ケイの読書日記

個人が書く書評

萩尾望都 「ポーの一族・春の夢」「ポーの一族・ユニコーン」 

2019-10-28 14:25:44 | その他
 2年前、「ポーの一族」の新刊が40年ぶりに出ると話題になった時、私、買わなかったんだ。絵柄もだいぶ変わっているだろうし、読むと昔のイメージが壊れるかも…とか思って。そもそも図書館には行くけど、本屋にはあまり行かない。

 でも、先日パルコで『ポーの一族』の展覧会があって、当時の原画が出展されるって聞いて行ってみた。そこで知ったんだけど、去年宝塚で『ポーの一族』を舞台化したんだってね。だからヅカファンの母娘でパルコは一杯だった。この2冊も、そこで買った。

 原画を見ると…一瞬であの頃にタイムスリップ! 中高生の時に夢中で読んだなぁ。もともとアイドルやバンドにさほど興味を持たなかった私は『ポーの一族』と『トーマの心臓』の物語世界にどっぷりハマって、セリフを暗記するほど読んでいた。
 『ポーの一族』の方が人気は高かったが、私は『トーマの心臓』の方が好きだったなぁ。ユーリ、ユリスモール。あれから40年たって、彼はどこかの神学校の校長にでもなってるんじゃないか? 一つ年上だけど同年のオスカー、彼はどうしてる? 冒険家?カメラマン? 結婚して子供に恵まれ良い父親になっていてほしい。それから、トーマそっくりのカワイ子ちゃん、あの子の名前はなんていったっけ? まあいい。まさに、中高生時代の私のバイブルだった。

 40年ぶりの新作第1作「春の夢」は、第2次大戦下のイギリス。空襲のロンドンを離れ、西部の辺鄙な島に滞在していたエドガーとアランは、ナチスドイツから逃れてきたブランカという少女と出会う…。
 時代背景も舞台も私好みだが、どうも物語世界に入り込めない。作者の萩尾望都も40年ぶりという事で、あまり登場人物たちが上手く動いてくれず、もどかしいんだろう。
 2作目の「ユニコーン」になると、がぜんキャラが生き生きと動き出す。そうそう、アランってこういう我儘で自分勝手な子だったとか、エドガーって冷徹、特に現代に近づいてくるとますます冷酷になる。激しい言葉で人を攻撃することも。でもアランには優しいけどね。

 他にも、ファルカやブランカ、バリーなどなど、新キャラが続々出てくるけど、あまり興味はない。そもそも私はポーの一族の出自など、知りたいとは思わないよ。でもアランの復活は…どうなるんだろう。考え出すと苦しいね。
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「金時計」 ポール・アルテ 平岡敦訳 ㈱行舟文化

2019-10-23 09:53:47 | 翻訳もの
 名探偵オーウェン・バーンズシリーズ作品。表紙に、カバーイラストは著者直筆!って書いてある。イラストは図書館というより誰かの書斎みたい。本だけでなく、いろんな置物・小物があって、素敵な書斎のイラスト。ポール・アルテって多才なんだ。そういえば前作のあとがきで、ギターも堪能とか書いてあったっけ。すごいなぁ。

 1901年の中年女性殺害事件。1911年の女性実業家殺人事件。1991年劇作家アンドレの奇妙な体験。それら3つが絡み合って物語は進行する。
 メインの事件は1911年の雪に閉ざされた森の中で、ヴィクトリア・サンダースの死体が発見された事件。容疑者は、彼女の招きで山荘に集まっていた人々。ヴィクトリアのろくでなしの弟、有能な社員、その妻、その美人秘書、ヴィクトリアのインド人執事。
 動機は色々あるようだが、最大の謎は、彼女の死体の周りは雪で覆われ、被害者の足跡しか残っていなかった。つまり雪密室。だからこそ、オーウェン・バーンズの出番なのだが。

 最終的には、きれいに図解で謎は解かれるが、ちょっとミステリアスな雰囲気が足りないね。物語としては1991年の事件の方が面白いと思う。
 
 劇作家アンドレはスランプに陥っていた。そこから抜け出すために、子供の頃観たホラー映画を是非ともまた観たいと熱望していた。その映画は、少年時代の彼に強烈な印象を残し、劇作家としてデビューする彼に、多大な影響を与えた。
 しかし、なにせ子供の頃の話。しかも予告編だけ観ただけなので、探してもみつからない。
 うろつく人影、雨に打たれた屋敷、恐怖におののく女、ゆっくり回るドアノブ、らせん階段…etc

 しかし読者はだんだん不安になってくる。劇作家がここまでこの映画に執着するのは、ただ自分の創作の源泉となっている作品を観たいだけなのか、本当はもっと他の理由が(本人も意識していない)理由があるんじゃないか。
 劇作家は、映画マニアの哲学者モローを訪ね、彼の精神分析を通じて、少年時代に立ち返っていく…。

 1901年の事件と1911年の事件が繋がってるだろうことは予想がつくが、それが1991年の事件とどう繋がるんだろうと、色々頭をひねる。だって80年90年の隔たりがあるんだものね。
 それを、あっと驚く東洋の思想が結び付けて…。舞台がインドだったら分かるけど、イギリスだから驚く。キリスト教世界にも、こういった思想ってあるんだろうか?
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「猫のエルは」 文:町田康 絵:ヒグチユウコ

2019-10-18 08:44:22 | その他
 文を書いた町田康さんも、絵を描いたヒグチユウコさんも、両方とも有名な人なので名前は知っていたが、読んだり見たりしたのは初めて。これで長年の宿題が済んだような気になってる。
 
 猫をモチーフにした短編が5編収められている。その中の一つ、『ココア』が、とても素敵。
 ある男が大酒を飲んでひっくり返り、目を覚ますと、猫の国にいた。そこでは、人間は猫ほどの大きさに縮小し、言葉はなく、にゃあにゃあと発声するだけ。かわりに猫は、少し変だけど人間の言葉をしゃべり、この世界の主人である。
 人間はノラ人間として、公園やマンションの植え込みやビルの隙間ですきっ腹を抱え、ゴミを漁る。猫たちに捕まり虐待される人間もいる。
 その男も、乱暴な猫に捕まり、いじめられ、もう死ぬんだと意識が遠のいていったが…。目が覚めると別の猫に助けられていた。
 ココア。男が人間の世界にいた時、男と22年間一緒に暮らした猫である。ずいぶん前に死んでしまったけど。

 猫の恩返し。(そういえばジブリにそういう名の作品があったような。観てないけど。)
 
 ココア猫が、冷蔵庫を開け(どうやって開けるんだ)笹かまぼこを取り出し、男に食べさせる。この笹かまぼこを持った猫のイラストが、かわいい。しかし、そうした平穏な暮らしは続かなかった。
 
 マンションの管理人のおっさん猫がやってきて「このマンションは、人間の飼育禁止だから、すぐ処分してくれ。できないならこっちでやる」と通告したのだ。
 男に近づく管理人のおっさん猫。その時、おっさん猫めがけて、黒い矢のようなものが飛んだ!ココアが体当たりしたのだ! 頑張れ、ココア!!!
 男に「玄関のドアを閉めていきますが、何があっても絶対に開けないでください」といって闘うため、管理人のおっさん猫を追いかけていくココア。なんてカッコいいんだよ。まるで高倉健みたいじゃないか。
 不覚にも、私はここで、すこし涙ぐんでしまった。

 最終的に男は、元の世界に戻る。でも、こういう猫の恩返しの話を読むと、我が家の13歳のみぃ太郎の事を想う。ああ、来世でみぃ太郎とまた会う事はあるだろうか?恩返しを期待しちゃダメ?
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畑野智美 「神さまを待っている」 文藝春秋

2019-10-08 09:22:08 | 畑野智美
 久しぶりに本を読んで真剣に考えた。私が、この人の立場になったら…どうするだろうって。

 文具メーカーで派遣社員として働いていた26歳の愛は、派遣切りにあい失業する。家賃が払えなくなり、ネットカフェ難民に。マンガ喫茶で寝泊まりして、菓子パンでお腹を満たし、日雇いのアルバイトを始める。しかし生活は苦しくなるばかり。
 困り果てた愛は、マンガ喫茶で出会った、同い年の女の子と『出会い喫茶』でお金を稼ぐ道を選ぶ。

 うーん、この愛さんは静岡出身で、実家では母親が亡くなり父親が再婚したので、なかなか帰りづらいのだ。父親との仲も悪い。頭を下げて拝み倒せば、小額のお金だったら用立ててくれるかもしれないが、そうはせず、ネットカフェ難民になる選択をした。
 でも、客観的にみれば、仲が悪いといっても父親は、大学4年間の学費と入学金・授業料そして家賃を払ってくれた。800万円はくだらないだろう。それを考えれば、食費や水道光熱費・衣料費といった生活費を自分で工面するのは仕方がないだろう。
 愛さんには、奨学金の返済義務はないので、他の人と比べてもラクなはずだ。

 就職氷河期で、卒業間際まで就職活動をしたが、正社員として就職できなかった。派遣切りにあい、職安でアルバイトではなく正社員の職を探すが、ない。あっても面談で落とされる。90日間の失業保険の出ている時は正社員を探すのもいいが、切れてしまうのに正社員に固執するのは…どうかねぇ。
 若い女性の場合、派遣も正社員も、条件的にはさほど差が無いように思えるけど…。むしろブラック企業に正社員で入ってこき使われるより、派遣でキッチリ定時に帰り、ちょっとアルバイトした方が、心身とも健やかでいられると思うが。

 愛さんはコミュニケーションに難がある訳じゃなく、友人も多い。(で、結婚式に多くよばれ、ご祝儀貧乏)だから、友達に「ルームシェアしたい子、いないかな?」「短期のアルバイト、ない?」などと、声を掛けてみれば良かったのに。
 見栄はって「文具メーカーで働いてたんだけど、貯金もあるから、しばらく休む。海外でも行こうって考えてる。」なんて周りに言うから誰も助けてくれないんだよ。探せば、ルームシェアしたい子、必ずいると思うよ。

 先ほど実家の話を書いたが、愛さんの母親が生きていても、20代後半の独身女にとって実家はそんな安泰な場所でない。相手もいないのに「ねぇ、結婚はどうするの?」ぶらぶらしていると「いい加減働きなさい。ご近所の目が…」と小言の嵐。子どもやダンナを連れて帰省しているならともかくね。
 そもそも地方には仕事が少ない。東京23区で気に入った仕事がないのに、地方にある訳がない。
 そして愛さんは、母親と大喧嘩して家を飛び出し、東京に舞い戻ることになるだろう。
 
 正社員になれればいいけど、なれなくても長く働き続け継続的に収入を得て、出費を抑える生活を心がけるのが良いんじゃない?
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中野京子 「怖い絵2」 朝日出版社

2019-10-04 08:29:51 | その他
 前作の「怖い絵」が評判良かったのだろう、続編が出ている。『レディ・ジェーン・グレイの処刑』みたいな首切り場面を描いた作品は確かに怖いが、えっ!?この絵のどこが怖いの?という作品もいっぱいある。

 ピカソ『泣く女』。有名だからほとんどの人が知っていると思うが、怖いというより滑稽な感じがするなぁ。
 キュビズム(立体をいったん分解し、さまざまな角度から再構築する描法)って本当にわけわからん。そんなことして何の意味がある?! それだったら、顔の向こう側に鏡を置いて、その鏡の中に描くという構図にすればいいのに。
 写真が一般的になり、写実ではどう考えても負ける絵画の悪あがきなんだろうか? 反戦画のゲルニカも、私には悲惨さは伝わってこない。全然分からない。分かっている事は、若い頃のピカソはハンサムで、女性にすごくモテたという事。その上、絵描きなんだから最強だよね。ハゲたオッサンになっても、おじいさんになっても、女をとっかえひっかえできた。ずいぶん自分勝手な人だったらしいが、そこが良かったんだろう。

 カレーニョ・デ・ミランダ『カルロスⅡ世』を初めて見た。一目見ると分かる。この人、長くないなって。若いし、素晴らしく豪華な服を着て胸には勲章もぶら下げ、腰には剣を差しているが、宮廷画家が5割増しに描いても、顔色は悪く無表情。不治の病に罹っているような風情。背後に、大鎌を持った死神がいてもおかしくない。

 新しい下賤の血を王家に入れるより、古く濁った高貴の血を選んで血族結婚を繰り返していたから、こうなっちゃうんだろうね。
 なまじっかスペインが大国になったので、プリンセスなら誰でもいいという訳にはいかない。格下すぎる王室や、非カトリックの国の王女とは結婚できないんだ。
 いとこ婚ならまだしも、叔父姪・叔母甥の婚姻を何代も繰り返すと、呪われた子が生まれる。

 日本の平安時代の貴族たちも、異腹の兄弟姉妹だったら婚姻OKだったらしい。すごいなぁ。でも実際、奔放な寝所のおかげで、父親が違っている事も多く(失礼!私の勝手な解釈!)それほど弊害は多くなかったかも。

 江戸幕府などは「腹は借り物」といって、朝廷からお嫁に来た高貴な女性には子どもを産ませず(朝廷の発言力を強めない)下賤の娘を高位の武家の養女にして、大奥に入れていたという。この方が血の澱みを防げたんだろう。

 それにしても、スペイン王家のお妃さまは、真面目な人ばかりだったんだね。平安時代のお姫様のように、寝所にちょいちょい男を招き入れていれば、丈夫な子が生まれていただろうに。
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