ケイの読書日記

個人が書く書評

奥泉光「ゆるキャラの恐怖 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活3」 文藝春秋

2019-11-27 09:43:14 | その他
 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活①と②も、もちろん読んでいるが、面白さがますますパワーアップしてると思う。不思議だね。こういうシリーズモノって、続けば続くほど尻すぼみになるはずなのに。それは、なんといっても新キャラの存在が大きい。

 桑潟幸一ことクワコーと同じ、たらちね国際大学に勤務する田所香苗・こどもすくすく科准教授。彼女は、筋金入りの腐女子で、かつコスプレーヤー。それも超絶マニアックでハイレベル。彼女が小坊主「霊媒探偵コエモン」のコスプレをして、大学公認ゆるキャラ「たらちね地蔵くん」をエスコートすることになった。
 「たらちね地蔵くん」の着ぐるみの中には誰が入るのか? そりゃ、もちろんクワコー。彼しかない。もってる男、クワコー。もちろん不運を。

 8月のお盆休みにオープンキャンパスを開くたらちね国際大学は、死者が出てもいいと思ってるんだろうか?実際、今年夏、着ぐるみの中の人が死んだ事件があったよ。もっと涼しい季節にオープンキャンパスを開催すればいいのにと思うが、秋とか春は有名大学もオープンキャンパスを開くので、かちあうとたらちね国際大学のオープンキャンパスはガラガラ。閑古鳥が鳴くのだ。
 なんとか人を集めようと、オープンキャンパスの最中に「納涼盆踊り大会」「夏祭り特別ステージ」を企画し、受験予定の高校生だけじゃなく、地域の人でも小学生でも、いっぱい来てもらおうと大学側もがんばる。

 そうなんだ! クワコーの勤務するたらちね国際大学は、千葉の片田舎にあるFランクの大学で、毎年定員割れ。いつ廃校になってもおかしくない。大学教職員が一体となって、生徒集めに奔走している。
 そうだよね。学生が集まらなければ、教育も何もあったもんじゃない。自分たちも職を失うし、皆、必死。大学名が入ったティッシュを駅前で配ったり、高校に足を運んで生徒を入学させてもらうよう営業するし。
 大学の先生って、こんな事もやるんだ!

 准教授といえば英都大学の、我らが火村英生准教授を思い出すが、彼はそんな事やってないよ。英都大学は有名私大だから、営業しなくても学生さんが集まるんだろう。火村准教授は別の件で(犯罪捜査に協力するためどしどし休講にする)大学をクビになりそう。

 とにかく、その「たらちね地蔵くん」が「大学対抗ゆるキャラコンテスト」に参加した時、事件が起き、それをジンジンことホームレス女子大生・神野仁美が鮮やかに解決する。この人、本当にホームレスで、学内の奥の敷地にテントを張って自炊してるんだ。ただ、あまり登場しないので影が薄い。残念。
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中居真麻 「私は古書店勤めの退屈な女」 宝島社

2019-11-23 15:50:22 | その他
 最初、題名を見て、古本屋に勤めている女性の業務日誌風のエッセイかな?と思って読み始めたが、これってW不倫のお話なのだ。
 私は知らなかったけど、著者の中居真麻さんは、『恋なんて贅沢が私に落ちてくるのだろうか?』で、第6回日本ラブストーリー大賞を受賞した人らしい。そんな「日本ラブストーリー大賞」なんて賞がある事を知らなかった。つまり彼女は、恋愛小説のスペシャリスト?

 私は恋愛小説は苦手であまり読まないから、やめようかとも思ったが、これも何かの縁だと思いなおし読み進める。


 波子さんという女性が、結婚4カ月くらいで、ダンナの上司と親密になる。上司の方は妻と子供が2人。お互い、大切なものを守った上での関係という前提だったが、波子さんはどんどんのめり込んでいく。ダンナにバレ、修羅場になる。ダンナは会社を辞め、夫婦仲は最悪に…。

 結局、波子さんたち夫婦は離婚する。これはもう仕方がない。不倫相手が知らない相手ならまだしも、自分の直属の上司だったら、どうしようもない。ただ、このダンナもイライラさせられる男なのだ。
 ねぇ、どうしてアンタが会社を辞めるの? 会社辞めるのは上司の方じゃない? 創業者一族のお坊ちゃまと言う訳でもなく、ただの勤め人でしょ? 社長に直訴するなり会社内でもっと騒ぎなよ。会社辞める気でいるなら、相手も道連れにしてやる!!くらい思わないのかなぁ?
 ダメージを与えられるよ。なんせ相手は妻子持ち。再就職も年齢的に難しいだろうし。

 それに妻の不倫相手の上司に「殺す」なんてメールを送っては、こっちが罪に問われるよ。お金を貰いなさい。ソイツからも自分の女房だった女からも。いい弁護士を頼んで。キレイに別れようなんて思わない事。できるだけグチャグチャになって、もう金輪際こんな事はまっぴらだ!と疲れ果てるまで揉めた方が、次につながるよ。
 そら、前を向け! 気になる女の子ができたら、前のカミさんなんか、きれいさっぱり忘れてしまうよ。

 題名は忘れたけど、唯川恵の恋愛短編小説にこんなのがあった。
 結婚が決まった女が、既婚の同僚Aに「前から好きだった」と口説かれ、フィアンセBを捨てて、そのAと不倫関係になる。Aは妻子を捨てて女と一緒になるが、慰謝料や養育費があるので生活は苦しく、女は自分の子どもをあきらめ、おしゃれも出来ない。
 ある時、女は、かってのフィアンセBと街中でばったり出会う。生活に疲れている女に比べ、Bは子供2人と奥さんを連れ、幸せそうに買い物をしている。Bの子どもが「お父さん、この人だれ?」と聞くと、Bは微笑みながら「昔の知り合いだよ」と子どもに答える。
 女は大きなショックを受ける。「元のフィアンセBは、自分をまだ心の中で想い続けているはずだ」という思い込みが全く違っている事に愕然として。 そんなもんだよね。
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倉知淳 「夜届く 猫丸先輩の推測」 創元推理文庫

2019-11-18 13:40:00 | 倉知淳
 そう、推測なんです。推理じゃないんです。6つの不思議なちょっとした事件(殺人事件ではない)が起きて、それぞれに猫丸先輩が「いくつかの仮説は立てられるよ」なんて、すました顔でのたまうもんだから、その他登場人物が、猫丸先輩の仮説を謹聴するハメになり、その話が「確かにそう考えると、つじつまが合う。さすが猫丸先輩!」という、いつもの猫丸ワールドが展開する。

 その可能性というか仮説が、しっかりしてるんだ。刑事事件になりにくいモノばかり(1話だけひったくりがある)なので、警察が介入しないから、本当にその推測が当たってるかどうか分からないけど、こんがらがったロープがストンと解けるみたいにスッキリする。

 こういった日常の謎を題材にした話は、北村薫の落語家探偵(円紫さんだったっけ?)シリーズが有名だけど、この猫丸先輩の方がユーモアがあって面白い。登場人物のキャラが立ってるからかな?
 すごく小柄で、ふっさりと垂れた前髪とまん丸い目が仔猫のような猫丸先輩は当然として、『失踪当時の肉球は』に出てくる、ペット探偵・郷原も濃い。彼曰く「探偵は職業ではない。生き方だ。」いやあ、私も人目があるにもかかわらず、爆笑しました。暑い時期なのに、トレンチコートを着てるんだ。熱中症で倒れなければいいが…。彼をメインにしたスピンオフ作品を書いてもらいたい。
 『カラスの動物園』に出てくるキャラクターグッズデザイナー葉月も癖があるなぁ。彼女のデザイン帖に載ってる「どざえもんくん」「できしたいちゃん」を一目見てみたいよ。どっかの会社が、商品化してくれないかしらん?

 表題作は『夜届く』 冬の夜に家族の病気を知らせる電報が届き、あわてて家に電話すると全員無事。そんな事が何度も続く。いったい誰がこんなイタズラを? そもそも、このケータイ全盛の時代に電報なんて通信手段がまだあるんだ!! 祝電や弔電以外、利用したことなんてない。お金が結構かかるのに、誰が何の目的でやってるの?嫌がらせ? でも心当たりは全くない。その謎を、猫丸先輩がズバリ解く。(推測だけど)

 表題作もいい作品だけど、私は『たわしと真夏とスパイ』の方が好きだね。よくこんな発想するなって感心する。
 寂れた商店街が、ライバルの大型スーパーに負けじと、納涼夜店大売り出しを敢行する。しかし、2日目に、屋台に次々とトラブルが起こる。これって大型スーパーの妨害?
 猫丸先輩の説明の途中から、「独自のタイムリミット」「潜伏期間」とかの言葉があって、いったい何をいってるんだろう?怪訝に思っていたが、最後は…なるほど、こういった事だったんだ!と膝を打つ。

 この短編集は、今まで読んだ倉知淳の中で、一番いいね。
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木村紅美 「雪子さんの足音」 講談社

2019-11-12 16:21:08 | その他
 新聞の書評欄で取り上げられていたこの小説を、図書館の書架で見つけ、さほと期待せず借りたが…一気に読んでしまう。あまり後味の良い作品ではないが、ぐいぐい引き込まれる。

 雪子さんは、男子大学生・薫の下宿先の大家さん。若者に人気の町・高円寺にある。古い木造2階建てのアパートで、あまりにもボロいので、入居者は薫ともう一人、同い年の小野田さんと言う女性だけ。(もう一人、荷物置き場に使っている人がいるが、住んではいない)

 雪子さんは70歳くらいで、40歳くらいの無職の息子さんと住んでいたが、息子さんは突然倒れ、帰らぬ人となった。彼は引きこもり気味だったが、それでも頼りにしていた一人息子に先立たれ、心細くなったのだろう。雪子さんは、下宿人の薫と小野田さんに異常に親切になる。
 たくさん作りすぎた料理や貰い物のおすそ分けなら分かるが、部屋に招き入れ、料理を振舞い、ポチ袋に入れお小遣いを渡す。それも何千円じゃなく何万円も。

 特に、薫が小説を書いているとか、作家志望なんてデタラメをいうから、芸術家のパトロン気分で、雪子さんはどんどん薫に尽くす。薫も雪子さんを家政婦あつかい。「出前」といって、料理を自分の部屋まで持ってこさせる。アンタ、何様?
 旅行も外食も、すべて雪子さんのお金。

 もちろん雪子さんは、息子さんの保険金が入っているので裕福なんだろうが、そういったことが、薫や小野田さんをスポイルすることに気が付かないんだろうか?
 薫も薫だ。料理をご馳走になるならともかく、何万円もお金を貰って、おばあちゃんと孫の疑似体験をさせてやってるアルバイト、なんてうそぶくなよ。どんどんダメになっていくぞ。

 その上、全く興味のない小野田さんにも言い寄られ、雪子さんの事もあり、最終的に薫は下宿を出る。お互いにとって、良い決断。
 最初にキチンと距離をキープできていたら、良い大家さん、良い店子、良いお隣さんでいることができたのに残念。

 孔子だったっけ? 「君子の交わりは、淡き事、水の如し」? だったっけ? あまりにも人の領域に踏み込まないのが、人間関係を長続きさせるコツだと思う。

 下宿人と大家さんというと、火村とばあちゃんを思い出して、ほほえましく思うが、そんな事めったにないんだね。
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倉知淳 「こめぐら」 東京創元社

2019-11-07 17:15:12 | 倉知淳
 倉知淳のノンシリーズ短編を2冊同時刊行ということで、もう1冊の「なぎなた」の方は、もうすでに読んだ。うーーーん、この「こめぐら」より、以前読んだ「なぎなた」の方が出来がいいような気がするなぁ。だから、こっちの「こめぐら」にボーナス・トラックとして猫丸先輩の話が1話載ってるのか。バランスを取るために、などと出版社の思惑を想像してしまう。

 その中で印象に残ったのは『真犯人を探せ(仮題)』。バカミスといえばバカミス。なるほど、こういう構造のアパートがあるかもしれないね。でも犯人あて懸賞ラジオ推理劇場の話で、シナリオ形式になっており、読みやすいし、登場人物の性格が台詞にハッキリ表されているので楽しい。
 大喜びで事情聴取されるミステリオタクの公務員とか、妙に時間にキッチリしている植物園の飼育係とか、イヤに色っぽいホステスさんとか、こういう隣人がいると面倒だよね。
 私、バカミスという言葉は使わないようにしてるんだけど、先回読んだ小谷野敦氏が「このミステリーはひどい!」の中でバカミスを連発しているので、ついつい使ってしまった。気を付けます。

 一番出来がいい作品は、猫丸先輩が登場する『毒と饗宴の殺人』。有名写真家が賞を受賞したので開催されたパーティで、殺人事件が起こる。受賞者とパーティの発起人2人の計3人が、大勢の来客の前で、事前に用意されたカクテルをそれぞれ飲み干したら、受賞者が倒れ大騒ぎになった。カクテルの中に毒が入っていたらしい。
 容疑者は、カクテルを用意したボーイと、死んだ写真家と一緒に壇上でカクテルを飲んだ2人の発起人。
 ボーイが一番毒を入れやすいが、動機がない。発起人2人は、有名写真家の友人という事だが、同業者で彼の受賞を妬んでいた。しかし、もし発起人がカクテルに毒を入れたとしても、死んだ写真家がどのグラスを選ぶのかは分からない。ひょっとして無差別殺人???

 実は、有栖川有栖の国名シリーズ「モロッコ水晶の謎」にも、同じようなトリックがあった。私、それを読んだとき、えらく感心したんだ。なるほど、こういう事もあるのかって。
 あまりにも緻密に計算するより、この方が成功するんだろうね。

 『あとがき』は、結構なボリュームで、クスクス笑って読める。得した気分!!
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