ケイの読書日記

個人が書く書評

芥川龍之介 「糸女覚え書」(大正12年12月)青空文庫

2023-11-22 11:13:29 | 芥川龍之介
 細川ガラシャ夫人は、聖女、賢女、才女、絶世の美女といわれ、小説や日本画の題材にもなっている。戦国大名・細川忠興の正室で、悲劇的な最期を迎えたことは知っていたが、私は、彼女がバテレン禁止令が出されたのに信仰を捨てなかったので、非業の死を迎えたとばかり勝手に思っていたが…違うんだ!!!
 『関ヶ原の戦い』の時に、細川家は徳川方についたが、石田光成方が細川家を自分たちの陣営に引き入れようと、夫人を人質にするため居城を襲った。守兵も少なく、もはやこれまでと悟った夫人は、キリスト教徒なので自害できないから、家臣に命じて自分を殺させたらしい。
 本当にドラマティックな最期ですなぁ。

 で、この糸という女性は、細川ガラシャ夫人の侍女というか小間使い? 糸の目から見た、夫人の最後の日々を書いている、という設定。それが「そうろう文」なので、読みにくいったらありゃしない。しかし短編だし、芥川の底意地悪い文章があまりにも面白くて、ついつい最後まで読んでしまう。

 夫人は美女ということになっているが、糸から見ると(つまり芥川が考えるに)さほどでもない。でもお世辞が大好きで、「二十歳くらいにしか見えません」という客とは何時間もおしゃべりする。
 ラテン語の読み書きができる才女ということになっているが、お祈りを唱えても「のす、のす」としか聞こえず、侍女たちが笑いをこらえるのに必死だった。
 聖母マリアのように慈悲深く優しい人ということになっているが、気に入らない侍女の事を「あの人はイソップ物語の〇〇のようだ」と悪口を言う。
 敵が攻めてきたとき、まず侍女や使用人たちを逃がしたということになっているが、皆、一目散に散り散りに逃げ出したのが本当。一緒に死ぬことになっていた夫人の長男の奥方(つまりお嫁さん)が逃げ出したのが、後で大問題になり長男は家督を継げなかったとか。当たり前じゃん、常に化粧が濃いと文句を言ってくる姑に殉死するなんて、冗談じゃない!

 こういった様々な内実が、面白おかしく書かれている。本当に底意地の悪い人だ。芥川龍之介は。

P.S. 細川ガラシャ夫人って、明智光秀の娘なんだってね。実際、賢い人だったんだろう。本能寺の変の後は、謀反人の娘ってことで大変だったろうなぁ。だからキリスト教に傾倒したのかな。
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群ようこ 「こんな感じで 書いてます」 新潮社

2023-11-06 13:20:43 | 群ようこ
 敬愛する群さんの本なので、ブックオフではなく、ちゃんと買おうと本屋へ行ったが、無い! お店の人に尋ねて探してもらったが、エッセイコーナーの書架に1冊だけ挟んであった。群ようこの本なのに。新聞広告から2週間もたっていないのに。他の文庫だったら平置きになってるのに、高価だから売れないと本屋さんに思われたんだろうか? ああ、出版不況です。

 群さんは、著作数140作以上、40年間たんたんと書き続けている。昔からの熱心なファンというわけではないが、無印シリーズが売れに売れていたので、私も少し読んでみたが、彼女の小説はそんなに良いと思わなかったなぁ。
 でも、自分でこの業界のすきま産業と言っている身辺雑事の日常エッセイは本当に面白い。

 デビュー当時「お前の書くものは本を出すようなレベルではないのに、恥を知れ」といった内容の手紙が、あちこちから届いたそうだ。同じ人だろうか?別々の人だろうか? 驚いたのは、「群ようこの連載を止めさせなければ不買運動をおこす」と新聞社に抗議してきた女性がいたのだ。不買運動???いったい何が気に入らなかったんだろうか?そんな大それた文章など書いてないと思うけど。担当者はブツブツ言ってたそうだが、そのまま続行したそうだ。そうだよね。具体的にここの表現がNGとか指摘してくれないと、わからないよね。

 別のエッセイ集に書かれているが、群さんは若いころ『小説の書き方』という講座の講師を勤めたことがあるそうだ。そこで、生徒さんだった同年代の女性に「あんたは東京に住んでいたから作家になれた。私だって東京にいたら、小説家くらいなれたわよ!」と罵られたそうだ。年の若い女性は、なかなかやっかみを受けやすいんだろうね。

 そうゆうふうに軽く見られ、3~4年で消えていくと考えられていた(本人もそう考えていた)群ようこが、40年間、第一線で活躍しているんだもの。大したものだと思う。運も実力もあるんだ。

P.S.もう死んでしまったが、群さんちの猫・しいちゃんが、どうして”しい”なんだろう?変わった名前だな?と思っていたが、この本の中にその答えがあった。隣の部屋の猫が”びー”なので、”しい”と名付けたそう。疑問氷解!
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