ケイの読書日記

個人が書く書評

堤未果 「ルポ 貧困大国アメリカ」 岩波新書

2021-03-26 15:35:12 | その他
 以前、この本がベストセラーになってることを知って読んでみたいと思っていたが、第1刷発行が2008年1月だから、ずいぶん前だ。リーマンショックやそれ前のアメリカの現実を書いている。
 読んでいるうちにイヤになっちゃったね。なにも「アメリカは夢の国」と思っていた訳じゃないが、次々と記述されている悲惨な状況にうんざり。「貧困が生み出す肥満国民」「人災だったハリケーン・カトリーナ」「学校の民営化」「一度の病気で貧困層に転落する人々」「経済的な徴兵制」「イラク帰還後にホームレスに」などなど、気分が落ち込む。
 しかし著者は、そのダメ大国アメリカにわざわざ留学し、ニューヨーク州立大で学士号、ニューヨーク市立大で修士号を取っている。WHY? 日本の大学はもっとダメダメダメだから?

 著者がこの本を書いた時は、ブッシュ政権下だったので、共和党やブッシュ大統領を痛烈に批判しているが、では民主党のオバマ大統領になったら改善した? たしかにオバマ大統領は、公的医療保険を進めようとしたけど挫折。国民は民間の医療保険に入れる人は入る。
 しかし、この民間の医療保険がべらぼうに高く、しかも大きな病気をして多額の医療費をつかうと、次から保険に入れないんだ。
 それにしてもアメリカの医療費って、どうしてこんなに高いの? 虫垂炎で手術して1日入院しただけで12000ドル。冗談じゃない!!
 アメリカの大学に留学していた子どもが、あまりにも医療費が高いので、手術が必要になったら日本に帰国させて入院手術するという話を聞くが、そうなるだろうね。

 そうそう、アメリカの私立大学の学費って(国が補助金をカットしたせいか)法外に高いのだ。日本の私立大の4年分が、アメリカ私立大の1年分くらいに。こんなに高くて入学する人いるんだろうか? いるんだよね。教育ローンを利用して。
 日本でも教育ローンが払えず自己破産する人が問題になっているが、アメリカでは日本以上に問題になっている。で、そういう人は、学費を軍が代わりに払ってくれると言われ、軍に入隊し、イラクの最前線に送られる。

 第5章に出てくる加藤さん(仮名)も学費も給料も出るという州兵に応募(永住権があれば国籍は不問らしい)災害時の救援や治安維持をやるつもりだったが、イラクに送られた。
彼は言う「人間らしく生き延びるための生存権を失った時(戦争を放棄するという)憲法9条の精神より、目の前のパンに手が伸びるのは人間として当たり前」

 しかし、加藤さんは生存権を失ったんだろうか? 大学の学費を寿司屋のアルバイトで稼ぐのが大変だと、生存権を失ったことになるの?
 結局、私たちは多くを望みすぎているのかも、とも思う。先先回読んだ「山奥ニートやってます」みたいに、月18000円で生活できるんだ、と腹をくくればいいのに。
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地曳いく子 「若見えの呪い」 集英社文庫

2021-03-19 13:46:42 | その他
 著者の地曳いく子さんは、私でも知っているほど有名なスタイリスト。本も何冊か出している。1959年生まれのようだが、自分の事をバブル世代と何度も書いている。1958年生まれの私からすれば、バブル世代ってもう少し年下なんじゃないかと思うけど。
 とにかく、この本は自分と同世代に向けて発信している。当たり前か。

 日本は「可愛いは正義」文化だから、女はいつまでも若作りから解放されない。だから、フランスの「大人の女性は素晴らしい」文化にシフトすべき、という主張を繰り返すいく子さん。
 しかしね。いく子さん。あなたが十代二十代の頃、若さを至高の価値あるものとして、年配の女性を見て平気で「ああはなりたくない」「BBA」と言ってたんじゃないだろうか?

 バブル期で景気のすごく良かった時代、女性たちはブランド物をどんどん買ってたけど、さすがに今はそういった時代ではなくて、いく子さんもZARAを愛用しているようだ。(ZARAは価格は安いが若者向けで、ほとんどのおばさんには着こなせないけど、いく子さんは着こなしているんだ。さすがです!)服はZARAでも、靴はルブタンを履いている。昔から、着るものはともかく靴をきめるとオシャレに見えるって言うものね。

 意外に感じたのは、いく子さんは「古着はアリ」派だということ。私も古着肯定派だけど、小説家の群ようこさんが「古い人間が古着を着ると、ますます古ぼけて見える」みたいな事を書いていたので、やっぱり古着は若い人の特権で、年を取ったら止めた方が良いのかな?と思っていた。でも有名スタイリストのいく子さんがアリというなら、アリかも…?!と思い直した。
 まあ、何を着ようが悪口を言われるだけで、お巡りさんに捕まる訳じゃないんだから、堂々と着ればいいんだ。でもそれがなかなか難しい。今はコロナの影響で古着は敬遠しているが、買いに行きたいなぁ。
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石井あらた 「山奥ニートやってます」 光文社

2021-03-12 15:05:19 | その他
 実際に、山奥の限界集落で、廃校になった小学校を家賃0円で借りて、嫌な事をせず1人月額18000円で暮らしている人たちの日常の記録。

 引きこもるなら、都会でも山奥でも同じ。それなら、生活費が安い山奥の方がいいんじゃない? という発想はなるほど!と思う。
 前からずっと感じていたが、引きこもりの原因の一つに「近所の目」があるんじゃないか? 
 例えば、私が勤めを辞めたとする。最初のうちは、ああ日中、自由に行きたい所に行けるなんて素晴らしい!!とルンルンしていても、しばらくすると親から「あんた、次の就職どうするの? 早く決めてよ」とせっつかれるし、近所の人から「あそこのお嬢さん、無職なのかしら?」と噂されているような気がする。
 親は親で、近所の放送局のようなおばちゃんから「あの角の家のA子ちゃん、今、里帰り出産で帰って来てるみたいよ。そうそう、A子ちゃんとあなたのとこのお嬢さん、同級生じゃなかった?」なんて探りを入れられ、困っている。ああ、親も可哀そう。
 だったら、コンビニ行くのも、近所の人に会わないよう、暗くなってからにしよう、なんて考え、どんどん外出を控えるようになる。

 そんなふうになるより、全然知らない(しかも生活費が安い)場所に行った方が、生きやすいと考えるのは不思議ではない。山奥だって、単発で安いけど仕事はある。農家の手伝い加工、地元直売所のバイト、キャンプ場のバイトなどなど。月に2万や3万だったら楽に稼げる。
 私が、生きていくのにそんなにお金が必要だろうか?と考え出したのも、スマホゲームをやり出してから。60年以上生きていて、初めてやり始めたけど面白い。お金がないから無課金でやっているが、それでも十分面白い。旅行に行くより、ゲームやってる方が面白い。友人との付き合いも、平日にお得なランチで2時間くらいお喋りできれば、それで十分。他に何がいる?
 もともと、お金をあまり遣わない性格だからかもしれない。生活費というより、子どもや孫の冠婚葬祭にかかるお金が、大変。

 しかし、この本を読んでいると、良い事ばかりじゃないようだ。現在15人でシェアハウス生活しているが、揉め事があると古参3人の意見が尊重される。それで今のところ上手く回っているようだが、ここに支配欲の強い人、暴力的な人が入ってきたらどうなるんだろう…と心配になる。合わなくて出ていく人も結構いるようだ。そうだろうね。

 能動的に山奥ニートになれる人はOK。周囲から強要された、島流しにあったと被害者意識がある人はNG。続かない。
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押川剛 「子供を殺してくださいという親たち」 新潮文庫

2021-03-05 16:45:08 | その他
 何とも物騒なタイトルですね。でも、こういう殺伐とした事態になってしまうことも…あるんだろうと思う。

 押川さんは、精神障碍者移送サービスをしている民間業者。強制的に拘束して連れて行くんではなくて、対話し説得して患者を病院に連れて行く。本当にそんなに上手くいくんだろうか、とも思う。色んな人がいるものね。

 この本には、たくさんの事例が載っているが、ほとんどの家は親が社会的地位もあり裕福。なぜだろう?と考えたが、結局、押川さんは民間業者なので、依頼すると高額なお金が必要なのだ。だからお金持ちしか頼めないんだ。
 お金が無い人はどうするんだろう? 放置して事態が一層悪化し、事件になって、本人が刑務所あるいは医療刑務所に行く事になるんだろうか? それとも、親や世話してくれる人がいなくなったら、ゴミ屋敷の中で衰弱し白骨死体となって見つかるまで、そのまま放置されるんだろうか?

 悲観的な事ばかり書いたが、楽観的になれない。そもそも、押川さんが患者を説得し医者に連れて行っても、患者さんが完治し家族もニコニコなんて事になるのは稀! あまりない。
 結局、治る人は治るし、治らない人は治らない。TVの報道番組では、専門の医療機関に相談をとかMCが言ってるけど、相談したら必ず解決!なんて事はないのだ。

 本当にどうすればいいのかな? 最近よく特集される『7040問題』『8050問題』も「子供を殺してくださいという親たち」問題の前触れなんだ。
 親は子どもに、子どもは自分自身に期待しすぎるから苦しいんだ。「最近の子どもは自己評価が低すぎる」と教育評論家の方々はおっしゃるけど、自己評価が高すぎるから、現実の自分が全くそれに達しないから、苦しいんだ。自己愛が強すぎて。

 では、どうすればいい? 「自分は決して主人公ではない」「取るに足らないちっぽけな存在だ」と自覚すること。それが中々難しいんだよね。
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