ケイの読書日記

個人が書く書評

芥川龍之介 「戯作三昧」

2015-08-27 13:37:08 | Weblog
 小説家のポートレイトというと、誰を思い出すかといえば、私は芥川龍之介。
 夏目漱石でも、森鴎外でも、大江健三郎でも、三島由紀夫でもなく(そういえば、川端康成って、ちょっと芥川に似てるね)もちろん、又吉では絶対ない!
 芥川の、神経質そうな、頭が良さそうな、30歳になる前に自死しそうな(実際、35歳で睡眠薬自殺している)そういった雰囲気が、私の小説家のイメージにピッタリなのだ。

 だから、この『戯作三昧』という短編の主人公のモデルが、『南総里見八犬伝』を書いた滝沢馬琴ということに、少し驚いた。だって、滝沢馬琴って、幸せな家庭生活を営み、天寿を全うした物語作家だと思っていたから。だから、芥川が、それほど興味を引く対象だとは思ってなかったのだ。


 話は、馬琴が珍しく朝湯に行ったところから始まる。
 高齢で視力も落ちている馬琴が、身体を洗っていると、彼のファンという男が声をかけてきて褒めちぎる。その男がどこかへ消えると、今度は馬琴のアンチファンらしい男が、馬琴に聞こえるように「馬琴など大したことはない。十返舎一九や式亭三馬の方が、よっぽど素晴らしい」と銭湯中の客にしゃべりまくる。
 銭湯から帰ると、出版元の和泉屋が来ていて、今注文している仕事の他に、もう1本書けないかと要求される。
 それも、ライバル作家の○○さんは、仕事が早くて出来がいいと、プレッシャーをかけて。

 やっとのことで、和泉屋を追い出すと、仲のいい渡辺崋山が画を持って遊びに来て、しばし談笑。やはり、同じ創作者だと、話も弾み刺激を受ける。

 しかし、妻からは、大したお金にならないのに、書き物ばかりしていると不満を言われる…。


 ああ、これって芥川龍之介の事なんだ。自分を馬琴になぞらえているんだね。
 馬琴の奥さんに言いたい!「あなたの亭主の名前は、200年近くたった今でも、日本の教科書に載っているんですよ! 素晴らしい人なんですよ!」って。
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岸本葉子 「ためない心の整理術」

2015-08-22 10:48:06 | Weblog
 先回読んだ対談集『毒婦たち』にムカついている。こんな女ばっかりで、日本はどうなるんだ!といらだつが(毒婦にイラついてるのではない、筆者の上野、信田、北原にイラついている)、この岸本さんのエッセイを読んで、持ち直す。一服の清涼剤。そうだ!日本には岸本葉子さんがいるよ!


 とはいっても、いつも読むエッセイは日常生活を題材にしたものだが、これはストレスをためない心の持ち方を書いているから、正直、退屈。
 それでも、これはいいな!と感じる個所もある。例えば「意識して持つ口ぐせ」という章。『心の治癒力をうまく引き出す』(黒丸尊治著)という本に書いてあったらしい「まあ、いいか」。強くストレスを感じる出来事があったらつぶやく「まあ、いいか」。
 岸本さんは、これに似たように「こういう日もある」という言葉を使っているらしい。やる事なす事、上手くいかない時「こういう日もある」と言葉にしてつぶやくそうだ。
 
 私は…「こういう人って、いるよね」かな? 出来事より、人にムカつくことが多いので。でも、相手も私を見て「ああいう人って、いるよね」と思ってるんだろうね。


 他には、フリーランスならではの悩みも書かれている。
 仕事を何度も一緒にした出版社の担当者と、人事異動を機に、行き来が途絶えた時。後任の人とは名刺交換をしたが、その後、全く連絡はない。自分と仕事をする気は無いのかも。折々に、企画書や資料を送るが、返信はない。返信しなくても構わない相手だと、自分の事を見なしているのだ。仕方がない。次の人事異動を待とう。

 気持ちの切り替えが早くないと、フリーランスの場合、自滅していくだろう。自分は評価されていない。なぜ?どうして? 反省するのは大事だが、ほどほどにしないと。負のスパイラルに陥る。突き詰めすぎないように。
 こういう所が、本当に勉強になるなぁ。
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上野千鶴子X信田さよ子X北原みのり 「毒婦たち」

2015-08-17 16:03:26 | Weblog
 木島佳苗、東電OL(この人は被害者)、角田美代子、上田美由紀、下村早苗、畠山鈴香、三橋歌織という、そうそうたる女性犯罪者たちを俎上に載せた対談集。

 上野千鶴子や信田さよ子の本は、いままで読んだ事があったので、だいたいの主張は分かっていたが、北原みのり氏は初めて。なかなか過激な人なんだ。女性のためのセックストーイショップを経営。そして、ジェンダー視点で考察したコラムニストなんだ。へーえ!!!
 
 私がこの人に慣れていないせいなんだろうけど、引っ掛かる箇所多数。例えば、こんな箇所。「…私たちって、日常的に脅しの文化の中で生きているんじゃないかって強く感じるんです。この間、韓国へ行ったんですが、あの国にいると、脅されている感覚がすごく薄かったんですね。(中略)  この国(日本の事)全体が、原発国家だし、DV国家だし、家庭の空気も社会の空気も、いつもいつも何かに脅されて、びくついて、こんなこと言ったら何か言われるんじゃないかって気分が、充満している」

 この人は、韓流が大好きなので、韓国の方が素晴らしいと思う気持ちが強いんだろうけど、でも、それって本当??? 
 韓国って、すごく儒教思想が強いから、日本以上に「女性は女性らしく」「女は男に選ばれてなんぼ」」という価値観に縛られていると思うけどなぁ。

 だいたい、そんなに脅されてびくついている気がするなら、日本を脱出して海外でのびのび仕事をしたら? そういったジャーナリストやコラムニストは、いっぱいいるじゃん。日本は息が詰まると言って。国籍を取るのは難しいけど、永住権は取れるって!


 最近、戦後70年と言って、TVでも新聞でも雑誌でも、日本のネガティブなニュースばかりが溢れていて、見るのも読むのも、なかなかシンドイ。
 こんなに毎日、反省しろ!反省しろ!反省しろ!と言われ続けると、疲れてかえって嫌になっちゃうよ。
 それでも「被害者の方々が、もう謝らなくてもいいですよ、謝罪は十分です、とおっしゃるまで、謝り続けなければならない。」と主張する人もいるから。本当に神様みたいに立派な人です。申し訳ない。私は神様にはなれません。
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橘玲 「不愉快な事には 理由がある」

2015-08-13 10:21:23 | Weblog
 表紙カバーに、どーんと喪黒福造氏(笑ゥせぇるすまん)が載っているので、すごく目立つ。筆者の橘玲氏については、全く知らなかったが、おもわず手に取ってパラパラ。面白そうだったので借りる。
 橘玲氏は、経済小説を書いている人らしいが、経済の専門家ではないので、自由気ままに思った事をエッセイとして書いている。素人にしか社会批評はできないと言って。


 数年前に話題になった「ベーシックインカムの導入」についても考察している。「20歳以上の国民に、一律に月額7万円を支給する」なら、年金も、失業保険も、生活保護も、すべて不要になるので、行政を簡素化でき、かえって安上がり、という考え方もあるそうだ。
 なんという斬新なアイデア!!!! と驚いたが、もっと驚いたのは、同じような貧困救済策を、産業革命勃興期のイギリスがしていたらしい。
 
 1795年5月、スピーナムランドという小さい町で、「1人ひとりの所得に関係なく、最低所得が保障されるべきである」として、パンの価格に応じた賃金扶助をしたのだ。しかし1834年、廃止されてしまう。(でも、40年近くも、この法律があったという事はスゴイね! さすが英国!)

 どこが上手くいかなかったかというと…
① 労働の論理を破壊する。受け取る所得が同じなら、働くのはバカバカしいだけ。
② 雇用主が払う賃金が極端に下がる。 差額の賃金が税金で補てんされるなら、労働者を安く働かせてもOK。それどころか、貧困層に支払われる家賃扶助を目当てに、ボロ屋を貸し付けて儲ける、現代日本の貧困ビジネスそっくり。

 ①も②も、すごくよく分かります。時代や国が違っても、人間の本質ってあまり変わらないよね。
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有栖川有栖 「怪しい店」

2015-08-08 10:15:56 | Weblog
 「古物の魔」「燈火堂の奇禍」「ショーウインドウを砕く」「潮騒理髪店」「怪しい店」の5編を収録。初出が2014年なので、最近の火村とアリスの話。いつも通り、好調です。
 
 この火村とアリスのコンビは、永遠の30代半ば独身で、トシを取らないんだよね。それが、御手洗・石岡コンビと大きく違う。御手洗と石岡は、作者の島田荘司と同じ、団塊の世代らしいから、今は60代後半か…。

 それに、火村・アリス組は、2人の推理能力にそれほど差がないので、事件に関しての会話のキャッチボールができて、その間に読者も色々考えることができる。それが、なかなか楽しい。ああ、本格推理小説を読んでいるなって。

 ところが、御手洗・石岡組だと、御手洗が突出した推理でどんどん先に行ってしまい、石岡君はうなずくだけ。読者である自分も石岡君化してしまい、何も考えず読み進み、最後に「ああ、御手洗ってすごいなぁ!天才!!」って事になる。
 読み物としてすごく面白いけど、犯人や動機、犯行手口など、自分であまり考えないで読書終了となる。それが、残念と言えば残念。


 第5話の「怪しい店」は、少しネタバレになってしまうから申し訳ないが、悩みごとの相談を受けている女が、そこで知った情報を元にお客を恐喝する。これって、表面化しないだけで、水面下では、結構ある話じゃないかな?
 仲の良い友人や肉親よりも、見ず知らずの占い師やカウンセラーの方が、悩みを打ち明けやすいって心理、理解できます。
 その悩みの原因が、法に触れる、あるいは人間関係を破壊するものだったら…。一方で取り繕って善人のように振る舞っているのに、もう一方では、知られたら破滅する秘密を、わざわざ有料で見知らぬ他人に打ち明ける。バカな事、やってるなぁ。

 誰かに話さなければ狂ってしまう、そういう場合は、各自治体がやっている「心の電話」におかけ下さい。無料だし、誰がかけてきたのか詮索しません。
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