ケイの読書日記

個人が書く書評

クリスティ作「ゴルフ場殺人事件」を読んで

2005-05-27 16:06:42 | Weblog
 これは珍しくフランスを舞台にした作品。色いろな伏線がはってあって、すじみちたてて考えればわかるようになっているが、私にはイマイチ楽しめない。どうしてかなと、色いろ考えたが、舞台がフランスだから、という結論に達した。

 子どもの頃、アルセーヌ・ルパン物を読んで夢中になったが、あれはミステリというより冒険小説だ。フランスの推理物といえば、メグレ警部シリーズが有名。私も何冊か読んだことがあるが、
どうも好きになれない。どうしてかなあ。
 失礼な話だが、登場人物に愛着がわかないのだ。日本の有名作品でも、西岡京太郎の十津川警部シリーズを20冊くらい読んだが、好きになれない。感情移入できない。どうしてあのシリーズがあんなに人気があるのか、私には不思議。

 私がこの作品を読んで雑という印象を持ったのは、風景の描写がほとんどないからだ。
 例えば、タイトルが『ゴルフ場殺人事件』とあるが、ゴルフ場はほとんどでてこない。被害者の別荘の敷地と隣のゴルフ場造成地の境の穴に遺体は放置されていた。オープンしているゴルフ場ではないせいか、ゴルフ場の描写はほとんどない。また、ジュヌヴィエーブ荘とかマルグリット荘とか、ご大層な名前がついた屋敷は出てくるが、庭はどうなっている、何年ごろ建てられた屋敷だ、
間取りや家具の記述もほとんどない。『スリーピングマーダー』を読んだ後だからよけいそう思うのだろうか。つまり雰囲気がないのである。この作品は、作者が出版社にせっつかれ、やっつけ仕事で書いたのだろうか。

 唯一、この文庫のめっけものは、解説をポアロの声の吹き替えをやっている声優の熊倉一雄
が書いていることである。とてもおもしろい。彼も書いているが、テレビドラマのポアロを演じているデヴィット・スーシェは、そのままのポアロだと思う。映画で他の俳優さんがポアロを演じているのを見ると、あれっ?! 卵形の頭なのに、なぜ髪の毛がはえているんだろう、と奇妙な違和感を覚える。やはりツルツルの頭じゃなければおかしい。それに小柄で小太りは必須条件。大柄で堂々とした体格のポアロなんておかしいよ。
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クリスティ作「スリーピングマーダー」を読んで

2005-05-19 17:45:40 | Weblog
 この作品には、大変思い入れがある。
 もう10年以上前だと思うが、BBC放送が製作したこの「スリーピングマーダー」をNHKで見たのだ。その頃は子どもが小さいので、バタバタ忙しく、ゆっくりテレビを見る暇もなかった。あれやこれや、やりながらテレビを『ながら見』するのが常だったが、これは導入部が格段におもしろく、どんどんひきつけられ、最後まで一気に見てしまった。
 プロローグ部分ーーーー新妻が初めて来たはずのイギリス南部で、素敵なヴィクトリア時代の古い売り家を見つけ、心ひかれ懐かしく思い、そこに住むことになる。しかし食堂につながっていたドア、テラスから芝生におりる段々、小さなヒナゲシと矢車草が並んでいる壁紙、新妻は奇妙なことに初めて見るはずの家の中に既視感を抱く。そしてーーーーーこんな見事な導入部はめったにないと思う。彼女の作品の中でも一番ではないだろうか。

 ミス・マープル物はポアロ物と比べ、事件までの話の持って行き方がすごく素敵。
 ポアロは名探偵として有名、という設定だから、依頼人が次々難問を持ってきたり、警察が未解決事件の相談をしたり、という始まりが多くワンパターンになりがち。
 しかしミス・マープルはセント・メアリ・ミード村の、お節介ばあさん、善良な一市民という設定なので、事件がどのようにミス・マープルにつながっていくか、そこまでの道筋がとてもおもしろいのだ。
 例えば『パディントン発4時50分』。老婦人がパディントン発4時50分の列車に乗りぼんやりしていたら、すれ違った列車の窓から1人の男が女性の首をしめ殺しているのが一瞬だが見えた。びっくりした老婦人は駅員にそのことを伝えたが本当にしてもらえない。友人のミス・マープルに打ち明け、そのうち死体が発見されるだろうと、話し合ったが、死体は発見されない。そこでミス・マープルは線路沿いの地図を広げ、ある一つの仮定を立てる。これも、本当に惹きつけられる導入部だ。

 ひとつ訂正があります。私が以前『五匹の子豚』の読書感想の中で、クリスティは青い目があまり好きでないかも、と書いたが訂正します。ミス・マープルはやせて背が高くばら色のほほと青い目を持っているようです。そこでクリスティは青い目にとても高い評価をしていることがわかります。それから金髪。(マープルの若い頃は髪は何色だったんでしょう)アングロサクソンの国でも天然の金髪は少ないようで、クリスティの作品中、金髪美人は多く出てきますが、「染めているに違いない」というやっかみを、たびたび言われているようです。


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クリスティ作「復讐の女神」を読んで

2005-05-18 11:43:03 | Weblog
 この作品は1971年、つまりクリスティ81歳の時に発表された最後のマープル物。
 1976年に『スリーピングマーダー』が発表されているが、実はこれは、1940年代に書かれたもので、クリスティの死後、発表された。だから実際はこの『復讐の女神』がマープルの最後の活躍なのだ。
 それにしても驚くべき創作意欲、能力だ。人生の最晩年になっても、こんなに次々と小説がかけるもんだろうか?しかも、その内容がおもしろいのである。まったく衰えをみせていない。こんなミステリ作家は他にいるだろうか?ミステリって年を取ると書けなくなるような気がするが。
 
 話は最初の方はもたつく。ラフィール氏が、いったい何をマープルにやってもらいたいのかが、はっきりしないし『カリブ海の秘密』に出てきたエスター・ウォルターズやアーサー・ジャクソンが何のために登場するのかわからない。特に偶然を装ってまでエスターに会うことに相当数のページを使っているが、何の意味があるのだろうか。最後まで何かの意味があり、事件の結末に関係があるかも、と思い込んでいた自分があほらしい。

 つまり最初の1/5ぐらいまでは、散漫な印象を受けるが《大英国の著名邸宅と庭園めぐりの旅》にマープルが参加するようになると、がぜんストーリーは動いてくる。旧領主邸の三人姉妹の登場。
 マープルは彼女たちの印象を『マクベスの三妖婦』と感じている。ここらで、だいぶストーリーのネタが割れてくる。だいたいの犯行状況も犯人も簡単に推理できるようになる。
 
 それにしても、この旧領主邸の荒れ果てた屋敷や庭園の雰囲気は本当にすばらしい。こんな所がまだイギリスに残っているんだろうか。立派な近代的ビルも美しいが廃屋というのは妙に人の心をそそるところがある。子どもの頃、空き家になった廃屋を探検したいと思った人は多いだろう。 
 よく管理されたお庭はもちろん素晴らしいが、崩れ落ちた温室、雑草だらけの菜園、荒れ果てた生垣、誰も歩かなくなった通路、芝生、かってはビクトリア朝時代の美しい庭園だったことを、かすかに思い出させる荒れた庭。
 まるで『秘密の花園』のようだ。いいなぁ、こういう所を訪れてみたい。

 旧領主館の通いのお手伝いのジャネット。紅茶のポット、カップにミルクつぼ、バターとパンの小さい皿をのせたお盆、陶製洗面台に湯を入れた水差しのかん。こういった脇役や小道具も大事。『クリスティを巡る旅』なんてのがあったら、絶対行きたいね。
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クリスティ作「五匹の子豚」を読んで

2005-05-12 15:59:51 | Weblog
 この作品はいままで読んだことが無い。私にとって新作。とても面白い作品。
 あらすじはこう。若い恋人に走った有名な画家を妻が毒殺、獄死した。16年後その事実を知らされた娘は、母親の無実を証明すべくポアロに依頼する。ポアロは過去へとさかのぼり当時の状況を再現していく。

 この作品の前に「カーテン」を読んでいたので、メレディスがカロリンをそそのかして、自分は手を下さずにアミアスを殺させたのか、と推理したが、違っていた。しかしその可能性は十分あったはずだ。愛人が家の中に乗り込んできて夫婦喧嘩が絶えない夫婦の前で、毒薬をみせびらかし、その使い方や効能をしゃべりまくればどうなるか、わかってもよさそうなのに。

 この作品は、読者に対しとてもフェアな扱いをしている。犯人を推理する材料は読者の前にすべて提示されている。私の推理はとても的外れなものだったが、それでも読み進んでいく途中、なぜこの人はこんな不自然なことを何度も言うのだろう、とか、離婚が決まった夫婦の会話としてはずいぶん変だ、とか、カロリンが妹に残した手紙の内容はいったい何を意味しているんだろう、とか
を論理的に考えていけば、たどりつく結論は一つなのだ。この作品は知名度はあまり高くないかもしれないが、隠れた名作だと思う。

 ミステリの内容にはまったく関係ないが、気に掛かったことを一つ書く。殺人犯として獄死したカロリンの娘カーラは『誰もがいちどは振り返って見ずにはいられないような美しさをもっていた』女性で濃い灰色の眼でポアロを見つめていた。
 またカロリンから夫を奪おうとしたエルサも、すばらしい美人で大きな灰色の眼を持っている。
ここで一つ疑問が浮かんだ。いぜん何かの小説か雑誌で読んだのだが、女性の瞳が灰色だとあまりにも知的すぎる印象をもたれ、美しさの点ではマイナスだ、と書かれてあったのだ。クリスティってあまり青い瞳は好きじゃないのかな?うすぼんやりとした、とか、ずるそうな、といった形容であまり良くない。ポアロ?ポアロは、脳細胞は灰色だが、瞳は緑色。いいねぇ。アッシュを思い出すよ。
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クリスティ作「カーテン」を読んで

2005-05-11 11:43:26 | Weblog
 この作品も以前呼んだことがある。しかし作中ポアロが死ぬという大事件があったのに、私はサッパリ覚えていない。なぜ以前呼んだことがあると断言できるかといえば、ジョン・フランクリンという科学者が妻バーバラが死んだ後いった言葉『結婚して、およそ1年後には恋から醒めてしまったんですよ。バーバラの方はもっと早く醒めたんじゃないでしょうか』を、ハッキリ覚えているからだ。このセリフをクリスティの小説の中で読んだ覚えがあるが、どれだったろう、と探していたのだ。半分あきらめていた探し物がひょっこり出てきたみたいで、とても嬉しい。

 この作品の中の殺人者のように、自分で手を下すことなく人をそそのかして、殺人を犯させる、といった事件は、小説の中だけで、実際にはありそうもないと思いがちだが、現実にあるから驚く。
 例えば、九州で起きた子ども2人を含む一家6人を殺してバラバラにして海に捨てた事件だが、これも被害者一家の身内の女とその愛人が、家族6人を精神的に追い込み、殺しあうようにしむけたのだった。
 また、元看護婦が昔の同僚だった看護婦2人を言葉たくみに騙し、その夫を殺させ、保険金を自分でかすめとる、といった事件もあった。
 どちらの事件とも首謀者は、死刑を求刑されている。
 しかし、そんなに簡単に人って操れるのかなあ。そんなに簡単に人を思うままに動かすことができるのなら、営業の仕事をやればトップセールスマンになれるだろうに。

 この作品は1975年に発表されたが、実際に執筆されたのは1940年代の前半らしい。つまり第二次世界大戦中だった。(マープルが主人公の『スリーピングマーダー』も同じ時期に書かれ1976年に発表されている。)しかし戦時下を思わせるような描写はほとんど無い。いつ発表するか、本人もはっきり考えていなかったのかもしれない。
 この作品には「ポアロ最後の事件」という副題がついている。実際ポアロはすっかり老いぼれて立つことも歩くことさえままならない。
 しかし、灰色の脳細胞はまだまだしっかり働き、その口の回ること回ること。
 ポアロは食べ物にうるさいので下宿屋の食事を気に入ることはめったにないのだが、この小説の舞台の高級下宿屋の部屋や家具、食事をこきおろしまくる。相棒のヘイスティングスの顔を久しぶりに見たからだろう、不平を並べ続ける。ああ、親愛なるヘイスティングス。彼が登場するとぐっとコメディテイストになります。
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