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ケイの読書日記

個人が書く書評

東野圭吾「ブラックショーマンと名もなき町の殺人」光文社

2024-11-23 09:52:28 | 東野圭吾
 東野圭吾の探偵役といえば湯川を思い浮かべるので、最初は、このブラックショーマン・元マジシャンの神尾武史に違和感があったが、読み進めるうちにしっくりくるようになった。特に金に汚いところが良い。何かと姪にたかろうとする。お金がないのかなぁ。恵比寿で『トラップハンド』というバーを一人でやっている。オーナーバーテンダー。家賃は高いだろうし、お客は少なそうだ。

 寂れた観光地でもある、平凡な小さな町で、一人の元中学教師が殺される。妻は数年前に亡くなっており、一人娘は東京で仕事をしている。彼女の視点で話は進行していく。そして年の離れた弟が一人。彼がブラックショーマンで、若いころ渡米しマジシャンをやっていた。そのせいか鋭い観察眼を持ち探偵役にピッタリ!
 近々、同窓会があるというので、被害者の周りにはかつての教え子たちが時々顔を出し、電話などで連絡を頻繁に取り合っていた。被害者は人格者で、恨まれるような人間ではない。なぜ殺された?
 一見、平和で穏やかに暮らしているように見える教え子たちにも、それぞれ事情があり秘密があり、不穏な動きをする。それを一つ一つの潰していき、最後に残ったのが…。
 事件が地味なせいか、伏線の回収が丁寧。なるほど、そういう事もあるよね、と思わされる。

 ここからは、思いっきりネタバレしているので、未読の人は読まないでください。

 犯人の陥った窮状はよく理解できる。でも、こういう事ってよくあるんじゃない? 優れたクリエーターだとしても、すべてオリジナルって事は少ないと思う。幼いころ見た紙芝居、アニメ、童話、映画。おばあちゃんに聞いた昔ばなし、友人とおしゃべりしている時にひらめいたストーリーのかけら。そういったモノ全てにインスパイアされて、新しい物語が出来上がってくるんじゃない?
 ほら、映画監督が自分が影響を受けた作品の話をするでしょう?何もないところからすぐれた作品は生まれないよ。
 だから犯人も、最初に原案〇〇〇と記入しておけば良かったんだよ。今更悔やんでも遅いけど。原案者もこの作品が世に出たことを喜んでいると思うよ。
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東野圭吾 「透明な螺旋」 文藝春秋

2024-10-26 12:47:01 | 東野圭吾
 ガリレオの出生の秘密が書かれているというので、読んでみた。ストーリーは面白く一気に読めたが、ミステリとしてはイマイチ。

 男が房総沖で遺体となって見つかる。同棲していた女にはアリバイがあるが、どういう訳か失踪してしまう。彼女の部屋を調べると、関係者として湯川の名前が…。
 しかし、この関係者というのはあまりにこじつけで、失踪している女と行動を共にしていると思われる絵本作家がいて、彼女の描いた絵本の参考文献に、湯川の名前が書かれていただけなのだ。そんなことで警察が湯川に事情を聞きに行くかな?ちょっと無理なような気が…。
 まあ、なんとかして湯川を登場させなければならないから、仕方ないか。

 それにしても、この遺体で見つかったDV男のクズっぷりがすごい。出会った当初は優しくて素敵な人だったが、失職し経済的に行き詰まると、唯一、自分がコントロールできる相手だと思っている女を、自分の支配下に置き、他からの影響を排除しようとする。
 例えば、このDV男は、母親を亡くした女が、自分以外の友人・知人と接触するのを嫌がり、メールアドレスを消させ、自分だけを頼るようにする。

 この方法って、芸能人が占い師に洗脳される事件に、よく出てくるんだ。支配したがる側と支配されたがる側。いったんこのカップリングが成立すると、なかなか解消できない。何年も続く。
 DVの場合、加害者が被害者を殺してしまうまで。窮鼠猫を噛む、みたいに被害者が加害者を過剰防衛で殺すこともある。とにかくこういったDV気質の人間からは逃げなくっちゃ! 後味の悪い結末。

P.S. 湯川の生物学上の母親の事は分かったが、生物学上の父親はどうしたんだろう?
コメント (4)
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東野圭吾「ブラック・ショーマンと覚醒する女たち」光文社

2024-08-08 16:37:24 | 東野圭吾
 すごく久しぶりだなと思っていたが、およそ1か月ぶりなんだ!! 驚いた。7月下旬べらぼうに忙しくて、おまけにべらぼうに暑くて、読書どころの騒ぎじゃなかった。8月の後半からは、落ち着いて読書ができるようになってほしいです。

 神尾武士は恵比寿にあるバーのオーナーバーテンダー、真世は大手不動産会社リフォーム部に所属している一級建築士。顧客は都心に近い分譲マンションをリフォームしたいというお金持ちばかりだ。
 私は首都圏に住んだことないから分からないけど、マンションでも何億という資産価値があり、リフォームといっても2千万3千万かかるみたいね。そういう世界で生活している人たちの話。どこをみても貧乏人はでてこない。やっぱり、これ出版社が光文社だからかなぁ。

 私はこのところ「財布は踊る」とか「燕は戻ってこない」といった、東京で非正規で働く20代女性の貧困を書いた小説をよく読んでいたから、不思議な感覚。断絶してるんだ。お金持ちと貧乏人は。まぁ、今に限った話じゃないけど。

 筆者の東野圭吾が超売れっ子作家で、まわりに裕福な家庭出身で高学歴の美女ばかりなんだろうな。
 最終話の「査定する女」。文字通り、玉の輿を狙って婚活している女性が、真世のリフォーム上客であるハンサムでお金持ちの男性と知り合い、良い雰囲気になっていく話。身長180㎝前後、年齢は40歳くらい、役員車両でイタリアの高級家具ショールームに自宅で使うソファを選ぶため訪れている。
 そもそも、こんな男が独身だというのがおかしい。話は二転三転し…興味のある人は読んでみてね。

 私が東野圭吾をナナメに見てしまってるのは自分のやっかみで、エンタメ小説としてとても面白いですよ。
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東野圭吾 「沈黙のパレード」 文藝春秋

2022-09-29 16:28:18 | 東野圭吾
 この「沈黙のパレード」が映画化され劇場公開されたという事で、私も読んでみた。久しぶりのガリレオシリーズ。女性刑事の内海薫ってTVドラマオリジナルと思っていたら、人気があるせいか小説の方にも登場することになったんだ!!
 確かに恋愛要素が皆無だと、女性読者や女性視聴者の関心が低くなるからなぁ。TVドラマで、湯川と内海刑事のやり取りがコメディチックというか掛け合い漫才みたいで、すごく楽しかったのを覚えている。
 しかし、この小説内では恋愛要素やコメディ部分は無いなぁ。残念。映画の方だとあるんだろうか? 湯川と内海薫というキャラではなく、福山雅治と柴咲コウという俳優・女優の持ち味なんだろうか?

 それに、ガリレオシリーズでは小説の登場人物もちゃんとトシをとるんだよね。火村・有栖川コンビのように、ずっと30歳代半ばという設定を変えず、トシを取らない探偵役・ワトソン役が多い中で、湯川たちは律儀に年齢を重ねる。湯川や草薙は40歳代半ばから後半、内海薫は30歳代半ばから後半になっている。ちょっと悲しい。
 湯川にいたっては、若い研究者に道を譲る形で、管理職みたいなことをやっているもの。ああ、Too Bad!

 ストーリーはこうだ。シンガーデビューを直前にひかえた若くて美しい娘が失踪する。手を尽くして探したが見つからない。3年たって皆が諦めかけた頃、遠く離れた土地で遺体が発見される。容疑者はいる。しかもこの男・蓮沼は20年ほど前、小学生の女の子を殺した事件で逮捕されたが、完全黙秘で無罪になっていた。今回は起訴すらされず、事件があった地元に戻ってくる。おさまらないのは親や恋人や娘を小さい頃から可愛がっていた地元の商店街の人たちだ。不穏な空気が流れるそんな中、蓮沼が死んだというニュースが流れ…

 「容疑者Xの献身」から、こういうパターンって多いよね。殺した側に何らかの事情があって感情移入してしまう。「真夏の方程式」もそうだった。

 完全黙秘って、なかなかできる事じゃないみたい。そうだよね。人間っていうのは誰かに話したい動物なんだよ。特に上手くいった犯罪なんかは。
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東野圭吾 「虚ろな十字架」 光文社文庫

2019-08-07 15:10:37 | 東野圭吾
 被告の弁護人は言う。「死刑制度は無意味だ」と。そんなこと誰でも分かっている。死刑が犯罪を抑止することはないだろう。でも、理不尽な理由で何人もの命を奪っても、犯人の命は保証しますというのなら、あまりにも人命を軽視している事になるんじゃないかな?

 光市で、未成年の男が若い母親と赤ちゃんを殺した事件にしても、通常のケースだと7年くらいで出所できるらしい。でも被害者の夫が、あまりにも妻子が可哀想だと強く死刑を望んで運動したので、最終的に、犯行当時未成年だった被告に死刑判決が出た。
 これなども、死刑判決が出て初めて、被告は命の重さを考えることができるようになったんじゃないかな。それまでは、弁護士も親も宗教家も、誰も彼の心を改心させることはできなかった。死刑が目の前にぶら下がって初めて、自分のやった事の罪深さを自覚するようになった。


 この『虚ろな十字架』では、犯罪被害者遺族が、死刑廃止反対を訴える場面が出てくる。
 中原道正・小夜子夫妻のひとり娘が殺された。捕まった男には殺人の前科があった。服役し刑務所から出所したが、仕事が長続きせず金に困って空き巣に入った先で、女の子と鉢合わせし殺してしまう。
 犯行を認めているので、問題は量刑。男は殺すつもりはなかったと訴える。裁判は何年も続き、結局、死刑判決が出た。夫婦はその後、離婚している。死刑判決が出るまでは一致団結して頑張っていたが、判決が出た後は抜け殻のようになってしまい、お互いを見るのが辛くなったのだ。
 数年後、今度は小夜子が刺殺される。すぐに犯人は出頭してきて事件は解決するが、どうも犯人の動機がハッキリしない。
 中原は、離婚後の小夜子の仕事を調べていくと、30代半ばの美しいがどこか投げやりな雰囲気の、窃盗壁のある女性と出会う。小夜子はライターとして、万引き依存症の女性たちを取材していたのだ。
 その女性は、小夜子を殺した犯人の娘婿と同郷だった。単なる偶然か?それとも…。

 どうするのが一番いい方法なのか、分からないね。たぶん誰にも。
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