ケイの読書日記

個人が書く書評

角田光代「曽根崎心中」

2014-03-31 16:31:23 | 角田光代
 近松門左衛門の原作を、角田光代が翻案したもの。文楽の『曽根崎心中』も歌舞伎の『曽根崎心中』も見た事はないが、あまりにも有名な話なので、ストーリーだけは知っている。

 大阪・新地の売れっ子遊女と、しょうゆ問屋の手代が、相思相愛の仲になる。しかし、手代は、偽証文を作って金をだまし取ろうとしたと疑われ、遊女には金持ちからの身請け話がすすむ。追いつめられた二人は、曽根崎の森で心中した、という実話をもとにしたお話。


 客と遊女の間で、「死んで来世で結ばれよう」という約束は、頻繁に交わされるだろうが、本当に死んじゃう二人は少ないので、当時としては大きな反響を呼んだらしい。

 死ねるかな? カミソリを相手の喉に突き立てると噴水のように血が噴き出して、あまりにも怖くて、自分の喉をかっ切る事は、すごく難しいだろう。でも、心中が大罪だったこの時代。生き残っても死罪になるだけだから、度胸を決めたのだろうか?辺りは血の海だろう。ああ、恐ろしい。


 それにしても、この時代、粋が何よりも大事だったんだ。どんなにお金を持っていても、田舎者はバカにされる。
 「冗談じゃない、あんな田舎者。今日みたいな大盤振る舞いは年に一度のくせして、何がいくらかかったとくどくど言い募る。酒の飲み方も汚くて、おかみや若い者に絡んだのも一度や二度じゃない」
 「しみったれの田舎大尽やさかい、こんな店にしたんやないか。ここやったら貸し切ったとしても、うちよりはるかに安かろうて算段、けちくさい男」
 「ど田舎者といっしょに、ど田舎で暮らすんは、あても勘弁やわ」

 いや、もう、さんざんな言われよう。でも、こういったお高くとまった遊女の方が、いいお客さんがたくさん付くんだろうね。
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東野圭吾「探偵ガリレオ」

2014-03-26 13:26:28 | Weblog
 「聖女の救済」が面白かったので、いまさらながら読んでみました。天才物理学者・湯川シリーズの第1弾。

 当然ながら、内海刑事は登場せず、むさい草薙刑事がワトソン役で、楽しく読めるかなと心配したが、これはこれで面白い。頭が良いが(たぶん法学部)全くの理系オンチの草薙なので、読者にとって親しみが持てる。
 最初に草薙が湯川の研究室を訪ねる場面は、ワトソンがホームズを病院に訪ねる場面(「緋色の研究」の最初)を少し思い出して、いなぁと思った。まぁ、草薙は湯川の大学時代の友人だけどね。
 それに、草薙が湯川に「たまには銀座なんかどう」と誘って、湯川が「どうした、臨時ボーナスでも出たのか」とおどける所など、生活基盤がしっかりした34歳の男の余裕が感じられるなぁ。

 そうそう、シリーズ最初では、二人とも34歳という設定なのだ。これは、火村・アリスコンビと同じ。イマドキの名探偵は34歳が一番いい年齢なんだろうか?
 確かに…四捨五入すれば、まだ30歳だしね。


 全部で短編5話。科学を題材にしたメイントリックはそのままだが、人物像、背景、動機などが、TVドラマとは大きく異なるのには驚いた。確かに、この短編を1時間ドラマにしようと思うと、そうとう膨らませなくちゃならないだろう。特に、犯人の人物像を変えている。

 私が読んだのは文春文庫で、解説は佐野史郎が書いている。筆者は、佐野史郎をイメージして、湯川を書いたらしい。そういえば、湯川の容貌を「前髪を眉の少し上で切りそろえた髪型」と記述してあって…うわぁ、佐野史郎のまんまだなぁ。これでは視聴率は取れない。やっぱり、福島・湯川を支持します。
 ただ、佐野は解説で「草薙は誰がいいだろう…と、いろいろ想像がふくらんでくる」と書いているので、自分でやるつもりだったんだろう。Too Bad!
 でも、佐野史郎の湯川も見てみたいね。
コメント (2)
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歌野晶午「死体を買う男」

2014-03-21 14:14:42 | Weblog
 サナダさんがブログで紹介していて、面白そうだったので読んでみた。Very good!!
 マトリョーシカのように二重構造になっていて、その作中作品に、江戸川乱歩や詩人の萩原朔太郎が登場する。
 
 詩人の萩原朔太郎って…もちろん名前は知ってるけど、高校の国語の教科書に載ってたかな? 猫が鳴いてる詩があったような気がする。中原中也だったら、少しは覚えているんだけど。詩集など、全く興味ないので、キレイさっぱり忘れてるね。


 自分の才能に限界を感じ、創作に行き詰った乱歩は、南紀白浜で自殺しようと試みるが、そこで1人の学生に助けられる。ところが、数日後、その自殺を止めたはずの彼が、首つり自殺をとげた。本当に自殺なのか? 不審に思った乱歩は、朔太郎も巻き込み、事件の真相を突き止めようとする。
 朔太郎がホームズ役、江戸川乱歩がワトソン役。

 調べてみたが、実際、萩原朔太郎ってミステリが大好きで、江戸川乱歩と親交があったんだってね。(「人間椅子」や「パノラマ島奇譚」がお気に入りらしい)
 それに音楽も好きで、マンドリンの演奏会も開いているし、作曲もしたらしい。こういう所が、ヴァイオリンがプロ級と言われるホームズに似てる。

 だから、歌野晶午が想像力をふくらませ、こういった作品を書いたのだろう。

 文体も、少し乱歩に似せようと、擬音やカタカナを多用してるが、すっごくライト。コメディと言ってもいいくらい。
 墓を掘り返すシーンがあるが、本物の乱歩だったら、恐ろしくて、背後を何度も振り返りつつ読むだろうが、この作品はちっとも怖くない。

 古典的な双子を使ったトリックで、こじんまりとまとまっている。でも、朔太郎と乱歩のキャラで読ませる。二人の会話が、掛け合い漫才みたいで、御手洗と石岡を思い出すなぁ。
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笠井潔「オイディプス症候群」(第8章~第10章・終章)

2014-03-18 15:01:02 | Weblog
  

 前回、前々回からの連続殺人は止まらない。次々と人が殺され、最も犯人に近いと疑われた男までもが、殺される。まさに金田一耕助状態。
 複数の人がそれぞれの思惑でもって、てんでばらばらに行動するから、こうなる。
 ナディアが、様々な仮説を立て、次の殺人でそれが打ち砕かれ、新たな仮説を組み立て…という事を何度もやっていると、自分の頭の中もグチャグチャになる。

 ナディアと殺人鬼の、暗闇の中の追いかけっこ。最後にカケルが事件を解決し、このややこやしい孤島の連続殺人事件を説明するのだが、説明されても(私の頭では)しばらく考えなくては、理解できない。
 それに、カケル! もっと犯罪を防ぐ努力をしろよ!! そういう所が、金田一耕助なんだよ!
 でも…ナディアが館に到着した時になくしたマニキュアすらも、伏線に使われているので、すごいなぁと感心する。いたるところに張られた伏線が、きれいに収束されている。なかなかの秀作ですよ。これは。


 推理小説としては、このメイントリックは反則かなとも思うが、さほど気にならない。だって、これは迷路館だものね。

 ありえないと思うのは、使用人の数の少なさ。この宮殿のような館に、2人とは…。これは、綾辻行人の『館シリーズ』でも感じるが、家事労働というか、ハウスキーピング労働を、男性作家は舐めてるんじゃないかな。
 ホテルで働いている人に聞いたんだけど、10人の客をおもてなしするためには、10人の従業員が必要だと言ってた。
 考えてもみて。10人のお客さんの食事を作るって大変だよ。
 せめて、コックとか庭師とか、専門職の使用人を登場させてください。


 この孤島の連続殺人事件の、そもそもの発端は、5歳の男の子が誘拐・レイプされ、オイディプス症候群に感染したことに始まる。
 こういった、子どもを狙う性犯罪者って、クソだと思う。呪われろ! チ○コが腐ってもげろ!
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笠井潔「オイディプス症候群(第4~7章)」 

2014-03-13 10:54:08 | Weblog



 いやー、皆さん、申し訳ない。おとといまで、仕事がすごく忙しく、顔を洗う暇もないくらいだったのだ。昨日あたりから、だいぶ落ち着いてきた。という事で、読書も、あまりはかどってないけど、7日間も間隔があいてしまったので、読んだ所までの感想を書きます。

 牛首島のダイダロス館に集まった男女10人。到着日のディナーの後、客の1人が墜落死する。酔っていたので、事故死とも考えられるが、他殺かもしれないと、他の客たちが不安にかられている最中、館の使用人がいなくなる。
 そして、何者かがクルーザーで、島を脱出しようとするが、嵐で大荒れの海で、クルーザーが大破し、客たちは孤島に閉じ込められる。
 典型的なクローズド・サークルの中で、第2、第3、第4の殺人が、たてつづけに起こり…



 タイトルになっている『オイディプス症候群』という病気は、エイズがモデルになってるんだ。どうしてギリシャ悲劇の主人公の名前が付いているのかといえば…笠井潔が、ギリシャ文化のうんちくを語りたいので、強引に名づけた…という事だろう。
 しかし、自分たちの中に殺人犯がいるというのに、こんなに長々と登場人物たちが、ギリシャ悲劇や神話やホメロスやオディッセイアや社会主義や弁証法的権力などを語り合うというのは、不思議です。

 それに、この招待客たちは、実に人権を尊重して紳士的な人たちなんだ。カケル以外はすべて白人なのだが、こういった惨事の犯人捜しをする時、何の根拠もないのに、異質の人間を(この場合は、東洋人のカケル)犯人にでっち上げることが、よくあると思う。
 特にカケルは無表情で、何を考えているか、分からないしね。

 だから、いつ攻撃の矛先がカケルに向かうんじゃないかと、ひやひやしながら読んでいるが、そういった心配はないみたい。

 筆者の笠井潔は、若い頃2年ほどフランスに留学していたそうだが、人種差別的な不愉快な目にあったことがないんだろうか?
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