ケイの読書日記

個人が書く書評

佐野洋子 「役にたたない日々」

2017-03-29 10:20:04 | 佐野洋子
 1938年生まれの佐野洋子の、2003年秋から2008年冬までの日記風エッセイ。全編、体調が悪いと騒いでいるが、佐野さんは50代は不安神経症で苦しんでいたし、60代になって乳がんの手術をし大変だったみたい。かといって闘病記ではない。闘っているのは、病ではなく老い。

 佐野さんは、コーヒー屋へ朝飯を食べに行く。セルフサービスのトレーを持ってソロソロ歩く。壁を背にして6個くらいテーブルがあり女が座っていた。全部ババアだった。4人はスパスパ、タバコをすっていた。全員、遅めの朝飯らしかった。
 昔はこんなバアさん、居なかった。きっと全身、独り者のオーラが立ちのぼっているだろう…と佐野さんは書いている。私じゃない、佐野さんが、ババアババアと書いてるんだよ。

 北軽井沢の別荘の思い出も、あちこちに出てくる。二度目の結婚の時のダンナ(谷川俊太郎)が北軽井沢に別荘を持っていて、気に入って何日も滞在していた。離婚して後、その元ダンナの別荘の隣に、もっと大きくて立派な別荘を建ててしまった佐野さん。すっごいなーーー!

 ガンで体調がすごく悪かった1年ほどは、韓流ドラマで乗り切ったそうだ。熱が冷めた後で考えると、ありえない設定らしい。やたらと三角関係、四角関係で、ストーカーが出てきて、ヒロインは恋人とストーカーの間を行ったり来たりする。
 財閥の御曹司やご令嬢、その相手は極貧。身分違いの恋。そして全員、執念深い。さすが恨の国。

 佐野さんのお母様は、90歳過ぎで高齢者向けの施設に入っている。昔はいがみ合った母子だったらしいが、お母様はすっかりボケてしまい、娘の洋子さんの事もよく分からないらしい。佐野さんが「母さん、私しゃ疲れてしまったよ。(中略)天国に行きたいね。一緒に行こうか。どこにあるんだろうね。天国は」と言うと、お母様「あら、わりとその辺にあるらしいわよ」
 そうそう、幸せの青い鳥はすぐそばにいる。天国だって、その辺にあるにちがいないよ。

 佐野さんは、医者から余命2年と言われた後、近所のジャガーの代理店に行って、イングリッシュグリーンの車を指さして、即金で買った。今まで、国産車しか乗らなかったのに。本当にかっこいい人でした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

香山リカ 「老後がこわい」

2017-03-24 10:44:16 | 香山リカ
 『もう親を捨てるしかない』という幻冬舎新書を探していたら、隣にこの『老後がこわい』講談社現代新書があった。香山リカだから、こっちを読もうと借りてきた。
 
 香山リカ氏。1960年生まれなので、私より2つ年下。という事は…立派な50代。未婚で子ナシだけど、なんといっても、ちゃんとした精神科のお医者様で大学教授。それにTVではコメンテーターも務めているし、著書も多数。一般の人より、うんと恵まれている人生だと思うが、それでも先々いろいろ考える事はあるんだろう。

 自分が死んだ時、誰が喪主になるんだろう、親やペットの死をどうやって乗り越えればいいか、自分の入院時の保証人を誰に頼むか、いつまで働けるんだろう、お墓はどうしよう…などなど。

 香山リカさんは、一人っ子ではない。弟さんがいるし、そこには子供も生まれているので、彼らに頼ればいいのよね。弟さんとは仲がいい。リカさんの育った家庭って、エリート家庭にしては珍しく、家族全員仲がいいようだ。特に同業の医者であるお父さんとは、一緒に旅行に行くほど親密。そのお父さんも、数年前に亡くなったけど。

 香山さんの友人が急逝した場合、高齢の親が喪主になることが多いようだ。でも、以前、子どもの葬儀の喪主に、親はなれないと聞いた事がある。逆縁といって。しかし、この少子高齢化の時代、そんなことは言っていられないんだろう。

 
 いろんな心配事があるが、比重が高いのは住居の心配。賃貸の場合、高齢になると、大家さんが更新してくれない事もあるという。だから、気心の知れた友人たちで、グループホームを作ろうという動きがある。
 香山さんには、シングル女性たちが助け合い、適度な距離を保ちながら、一緒に暮らすグループホームを題材にした『眠れる森の美女たち』という小説もある。(小説です。ノンフィクションでない!)かなり前、読んだことがある。
 素晴らしいが…そんなに上手く行くだろうか?というのが正直な感想。

 そういえば、群ようこさんも、老後は友人3人で住もうと約束していて、実際、物件を見に行ったとか。しかし、3人の経済状況もそれぞれだし、要求するものも違うので、買う所まで行かなかったとか。

 親しい友人たちでグループホームを作るというのは、夢のような話だが、一番考えてしまうのは、60~70歳になってから住居を替えると、一気にボケるんじゃないかという不安。特に女って家や家具に執着するから。
 いくらバリアーフリーで新しくキレイな所に住み替えても、朝、目が覚めて「あれっ?ここどこ?私どこにいるの?早くお家に帰らなくっちゃ」と徘徊するんじゃないかと、不安。

 少々段差があっても、古くて隙間風が吹きこんでも、昔から住んでいる家を手直ししながら住み続けた方が、本人の精神にとって良い事なんじゃないかと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

筒井康隆 「ロートレック荘事件」

2017-03-19 14:18:07 | その他
 面白いが、かなりアンフェアな作品。どのくらいアンフェアかと言えば、綾辻行人の『どんと橋おちた』の次くらい。『どんと~』を読んだときは、こんなんアリかよーーーと文句たらたらだった。
 でも、筒井康隆は優しい。この作中にはヒントがいっぱい。あれ!? おかしいな?と違和感を覚え、前のページを読み直すことも多い。だいたい、推理小説作家がミスリードするのは当たり前なんだ。

 ロートレック荘2階平面図が載っている。どの部屋に誰が割り当てられたかの記載があるが、みな、姓か名前で書いてあるのに、フルネームで書かれてあるのが大きなヒント。それに、別荘番の金造の呼びかけ。人々の容貌についての記述…。ヒントはいっぱいある。
 途中で「あれ? これってひょっとしたら…」と考える人も多いと思う。


 
 ロートレックの作品があちこちに飾られている瀟洒な洋館に、才気あふれる青年たちや美しい娘たちが招待される。優雅な夏の終わりのヴァカンスが始まったが、2発の銃弾が惨劇の始まりを告げる。1人、また1人と、美女が殺される。いったい、なぜ?


 明治30年代から90年くらい後という事なので、平成になるかならないかという時代設定ではないか?
 でも、それにしては、ずいぶんクラシックな雰囲気が漂う。美しい令嬢たちをスリーヴァージンズと呼ぶのも古臭いし、それに、こんな素晴らしい別荘を所有する実業家の一人娘が、女子短大卒というのも、時代に合わないんじゃないか?
 昭和9年生まれの筒井先生は、いくら良家の出身でも、女は短大卒で十分という考え方なのかな?


 ところどころにロートレックの絵やポスターが挿んであって、それの説明を、小説内の登場人物がしているので、とても楽しい。ロートレックといえば、ムーランルージュや女優さんのポスターで有名だけど、結構、油彩画も描いているんだね。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

津村記久子 「くよくよマネジメント」

2017-03-14 16:09:15 | 津村記久子
 先々回「自律神経を整える あきらめる健康法」を読んだから、次もこういった傾向の本を…と思われるかもしれないが、全く違う。単なる偶然。
 私は津村記久子さんの小説が好きなので、図書館に行くと、つい彼女の名の付いた書架を見るが、新作が出ていたので借りてみただけ。
 エッセイでもない、落ち込んだ時の自分の心を、どうマネジメントするかというハウツー本。一種のビジネス書なのかなぁ。


 下がったモチベーションを上げて、仕事の効率をUPしよう、なんて書いてあるわけじゃないが、対人関係で擦り減ったココロをいやし、明日を向こうというカンジ。
 森下えみこさんのイラストも可愛いし、4コママンガも面白い。


 これは、私の勝手な思い込みで、間違っているかもしれないが、津村さんって、バブル世代がすごく苦手なんじゃないかなぁ。
 彼女は就職氷河期世代。だから、就活ですごく苦労した経験は、彼女の色んな作品の中に出てくるし、新卒で入社した会社で、直属の女性上司にパワハラみたいな事をされて、退職に追い込まれた苦い経験は、彼女の作品の核になっているような気がする。

 このエッセイの中にも、バブル世代を揶揄しているような文章がチラリ。

人もうらやむ「余裕のある人」は、いったいどこにいるのでしょうか?それは、わたしにはよくわかりませんが「余裕」を装う人が、一定以上の年齢に一定以上分布していることは知っています。肩肘張らず、今まで流されるままにやってきたから、と笑って言うような人です。適当にやってきたから、とさえ言う人もいます。どうも「余裕」は、ある世代にとっては、1つの絶対的な美徳の基準になっていると見受けられます。(本文13pより抜粋)

 うーーーん、なかなかシビア。「余裕」を装う人からすれば、ただ少し謙遜しているだけ…かもね。でも、就職氷河期世代からすれば、イラっと来ることなんだろう。「余裕」を装う余裕なんてないんだよ!!!ってね。

 でも、津村さんの世代は、堅実で地に足をつけて行動して…本当に素晴らしい事だと思うよ。


























コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「佐野洋子 追悼総特集 100万回だってよみがえる」 河出書房

2017-03-09 15:00:44 | 佐野洋子
 2010年に佐野洋子が72歳で亡くなった後、出版された追悼集。やっぱり、売れっ子は違うよね。こんな立派なムック本を出してもらえるなんて。
 いろんな人との対談や鼎談、追悼文、単行本未収録エッセイ、短編小説、そして、もちろん佐野洋子の画が、たくさん載っている。それを読んだり見たりして、一番驚いた事!!佐野洋子の2番目のダンナって、谷川俊太郎なんだ!! これには本当に驚いた。といっても彼女が52歳から58歳の間の、短い期間だけど。
 えっ?! みんな知ってた? 知らないの、私だけ?
 イラストレーターの沢野ひとしが、以前、佐野さん宅で窓拭きしていたら(沢野ひとしは、佐野家の掃除係なのだそうだ)谷川俊太郎が入って来て、勝手知ったる台所というカンジで、戸棚からグラスを取り出しビックリした、その後しばらくして「谷川さんと結婚する」と報告を受けた、という追悼エッセイが載っている。


 そして、佐野洋子は『100万回生きたねこ』『おじさんのかさ』がすごく印象に残っているので、絵本作家として有名だけど、それほど絵本を描いている訳ではない。特に、人生後半は、依頼を受けて文章を書くことが多く、小林秀雄賞といった高名な賞を受賞している。
 そうだよね。私も絵本をあまり読まないという事もあるが、エッセイの方が好きだな。本音そのままの、おしゃべりの延長のようなエッセイ。


 谷川俊太郎と広瀬弦の特別対談も、印象的。前述している通り、谷川は2番目のダンナだし、広瀬弦は、最初のダンナとの間の一人息子。(この人も絵描きで、お母さんに性格が似てる)ただ、弦が谷川姓になったことはない。一定の距離を置いている。それが良かったのか、2人は仲良く、佐野洋子の思い出話をしている。
 彼女は一人息子を溺愛していて、息子が思春期に入って手を焼いていた時、友人からも息子本人からも「みっともない母親」と言われたそうだ。
 でも…そういう所に親近感がわく。あの佐野さんでもそうなのか…って。ここらの事情については、あちこちのエッセイに書かれてあるし、『し-ん』という短編小説にも書かれている。

 そうだ。すべての母子が通る道、通らなくてはならないんだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする