ケイの読書日記

個人が書く書評

群ようこ 「濃い人々」 講談社文庫

2017-10-29 16:07:58 | 群ようこ
 サブタイトルに「いとしの作中人物たち」とある。群ようこは何冊もブックレビュー本を出しているが、これは書籍の紹介だけじゃなく映画(DVD)の紹介も載っている。

 私、映画はほとんど観ないんだよなぁ。テレビの〇曜映画劇場も観ない。もちろんDVDも借りてこない。どうして映画が好きじゃないのかなと自問自答する。そういえば40年ほど前、フランシスコ・コッポラ監督の『地獄の黙示録』を映画館で観た時、気分が悪くなったことがあったなぁ、と思い出す。
 映画館の中って空気が悪いし、気持ち悪い映像だったし。当時、話題の大作だという事で観に行ったんだ。よく分からない映画だった。分からないならパンフでも買って読めばいいのに、それもしなかった。
 そのまま思い出しもしなかったら、なんと!!先日読んだ湊かなえの『贖罪』の解説の中に『地獄の黙示録』の事が書かれていて驚いた。
 ああ、何人も木に死人がぶら下げられていた、気味の悪いジャングルの奥地の村は、米軍エリートが勝手に離脱して、自分の王国を作ってたんだ、そういう事なんだと、38年たってから納得。
 読書って、こうやって空白だったパズルが少しづつハマっていくのが良い。

 さて、群ようこの本のレビューに戻ろう。
 12件の本や映画やドラマの感想が載っているが、この中で私が読んだことがあるのは2件。林芙美子の『放浪記』と織田作之助の『夫婦善哉』
 群ようこは、林芙美子の書いた『放浪記』が大好きで、何度も読み返しているようだが、このレビュー本では、映画の『放浪記』を紹介している。今まで3回映像化されてるんだ。今は舞台の方が有名だけど。
 私は両方とも見た事ないが、小説『放浪記』は好きだった。作者の林芙美子は1903年生まれ。1951年に若くして亡くなっている。男出入りの激しい人で、周囲の女たちから憎まれることも多く、葬式で川端康成が「(もう死んでしまったんだから)芙美子さんを許してやってくれ」と言ったらしい。
 この時代は農家がほとんどで、一つの土地で定住するのが当たり前だったが、芙美子は行商人の子どもだったので、あちこちを放浪し、浮草のように暮らしていた。そのボヘミアン的半生をつづっている。

 もう一つの織田作之助『夫婦善哉』も映画化されたりTVドラマ化されたりして有名。
 この夫婦・柳吉と蝶子は、心理学テキストに載っているような典型的共依存関係。化粧品問屋の跡取り息子・柳吉は芸者の蝶子と、妻子がいるのに深い仲になり勘当される。蝶子は申し訳ないという気持ちもあるので、一生懸命働いで店を持ち、柳吉を一人前の男にしたいと思っているが、柳吉はすべてつかってしまう。
 蝶子が懸命に尽くすことで、柳吉はますます怠惰な人間になっていく。
 ただ、深刻な話にはならない。あくまでもカラッと明るい。柳吉は愛すべきダメ男なんだろう。(私は愛さないけど)
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芦辺拓 「楽譜と旅する男」 光文社

2017-10-25 10:04:31 | その他
 「楽譜と旅する男」か…素敵だなぁ。なんとなくモーツァルトをイメージしちゃう。旅しなくても楽譜を読めるだけで、胸キュン。ホレちゃいますね。楽譜が読めない女の私としては。

 「楽譜と旅する男」は、音楽関係、とりわけ楽譜の探索を専門にしている男。
 戦前、ロンドン郊外のお屋敷で、孤独なご婦人が弾いていた聞きなれない旋律の曲や、ザルツブルクの二流の作曲家が恋する相手のために書いた曲や、戦時中、南方の島で聴いた民族音楽や、ルーマニアのお菓子売りが弾いていた曲や、中国・清朝末期の西太后のための京劇曲etc…とにかく、お客の容貌にこたえ、世界中を駆けずり回り、時には時空を超えて楽譜を探す。

 全部で6話、収録されている。個人的に印象深かったのは、第1話。『曾祖叔母オパールの物語』。この中に、音楽関係専門の古本を取り扱っている本屋が出てくる。店頭に据えられた木箱の中の古い楽譜を、一人の男が漁っている記述があって、大昔に読んだマンガの一場面を思い出した。
 竹宮恵子の『風と木の詩』だったか、主人公の音楽家志望の少年が、ノミの市の店先に無造作に置いてある楽譜が欲しくてたまらないけど、お金が無いので買えないシーンがあった。表紙も取れてしまって無いような汚い古い楽譜を、バサッと売るため店先に置いてあるものショックだったし、そういった私にはゴミとしか思えない楽譜を欲しがる、音楽家志望の少年も素晴らしいと思った。すごいな、ヨーロッパって!!

 それから一番出来がいいと思うのは、第3話『城塞の亡霊』。水木しげるのマンガみたいな雰囲気。
 戦時中、インドネシアの戦線に従軍していた男は、現地で聴いた音楽の一部が耳を離れず、戦争が終わり日本に帰国してきてからも、その曲を熱望し、楽譜を探していた。
 あの恐怖の夜。米軍が爆弾を投下し、吹き飛ばされ気を失っていた男は、不思議な音楽を耳にし、目覚める。どうやら現地の人たちが歌っているようだ。よかった、これで助かったと思った男は、音のする方向へ進んでいったが、なにやら神聖な儀式をやっているようで…。

 結果は、意外というかさもありなんというか、怖いけど納得の読後感。
 それにしても、大昔のインドネシアの神聖な儀式に使った曲の楽譜が、オランダにあるとは! あの辺りは、昔オランダの植民地だったので、学者が奥地まで入って行って、いろいろ調べたりしたんだろうなぁ。
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丹野未雪 「あたらしい無職」   タバブックス

2017-10-20 17:19:04 | その他
 作家さんも、いろんなタイプの人がいて、作品に全く担当者が出てこない人と、頻繁に出てくる人がいる。まぁ、エッセイを主な仕事としている人は、担当者が登場する割合が高い。当たり前か。
 益田ミリや群ようこ、岸本葉子さんたちのエッセイに登場する出版社の人は、大手の社員という事もあり、収入も多そうで知的水準も高く、人間的にも素晴らしいという印象を受ける。三浦しをんの『舟を編む』だっけ。映画化もされた。儲からない辞書を作る部署で奮闘する編集者と、彼の依頼をうける学者たちの話だった。素敵だった。憧れちゃった人、多いと思うよ。
 でも、中小というか零細事業所は大変なんだ。この『あたらしい無職』を読んで、よくわかった。

 筆者は1975年宮城県生まれ。社会人になった最初から、非正規雇用で出版社のアルバイト・契約社員・派遣社員として働き、何社も渡り歩く。雑誌や書籍の編集や執筆、構成に携わる。
 
 39歳の時、大手の出版社の雇い止めにあい、無職になった。大手なんだからちゃんと雇用しろ!!と声を大にして言いたいが、この出版不況で出版社もどんどんリストラが進み、所属部署が無くなり、かつての上司も転職したそうだ。
 大手出版社正社員から、中小出版社に転職って…正直キツいだろうね。

 筆者は、転職するときも、何社も書類選考で落ちてショックを受けていたが、なんとか社員10人くらいの編集プロダクションに正社員として勤める事になった。ボーナスを楽しみに頑張っていたが、結局1年で辞めてしまった。
 仕事が激務なので、人がどんどん辞めていき(だから筆者が採用されたのだが)編集の経験が無い、あるいは浅い人が多く、自分の仕事が過労死しそうなほど増えたのだった。鬱病になる前にと退職。

 こういう例も多いんだろうね。零細編集プロダクションに正社員として勤務するより、大手出版社に契約社員で入った方が、自分のためになるような気がするな。
 筆者の周りには、フリーのカメラマン、フリーのデザイナー、フリーの編集者etcとフリーの人がいっぱい。友人・知人の人脈で仕事をもらう事も多いんだろう。飲み会の誘いには無職であっても出るようにしてるみたい。だからお金たまらないんだよね。
 無職になって、親から何度も借金してるので、もう借りること出来なくなって、古くからの友人J子にお金を借りる。これはどうかと思うよ。いくら無職でも、扶養家族はいないんだもの。40歳。もう少し、貯金があってもいいのに。
 ちゃんとJ子に、借金を返済したが「返済記念の飲み会をしよう」と提案してるからなぁ、懲りてないなぁ。
 
 やっぱり、筆者は飲みすぎ。フトコロの事情もあるが、健康も心配。飲み会は控えて、持ち寄り式のホームパーティでも開く。この本が売れて印税がいっぱい筆者に入ることを願います。
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湊かなえ 「贖罪」  二葉文庫

2017-10-16 10:40:37 | 湊かなえ
 WOWOWでドラマ化しているので、知ってる人も多いと思う。(私は観てないけど)

 15年前、静かな田舎町で、一人の女の子が性的暴行を受け殺害された。フランス人形のように可愛らしかったエミリちゃん。
 直前まで一緒に遊んでいた4人の女の子は、犯人と思われる男と会話していたが、なぜか顔が思い出せず事件は迷宮入りになる。
 4人も目撃者がいるんだ、犯人はすぐ逮捕されるだろうと思っていたエミリちゃんの母親は驚き、嘆き悲しみ怒り、その矛先を4人の女の子に向けた。
 母親は言った。「あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それが出来ないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい」と。重い十字架を背負わされた4人の少女は、15年後、時効の直前に、それぞれの償いを果たそうとする。

 『親の因果が子に報い』という言葉を思い出した。すべての元凶は、このエミリちゃんのお母さん。
 なにを、10歳の女の子4人集めて、怒鳴り散らし、脅迫してるんだ。すべて、おまえのせいだろうーーーが!!!
 金持ちのぼんぼんをつかまえ、良家の奥様におさまった。でも若い頃、さんざん酷い事やったそのバチが、いつか当たるんじゃないだろうかという怖れが、この女には全くないんだ。サイテーです!!

 4人の女の子の中で、真紀が一番、償いに真摯に取り組んだ。彼女は、小学校の先生になり、不慮の事故や事件から子どもを守ろうと、体を鍛えていた。そんななか、プール指導時に、不審な男がサバイバルナイフを持って男児に襲いかかる。真紀先生は果敢に応戦、男はあやまって自分の太ももを刺し、プールに転がり落ちる。
 プールから上がろうとした男の顔をけりつけ、男をプールに沈めるが、その後、男の死亡が確認。殺人罪で、真紀は警察に逮捕される。

 こういう場合、いったい真紀はどうすればよかったんだろうか?不審者には、精神科に通院歴があるという。でも、そんなこと、その場じゃわからない。目の前の危機には関係ない。プールから上がろうとした男の顔を蹴り上げたのは、プールサイドにまだ、最初に刺された男児が残っていたから。
 後から、マスコミや保護者がやりすぎだ、殺人だと、非難するのはおかしいよ。

 湊かなえも、教師の経験があるから、保護者の理不尽な要求に、うんざりする事も多かったんだろう。
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益田ミリ 「今日の人生」 ミシマ社

2017-10-11 08:59:14 | 益田ミリ
 今、コミックエッセイという一大ジャンルがあるのも、益田ミリさんが頑張ってくれたおかげなのかも、と思う。
 ミリさんは大阪出身で、ノリの良いフレンドリーな人だと思うけど、売れっ子で忙しいのでトラブる事もあるんだろう、こういう記述がある。

 「昔 お世話になったし」にも時効があるのだ と踏ん切りをつけることで その人を憎むまでにはならず が しかし もう二度とどんな頼まれごとも引き受けはしない と決心できることに気づいた今日の人生。  (本文より抜粋)
 
 わたしの わたしの人生に降りかかってくる面倒なできごと すべて作品に昇華してみせると改めて思った今日の人生。  (本文より抜粋)

 ああ、どういった面倒なできごとがあったんだろう?気になるなぁ。今、ミリさんの周辺にいる人って、ほとんど出版関係の人だよね。


 先日読んだ『ナイルパーチの女子会』の中にも、作家と編集者の間の軋轢が書かれていた。
 雑誌の編集者が、人気の主婦ブロガーたちに書籍化の話を持ち掛ける。奥様雑誌に、読者代表・主婦代表のように写真を載せて紹介し、主婦ブロガーたちを競わせるが、少しでもブログのアクセス数が落ちると、手のひらを返すような扱いに。
 雑誌の編集者は、仕事でやってるんだから、友人のように電話をかけてこられても迷惑だというのは理解できるが…。あまりの豹変ぶりに裏切られたと感じる人も多いはず。
 逆に言えば、作家は編集者に恩を感じる必要はないんだろう。


 このミリさんのコミックエッセイには、こういう場面もある。
 心がささくれてウツウツと歩いていたミリさんは、レンタルビデオ屋の前のバルーン人形のベイマックスを触って、少し心が軽くなった。その時、彼女は考える。

 もし わたしが映画『ベイマックス』を観ていなければ あれはただレンタルビデオ屋に飾られているバルーン人形なのです。けれど わたしはベイマックスを知っていて 彼が人を傷つけることを禁じられた優しいロボットであることも知っていたのです。知っていることが わたし自身の助けになった。そういうものが数多くあればあるほど それらが支えとなり 倒れずに済んでいるということも あるのだと思ったのでした。  (本文より抜粋)


 そういえば以前 かなりのダメージを受けた出来事があって そのときは ふと耳にした星野源さんの曲に助けられたのです。
 その曲の歌詞の中に みんなが好きなものが好きでもいい というようなフレーズがあって それがそのときのわたしを ちょっと元気づけてくれたのでした。自分の個性の弱さも 個性のひとつなのかもしれないと。 
 映画や音楽や芝居や そして本を読むことは 自分の世界に「手すり」をつけている そういうことなのかもしれません  (本文より抜粋)


 なるほどね。益田ミリさんのコミックエッセイは、生きる指針になるなぁ、と気付いた、私の今日の人生。
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