ケイの読書日記

個人が書く書評

伊坂幸太郎・文 マヌエーレ・フィオール・絵 「クリスマスを探偵と」  河出書房新社

2019-01-05 10:26:14 | 伊坂幸太郎
 言い訳させてください!! もちろん、この絵本を借りたのはクリスマスのちょっと前です。でも読めなくて、年が明けてしまいました。
 新年早々のブログが『クリスマスを探偵と』なんて、あまりにも季節感なさすぎじゃない?と自分でも思うのですが…この絵本、なかなかしゃれている! 今年のクリスマスプレゼントに誰か(もちろん大人)にあげたいなと思わせる絵本ですよ。

 あとがきに書いてあるのですが、この小説のあらすじは、伊坂幸太郎が大学1年生の時に書いた短編が元になっているそうです。やっぱり、豊かな才能がうかがえますね。2010年、河出書房新社から『文藝別冊 伊坂幸太郎』という特集ムック本を出した時に、書き直して発表。
 その直後から「せっかくのクリスマスの話なので、プレゼントできるものにしたい」という話が持ち上がり、この美しい絵本になったそうです。絵を描いたマヌエーレ・フィオールさんは、有名な方らしいですが、私は今まで存じ上げなかった。でも、柔らかく優しい画風です。


 サンタクロースを何歳まで信じていたか、よくおしゃべりのテーマになるけど、昭和33年生まれの私は、親からクリスマスプレゼントをもらった覚えがない。もちろん、親の経済状態や宗教観、住んでる所の地域性などもあるだろうが、学校でもクリスマスプレゼントに何を貰ったかという話題は、あまりなかったと思う。昭和40年代の初めころまで、そんなに一般的な風習でもなかった。ケーキは食べた記憶があるなぁ。
 それよりも子どもの関心は、お年玉だった。おじさんに〇円貰った。おばあちゃんに□円貰った。合計〇〇円あった。いつまでお年玉って貰えるんだろう。親戚のお兄さんは大学生だけど貰ってるよ。などなど、教室内でお年玉の話が飛び交っていた。
 昔は今と比べて、親戚が多く、1人1人が少額でも結構な金額になったのだ。


 いつも思うが、クリスマスやハロウィーンと言った外国の風習は、日本ですぐ広まるのに、どうして日本古来の風習って消えていく一方なんだろうね。『お月見どろぼう』なんてハロウィーンに似てると思うけど。


 新年のご挨拶がおくれました。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
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伊坂幸太郎 「重力ピエロ」

2018-05-04 15:02:15 | 伊坂幸太郎
 仙台市内で頻発するショボい連続放火と、その火事を予見するような謎のグラフィティアート(壁のスプレー落書き)。
 そのグラフィティアートと遺伝子の奇妙なリンクに気付いた泉水は、弟の春とガンで入院中の父と一緒に、犯人を推理しようとする。(優しくて美しかった母親は数年前に亡くなっている)

 実はこの一家には秘密があった。いや、秘密でも何でもないか、読み始めて9ページ目に書いてあるもの。兄の泉水と弟の春は、半分しか血がつながっていない。父親が違うのだ。弟は、母がレイプされたことで生まれた。普通、こういう時は中絶をすると思うけど、この夫婦は産んで育てることを決断した。まぁ、宗教的な立場で、どうしても中絶できない人はいる。(ちなみに、この家族はカソリックではない)
 この事実は、春が高校生になってから本人に告げられ、大変ショックだったろう。しかし、うすうす泉水も春も気づいていた。そうだろうなぁ、隠し通せるわけないよ。
 でもレイプ犯は、未成年という事もあり、法律に守られ、名前もすっかり変えて再登場してきた。
 
 こういった痛ましい過去はあるけど、この一家は本当に仲が良いんだ。そして魅力的。
 特に弟の春は、アスペルガーだと思われるが、容姿もよく(お母さんが美人だった)IQも高く、女の子に冷たいので、逆に女の子から追いかけられる。どんな美女にも醜女にも平等に冷たいので人気があるのだ。ストーカー化する女の子も出てくる。彼は自身をピカソの生まれ変わりと信じ、尊敬する人は非暴力を貫いたガンジー。(でも春は結構暴力的)

 ストーリーも面白いが、どちらかと言えば、キャラで読ませる作品。それから、春が語る色んな蘊蓄が面白い。


 そうそう、個人的に胸がキュンとする場面があった。小説内で、春が小学校5年生の時、春の描いた絵が県のコンクールで大賞に選ばれた。家族は春の芸術的才能に気が付き、喜んで、週末には家族そろって展示会場に出向いた。会場の真ん中に堂々と飾られていた春の絵の場面。
 その場面を読んだとき、次男の事を思い出したなぁ。
 次男が保育園児だった時、県下の仏教系保育園の絵画コンクールで最優秀賞をもらったのだ。家族一同びっくり!!!
 親として嬉しくて誇らしかったなぁ。ひょっとして、この子は絵の才能があるのかも!?と絵を習わせようとしてみたり(本人が嫌がったので辞めたが)後にも先にも、その1回だけです。素敵な思い出です。
コメント (4)
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伊坂幸太郎 「フィッシュストーリー」

2017-02-14 10:59:27 | 伊坂幸太郎
 『フィッシュストーリー』の内容紹介で、「最後のレコーディングに臨んだ売れないロックバンド。いい曲なんだよ、届けよ誰かに。テープに記録された言葉は未来に届いて、世界を救う。時空をまたいでリンクした出来事が胸のすくエンディングへと一閃に向かう」と書いてあったので、すごーーーく期待して読んだが、たいして胸はすかなかったなぁ。設定は面白いがリンクが足りないと思う。でも、これって映画化されたんだよね。確か。

 他に『サクリファイス』『ポテチ』に、伊坂ワールドの人気者・黒澤が大活躍と書いてあるが、この本業・空き巣で、たまに探偵をやる黒澤って、そんな人気あるの? ちょっと貴志祐介の防犯探偵・榎本を思い出した。あの人も、本業は泥棒だから。
 この黒澤は、容色が整っていて、性格もヒドくないが、とらえどころがない。ハッキリ言うと魅力に乏しいような気がするなぁ。
 考えてみれば、伊坂幸太郎の主要キャラって、美男美女が多いような…。(たいして読んでないが)書きにくくないかな。美男美女キャラって。

 『動物園のエンジン』は…叙述トリックが仕掛けられていて「彼」が自分の思い込んでいた人物とは全く違うのには驚いたが、それ以外は無理があると思う。


 以上、あれこれマイナスの面ばかり書いた。確かに、伊坂幸太郎にしてはイマイチというだけで、水準高い作品集。
 一番良かったのは『サクリファイス』。黒澤が、人を探すため宮城と山形の県境にある小さな村に出掛けるが、そこには「こもり様」という奇妙な習慣が残っていた。現在は洞窟にこもるだけだが、昔は生贄をそこに閉じ込め、岩でふたをして神にささげた。
 人柱などもそう。この生贄の風習は、全国各地にあったろうが、その選び方は…。そうとう恣意的な物だったろうね。だって、村の有力者の息子が生贄になったなんて話、聞いた事が無い。
 権力者からみて、邪魔もの、死んでほしい者をを生贄に祭り上げるのだ。「葉を隠すなら森の中」じゃないが、殺したい相手がいるから、生贄をでっち上げた、なんてことが起こっただろうと推測される。
 不都合な真実を、宗教がらみでカムフラージュするって、よくあるだろうね。
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伊坂幸太郎 「アヒルと鴨のコインロッカー」

2017-01-30 10:27:54 | 伊坂幸太郎
 タイトルが変わっているけど、伊坂幸太郎だからハズレはないだろう、創元推理文庫なのでミステリのつもりで読んだが…これって純愛小説?!


 大学に入学するため、仙台にやってきたばかりの椎名は、アパートの隣人・河崎の口車に乗せられ、書店を襲う羽目になる。モデルガンを手に、書店の裏口に立ち、店員が逃げ出さないようにするのだ。

 次に、いきなり2年前の話になる。
 琴美という若い女の子は、ブータン人の留学生・ドルジと一緒に暮らし始め、ペットショップに勤めている。二人は偶然にも、犬猫殺しの犯人を目撃してしまい、琴美はつけ狙われる。そこに、琴美の元カレ・河崎がからんでくる。

 
 この椎名の視点から書かれた現在と、琴美の視点で書かれた2年前の出来事が、交互に登場し、どういうふうに結びつくんだろうと、私もビクビクしながら読み進める。

 なんせ、このペット殺しが本当に気持ち悪いんだ。最初は、野良猫を捕まえてはバラバラにし、それだけでは飽き足らず、ペットショップの大型犬までも盗み出し切り刻み、次に人間も殺したいという願望をもっているキモイ男女の3人組。
 彼らは、犬猫を殺しても、キャンキャンと鳴くだけで「助けてくれ!」と命乞いしないので、つまらない。人間に命乞いさせたいらしい。そこで、琴美が彼らのターゲットになる。

 琴美も、危機感が薄いというのか…。読んでいてイライラする。
 定期を落として、住所が犯人たちに分かってしまい電話もかかってくるのに、その音声の録音を消すなんて、うっかりにもほどがある。
 狙われているのが分かっているのに、自宅がどこかも知られてしまったのに、夜道をぼんやり歩くだろうか? 私だったら、いや、ほとんどの人が怖くて自宅に帰れないよ。実家に戻るか、友人知人の家にしばらく泊めてもらうかするね。

 この犯人たちも、知能犯という訳でもないのに、なかなか警察に捕まらないのは、どういう訳? それもイライラするなぁ。

 最後に、本屋襲撃事件と、2年前のペット殺し事件は結びつく。
 ブータンの宗教観では「死んでも、生まれ変わるだけだから悲しくない」はずだが、悲しい結末。でも、3人は来世でまた出会うんだろう。
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伊坂幸太郎 「死神の精度」

2016-12-15 09:58:19 | 伊坂幸太郎
 驚くべきことに、これが私の初・伊坂幸太郎作品。評判良いので、読みたいなぁとずっと思っていたが、どういう訳か未読だった。
 読み始めると…これがすごく面白い! 実家に行く地下鉄の中で読み始めたが、あまりに面白いので、行きについつい2駅、帰りに1駅乗り過ごした。本当の話です。

 6話の連作短編集。当然ながら、すべてに死神が出てくる。意外だが、死神は自殺や病死は管轄外らしい。事故死とか犯罪で死ぬのを担当しているようだ。これにはビックリ! 自殺は死神のせいだと思っていたのに。
 死神は、死神の上部組織から調査を依頼され、一週間前にターゲットに接触。2,3度話を聞き「可」もしくは「見送り」の報告をする。
 ターゲットがどういう経過で選ばれるのか、全くわからない。そもそも、何を基準に「可」or「見送り」を決めるのかも分からない。ほとんど「可」らしい。たまに、ターゲットの歌声を聴きたいという理由で、今回は「見送り」とする事もある。

 また、死神たちは皆、無類の音楽好きで、よくCDショップの視聴コーナーに入り浸っている。本作の主人公の死神など「人間の作ったもので一番素晴らしいのはミュージックで、もっとも醜いのは、渋滞だ」という。音楽のジャンルは何でもいいらしい。

 このちょっとズレてる死神のキャラの魅力だけでなく、物語構成も本当に見事。一編一編のプロットに仕掛けがあって、ターゲットの謎にひきこまれる。それぞれの謎は最後に解き明かされてスッキリするが、第5作品「旅路で死神」では、その謎が解けてない。だからフラストレーション。作者の提示した色々な解答は、すべて違っているような気がするな。

 そうそう、作中に出てくる若い女の子(ターゲットではない)のセリフ「人間の作ったもので最悪なのは、戦争と除外品だ」には、思わず同意した!! 素敵だなぁと思っている服屋があって、バーゲンのはがきが来たので、いそいそと出掛け、30~50%オフか、これなら買えそうだと、あれこれ選び、これに決めた!とレジに持って行くと「これはセール除外品ですが、よろしいですか?」と店員さんが無情の宣告。がーーーーん! 早く言ってよ!
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