ケイの読書日記

個人が書く書評

都筑道夫「ジャッケット背広ズーツ」江戸川乱歩「押絵と旅する男」

2011-01-27 11:06:52 | Weblog
 この「ジャッケット背広スーツ」は、退職刑事シリーズ第4話。
 現職刑事の息子から相談を持ちかけられ、息子の話だけで、退職した親父が事件を解決する、安楽椅子探偵の話。

 いままで、別のアンソロジーで2作品ほど読んだ事がある。論理に飛躍がありすぎて「ええーっ!それっていくらなんでも無理じゃない…?!」と思うこともあるが、純粋に推理を楽しむならいいかもね。

 この話も、実際、都筑が地下鉄のホームで、ジャケットと背広とスーツをハンガーにかけて3つ持っている若い男に出会った所から思いついたらしい。
 どういう時に3種類の上着を手に持って地下鉄に乗るのかな?
 見習いデザイナー? ものすごくオシャレな男? さあ、皆さん推理してみましょう。


 その都筑が好きな作品として選んだのは、江戸川乱歩「押絵と旅する男」
 ちょっとというか、かなり意外。それを狙っているのかな?
 書き下ろしのエッセイを読むと、都筑はこの作品をさほど評価していなかった。しかし、下積み時代、よく乱歩に奢ってもらって良くしてもらったので、見方や感じ方が違ってきたようである。

 私はこの「押絵と旅する男」好きですね。魚津に蜃気楼を見に行った帰りの汽車の中、という設定が幻想的。
 誰か絵本にしてくれればいいのに。
コメント (2)
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創元クライム・クラブ「川に死体のある風景」

2011-01-22 14:02:20 | Weblog
 歌野晶午「玉川上水」
 黒田研二「水底の連鎖」
 大倉崇裕「捜索者」
 佳多山大地「この世でいちばん珍しい水死人」
 綾辻行人「悪霊憑き」
 有栖川有栖「桜川のオフェーリア」

 これら6篇が収められたアンソロジー。
 私が「川に死体のある風景」を思い浮かべると、ドブ川に浮かんだ腐乱死体になるが、皆さんがお書きになったのは、すごくきれいな水死体ですね。

 特に美しいのは、有栖川有栖「桜川のオフェーリア」
 信州の清流・桜川(架空の川)を流れ下る、美少女の水死体にまつわる謎。それを、江神部長と望月・織田・アリスが推理する。ちょうど『月光ゲーム』のすぐ後という設定なので、マリアはいない。

 『月光ゲーム』は駄作、という人もいるけど、私はなかなか優れた青春小説だと思うなぁ。
 作者の有栖川有栖と私は同世代なので、推理研の皆さんの学生生活が、懐かしい気がする。


 他、黒田研二、大倉崇裕、佳多山大地は今回はじめて読んだけど、大家たちと比べて遜色ないと思う。
 あまりなじみの無い作家の作品が読めるのが、アンソロジーのいいところだよね。
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横溝正史「神楽太夫」・谷崎潤一郎「秘密」

2011-01-17 20:29:30 | Weblog
 この「神楽太夫」は終戦後、横溝が疎開先の岡山で書いた記念すべき復活第一作だそうです。
 戦時下の岡山で、世話になっている遠縁の人から茸狩りに誘われ、道に迷った時に出会った見知らぬ男から聞いた話、という設定になっている。

 神楽というのは、田の神様へ奉納する舞か何かだったろうが、それが段々変化して芝居になり、娯楽の少ない農村部では大きな楽しみだったようである。

 とにかく、その神楽がもとで喧嘩になって人殺しまでいってしまった事件は、たいしたトリックは無いが、当時の時代背景や地域の雰囲気がよく書かれていて、読み応えがある。
 役立たずの亭主を持つ若い女の元に、複数の男が夜這いにやってくるのは、昔の農村部ではよくある話のようだ。


 その横溝が、非常に大きく影響を受けているのが谷崎潤一郎。
 そうだよね。特別ミステリーを書こうと思っているわけじゃないだろうが、谷崎の作品のほとんどがすごくミステリアス。
 この「秘密」という作品も、男が行きずりで関係を持った女を、素晴らしくミステリアスに描いている。

 以前から思っていたんだが、どうして谷崎よりも川端康成の方が、うんと評価が高いんだろうね。
 川端の「伊豆の踊り子」とか「雪国」って美しいかもしれないが、とっても退屈な作品。
 それに比べ、谷崎の小説は退屈するヒマを与えてくれないほど刺激的です。
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伊達雅彦「傷だらけの店長」

2011-01-12 15:13:00 | Weblog
 有能な店長や従業員の頑張りによって、地域一番店だった中堅の本屋。
 しかし、近くに超大型の競合店がオープンしたため、多くの顧客を奪われ店は閉店に追い込まれた、その一部始終を書いてある。

 私は本屋でアルバイトしたことは無いが、アルバイトしていた友人の話によると、かなりの重労働らしい。
 紙を触るので、指先の脂が取られパサパサに。紙の端で手を切ることも多いらしい。腰痛で悩む書店員さんも多いようだ。本って重いものね。


 この書店も繁盛していて、店長さんは毎日サービス残業、終電で帰る日が続く。アルバイトを補充したくても時給が安くて誰も来ない。
 困っているうちに、日本で五指の指に入る大型書店が出店してきて、あっという間に売り上げは半分、赤字に転落した。
 本社や取次店や店長が集まって、いろいろ対策を考えテコ入れするが、効果が現われず1年後に閉店。


 そうだろうね。ジュンク堂の大型店なんか、見渡す限り本がぎっしり詰まった書架で怖いくらい。あんなのが近くにできたら、町の本屋さんなんか、ひとたまりも無いだろう。

 読めば読むほど気が滅入る一冊でした。


それから…万引きは絶対ダメ!!!! 本屋の経営を圧迫している事がこの本でよく分かります。
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加納朋子「最上階のアリス」・泡坂妻夫「DL2号機事件」

2011-01-07 11:42:14 | Weblog
 加納朋子の名前は知ってはいたが、今まで読んだ事は一度もなし。もともと寡作な人なのだ。期待せずに読んだが、なかなか秀作。
 
 脱サラ探偵・仁木が謎の美少女・安梨沙と活躍する短篇シリーズの一つ。
 プロバビリティーの犯罪か…なるほど。

 その加納朋子が「他の作家の作品の中で好きなもの」として選んだのが、泡坂妻夫の「DL2号機事件」
 泡坂の人気シリーズ・亜愛一郎シリーズの最初の作品らしい。
 ちなみに、DL2号機というのは、機関車の事ではなく、プロペラ機のことです。

 これは何だかよく分からない話だが、極めて思い込みの激しい人が、多くの敵を作るとこうなるのかな?と分からないまま納得。

 ちょっと、有栖川の「モロッコ水晶の謎」を思い出した。


 作品の出来はともかく、このカメラマン・亜愛一郎がなかなか魅力的なキャラなので、このシリーズ読んでみようかなと思います。
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