたわけではなく自分から喜んで。

 彼女がピアノを止めてしまったのは手が小さく楽譜どおり弾けなくなってしまったからである。
 しかし、エッセイの中で…ソナチネを弾きハノンの音階練習をしていると…なんて書かれてあると本当にうらやましい。
 結局ピアニストにはなれなかったが、その耳は英語に生かされている。

 私は耳が悪い。日本人はだいたいがヒアリングは苦手だが、その中でも私は突出して苦手である。
 声が大きいのは耳が悪いから。周囲の皆さん、許してください。
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