ケイの読書日記

個人が書く書評

桐野夏生 「ジオラマ」 新潮社

2021-08-27 16:17:32 | 桐野夏生
 9つの作品が収められている短編集。実は前回UPした「捩れた天国」も「黒い犬」も、この短編集の中の作品なんだ。

 「ジオラマ」は表題作だから面白いだろうと読んだが、イマイチ。
 グレードの高いマンションの9階に住む銀行員の溝口は、真下の8階に住む髪の赤い女に惹かれていく。溝口の勤める銀行が倒産したことにより、溝口はますます女への依存を深めていく。
 髪の赤い女と溝口の関係よりも、地元ではナンバーワン銀行だった勤め先が潰れ、失業者になり、今まで見向きもしなかった会社の求人に応募する溝口の気持ちの方が知りたいな。

 そういえば昔、北海道拓殖銀行という北海道では最大手の銀行が、バブル期の不良債権がもとで経営破綻し、うんと格下の北洋銀行に営業が譲渡されたことがあった。それを思い出すね。
 学生が就職する時、金融を目指すなら、あちこちの銀行の就職試験を受けるだろう。北洋銀行から内定をもらっても、北海道拓殖銀行が受かれば、皆、そっちに行っちゃっただろうね。そういう人がいっぱいいただろうに、どのツラ下げて北洋銀行で再就職するんだろうか?

 まあ、この辺の心の葛藤を書くのは桐野先生ではなく、経済小説を専門にする作家さんだろう。

 他には「井戸川さんについて」が、ちょっと桐野夏生にしてはコメディチックで面白い。
 空手道場で一緒だった井戸川さんが突然亡くなり、その原因がハッキリしないので、ボクは調べることにする。すると…カッコいいと思っていた井戸川さんには別の顔があり…
 男でも女でも、井戸川さんみたいなタイプっている。異性を追いかけるのが大好きで情熱を燃やすが、その相手が少しでも自分に興味を向けると、情熱が急激に薄れ…。厄介な人たちなんだ。決して幸せにならない。
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桐野夏生 「捩れた天国」「黒い犬」 新潮社

2021-08-21 13:09:09 | 桐野夏生
 母親が日本人、父親はドイツ人のハーフ青年が主人公。2作品ともおなじ。 日本名は有里(ユウリ)という素晴らしい美青年。4歳下に、真理(シンリ)という弟がいる。二人とも周囲が驚くほどの美貌の持ち主で、周囲の女の子たちから騒がれていた。
 そういえば、木原敏江の名作マンガ「摩利と新吾」の摩利も日独のハーフだったなぁ、なんて事を思い出す。
 桐野夏生は、私より少し年上だろうけど、私も含めて、この年代の女は、美青年・美少年というとハーフになるんだ。もちろん美女・美少女も。そうそう、桐野夏生の代表作「グロテスク」にもハーフの美少女と美青年が出てきたっけ。

 だけど、今の時代、若い人達からすると、ヨーロッパ人とのハーフだから美しい、という感覚は昭和的なんじゃないかな。芸能人を見ても、西洋人とのハーフは老けるのが早いような気がする。それよりもフィリピンとか韓国、台湾とか他のアジア人との混血の方が、美しさや若さが長持ちするようなカンジです。
 全く、小説の内容とは関係ない事を延々と書いてしまった。

 「捩れた天国」は、主人公のユウリが日本の高校ベルリンの大学を卒業し、フリーのツアーガイドをやっている時の話。ツアー会社からの依頼で、ワケアリそうな日本人女性をベルリン観光に連れて行くが、彼女は観光名所に全く興味を示さず、道行く人の顔ばかり見ている。彼女の目的は?

 「黒い犬」では、29歳になったユウリが、母親が再婚するので何年かぶりに日本に帰ってきた時の話。ユウリが10歳の時、父母が離婚し、父は弟を連れてドイツに戻り、ドイツ人と再婚した。そのためユウリは、自分と母親は父から捨てられたと恨んでいたが、実は…。
 忘れていた父親の弟を思い出したことが発端となって、次から次へ記憶が引き出されていく。思い出さなくて良い事まで…。

 2作品ともミステリ仕立てで、桐野夏生らしい作品。
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益田ミリ 「青春、手遅れ」 角川学芸出版

2021-08-13 10:20:33 | 益田ミリ
 1969年生まれのコミックエッセイスト・益田ミリさんは、高校の時あまりモテなかったらしい。「ファストフード店でデート」「彼の制服を借りる」「放課後の告白」「制服のほつれを縫ってあげる」「第2ボタンをもらう」などなど、10代でやっておきたかった、けど出来なかった事をいろいろ数えると、ミリさんは何とも言えぬ侘しい気持ちになるそうな。
 でも、カレのいる女子高生の方がうんと少数派なんだから、そう凹む必要もないよ。
 それより、ミリさんはお友達がたくさんで本当に羨ましいです。私などカレどころか、同性の友達も少なかったので、中高生の思い出で楽しかったものは少ない。私は、中学高校時代の自分が嫌いだった。同窓会など、あるかどうか知らないし、あっても参加しないと思う。

 考えてみるに、スクールカーストの頂点にいた、あのカッコよくて可愛い美男美女の皆様は、今はどうしているんだろうか?いまでも美男美女なんだろうか?スクールカーストという言葉は私が中高生の頃はまだ無かったけど、でも間違いなくスクールにカースト階級は存在した。
 成績の良しあし、スポーツが得意か不得意か、コミュニケーション能力の高い低い、容姿の良しあし、いろんなモノサシがあったけど、華やかか否か派手か地味かが大きいんじゃないかな。派手な女の子のグループと派手な男の子のグループが仲良しで、クラスの方向を決めていた。

 私も、自分の人生が後半に差し掛かって思うのだが、人の幸せって一定量で、前半つまり若い頃、幸せだと、後半つまり老年、幸せな事が少なくなるんじゃないだろうか? その逆もある。人生前半でしょんぼりすることが多いけど、後半でツキが回ってきた、みたいな人が多いといいね。

 まあ、何が幸せで不幸せかを決めるのは自分自身。これはキレイ事を言ってるんじゃなくて、本当にそう思う。
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「おじいさんのとっておきの話」 東北の民話

2021-08-07 16:39:34 | その他
 親戚の引っ越しを手伝っていたら、もう捨てるからと言われもらった一冊。本といってもお薬手帳を一回り大きくしたくらいの大きさと厚さの絵本。豆本みたいな感じ。

 東北の民話といっても類型化された民話は、どの地方もさほど変わり映えしない気がするな。
 でも、その中で「おしらさま」の話は、理解が進んでよかった。民話でなくても、東北地方を題材とした文章を読むと、土着信仰なのか土着遊具なのか「おしらさま」の話が結構出てくる。前後の文章を読み、自分で想像していたが、だいたいこういう事だったんだ。

 昔、北国一の長者がいて、一人娘をたいそう可愛がっていた。娘の遊び相手に栗毛の美しい馬を与えたら、年とともに大のお気に入りになり、とうとう結婚したいと言い出した。
 長者は怒って、馬を殺して皮をはぎ、桑の木にかけておいた。すると突然、強い風が吹いて馬の皮が娘の上にかぶさり、娘と一緒に空高く飛んでいってしまった。
 それからというもの、長者は病に臥せっていたが、ある夜、夢枕に娘が立ち、桑の木を指さして消えてしまった。長者が桑の木をよく見ると、二匹の虫が仲良く桑の葉を食べている。その二匹は、どこかしら娘と馬に似ている。長者は、娘と馬の顔を桑の木に彫り、一対の神様として大切に祀った。これは蚕の神様。

 ふーん、なるほどね。だからこの地方では「おしらさま」は、だいたいどの家にもあって、あまり信仰心の無い家庭だと、子どもの玩具になっているのか。


 異種婚っていうの? 日本でも外国でも、人間と人間以外との結婚話って、結構あるよね。この本の中にも「さるのむこさま」という話がある。

 おじいさんが娘3人と一緒に暮らしていた。広い畑を一人で耕すので難儀していた。畑仕事を手伝ってくれたら娘を嫁にやると、サルに言ったら、サルは大張り切りで手伝い、畑仕事はどんどん片付いた。
 おじいさんは、サルとの約束を娘たちに伝えると、姉二人は相手にせず末娘がサルの嫁になることに。サルと暮らし始めた娘が、里帰りしたいと言い出し、おじいさんへのお土産に餅をつき大きな臼のままサルにしょわせた。山越えの道すがら、藤の花が美しく咲いている。娘はサルに「おじいさんの好きな花だから、一枝とってきて」と頼む。サルが藤の木に登り手を伸ばすと、バキッと枝が折れ、川に落ちて流されてしまった。末娘は家に帰って、元のようにおじいさんと暮らしました。めでたしめでたし。

 怖い話だなぁ。サルを、力は強いが頭の弱い男と置き換えてみると、こういう話はあちこちに転がっていたんじゃないかなぁ。
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