ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子「ミュージック・ブレス・ユー」角川文庫

2023-06-23 10:49:51 | 津村記久子
 津村記久子の小説は大体読んでいるが、第30回野間文芸新人賞を受賞した、この「ミュージック・ブレス・ユー」だけは読んでおらず、気になっていた。それが、先日ブックオフで見かけ、さっそく手に取ってみる。(ごめんね、本屋じゃなくて)

 津村さんって本当にイケてない中高生を書くのが上手いのよ。この小説の主人公アザミもそう。彼女は髪を赤く染め、眼鏡をかけ、歯にはカラフルな矯正器をつけている。高校3年生で受験を考えなくてはならない時期なのに、成績はサッパリ振るわず、数学が大の苦手で、追試や補講の連続。
 パンクロックが大好きで、ヘッドフォンをかけずーーーっと音楽を流し込む。大好きというより一種の中毒、ミュージック依存症。
 軽音楽部でバンドを組んでいてベースを担当。でも内輪もめで解散になる。女の子だけのバンドで、たいした活動もしてなかったようだが、アザミはまあまあ上手だったみたい。

 女子高生バンドのメンバーなんていうと、スクールカーストの上位ポジションにいる子というイメージがあるが、アザミは成績同様サッパリ。男女間の浮いた話も全くなし。でも音楽の趣味が合い、いつもつるんでいる友達はいて、それなりに楽しい高校生活をおくっている。

 でもね、この超低空飛行のアザミの高校生活は、私に色んなことを思い出させる。
「日本の女子高生であることを恥じる訳ではないけど、それを謳歌できる同世代の女の子たちを遠く感じるのは事実だった」
「アザミは、慣れない高校に入った緊張でひたすらしゃべりまくっていた。そうしないと泣いて学校から逃げ出してしまいそうだったから」
「誰かとどのぐらい仲が良いかについて、誇張せずに慎重にその距離を語ることは、とても大事なことである。自分の思う近さと、相手の認識する距離感がずれてしまっていたら、目も当てられないからだ。特に、自分の方が相手よりも相手と親しいなどと思い込んでいる場合は」  それぞれ本文から

 心当たりがありすぎて少々苦しいほど。でもアザミは音楽の趣味が合い、いつもつるんでいる友達がいるだけ、私より幸せな高校生活を送ったんだろう。うらやましいなぁ。
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垣谷美雨「ニュータウンは黄昏れて」新潮文庫

2023-06-13 14:46:50 | 垣谷美雨
 賃貸か持ち家か…本当に永遠の難問ですなぁ。
 ちょっと前、ブログにUPした「87歳、古い団地で愉しむひとりの暮らし」の多良美智子さんは、保守・管理・修繕はすべて公団がやってくれるから、だんぜん賃貸の方がオトク!って書いてるし、前々回ブログにUPした「老いとお金」の群ようこさんは、ポリシーとして賃貸派で、最近自分のライフスタイルにあわせ、ちょっと小さめのマンションに引っ越したと書いている。

 うんと高齢になると、年寄りには部屋を貸してくれないなんて話も聞くから、なんとか住居だけは確保しておくため買う、という考え方の人も多い。
 でも住居って、買っただけじゃ終わらないんだ。固定資産税だけじゃなくて、建物の経年劣化を遅らせる修繕費は本当に大きい。分譲マンションは管理費を積み立てているだろうが(それでも大幅に足りない)一戸建てで計画的に修繕費を貯めている家庭って、どれだけあるんだろう?
 義姉宅は、新築から30年ほどたった時、お風呂が壊れ、修理しようにもお金が足りず、お風呂は週に2,3回近所のスーパー銭湯に行っていた。どちらにせよ、しばらくしたら高齢者施設に入居したから良かったけど。

 この「ニュータウンは黄昏れて」は、著者の垣谷美雨さんの実体験が元になっているらしい。バブル崩壊前夜に買ってしまった分譲団地。20年近く経つ今もローンを抱え、主人公の主婦は節約に必死だ。その上、老朽化による建て替え問題が持ち上がり、住民たちの意見は真っ二つに割れる。
 そりゃ、現在の5階建てを12階にして増やした部屋を売りに出し、建築費をチャラにする案が出ているが、そんなにうまい事いくだろうか? 売れなかった場合、多額の借金を抱えることになる。最初はセールストークでうまい事言っていた大手や中堅のゼネコンも、採算が取れないと次々撤退する。
 分譲団地の住民たちも、それぞれの家庭の事情を抱えて…。

 こういったマンションの老朽化問題って、今後次々と表面化してくるんだってね。ああ、本当に大変だ。
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