ケイの読書日記

個人が書く書評

上野千鶴子「ひとりの午後に」

2011-07-30 11:29:44 | Weblog
 上野千鶴子は、とても著名な人なので、彼女の本を色々読んだ気になっていたが、たいして読んでないことに気がつく。
 
 さすがに、ベストセラー「おひとりさまの老後」は読んだけど、あと対談集を少し読んだだけじゃないかな?

 とにかく有名な人で、昔はフェミニズムの論客としてTVや新聞・雑誌に、引っ張りだこだったのだ。
 だから知ったような気になっていた。

 このエッセイ集を読んで、彼女の生い立ち等がよく分かり、興味深かった。開業医の娘ということは知っていたが、雪深い城下町・金沢で育った人なのだ。1948年生まれ。団塊の世代。
 よくもまぁ、保守的・閉鎖的色彩の強い金沢で、上野千鶴子が生まれたなぁ。それだからこそかえって、上野千鶴子が育ったんだろうか?


 お兄さんと弟さんがいらっしゃるようだが、お父様から溺愛される。中学校は地元ではなく電車に乗って名門中学へ通う。高校まで金沢。
 大学からは本人の強い意志で、京都大学へ。ふーん、東大じゃないんだ。
 女性学、ジェンダー研究のパイオニアで、指導的理論家の一人。今は東大教授。その時も話題になったよね。

 このエッセイを読んで意外に感じたのは「クラシック音楽」と「俳句」の記述が多い事だ。規制の概念を打ち破ろうとした人だから、ジャズやロックが好きだろうと思っていたが(もちろん好きだが)やはり根は良家の子女。クラシック音楽に戻る。
 また、俳句だけでなく詩歌全体が好きみたい。
 まぁ、これは年齢の影響かもしれない。
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村上春樹「うずまき猫のみつけかた」

2011-07-24 17:45:02 | Weblog
 村上春樹の小説は、私にはどうも荷が重いが、エッセイとは相性がいいみたい。彼のエッセイは、適度なユーモアとちょっとした哀感があって、ページをめくるのが楽しい。
 ずいぶん前に読んだ『遠い太鼓』という、ヨーロッパに滞在中に書いたエッセイも、すごく面白かったものね。

 この『うずまき猫のみつけかた』というエッセイは、1993年から1995年ごろまでアメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジ(ボストンの隣)で生活していた頃のエッセイ。大学の客員教授に招かれていたようだ。
 肩の力を抜いて、のんびり書いている。

 イラストはよくコンビを組む安西水丸だけど、写真は奥さんの陽子さん。猫の写真が多いのだ。猫のエッセイも多い。夫婦揃って猫好きなのだ。

 住んでいるアパートの隣の家の飼い猫に、コウタローと勝手に名前を付け(本名はモリス)かわいがっているツーショットの写真もある。
 洋猫ってカンジじゃないね。茶トラの、うちの猫・みぃ太郎に似ている。


 「猫の調教チーム」というエッセイがある。
 ハウスキャットに芸を仕込むのは、ライオンに芸を仕込むより、うんと難しいらしい。
しかし…私、去年ボリショイサーカスで、猫のサーカスという演目を見たよ!
 綱渡り・輪くぐり・玉乗り…猫が芸をしている事にビックリしたが、熊とかライオンとか犬などに比べると、身体が小さい分、見劣りがしますね。かわいいけど。

 そのエッセイの中で、村上春樹が「猫というのは人間に仕込まれるよりは、むしろ人間を仕込む事に習熟している」と書いてあったが、これに深く納得!!!

 家の中に猫がいると、何をやっても怒る気が失せ、なんでもOKになっちゃうよね。
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倉知淳「猫丸先輩の空論」

2011-07-19 15:09:40 | Weblog
 猫丸先輩は、倉知淳のメイン探偵キャラ。
 小さい身体に小さい顔。目だけが子猫のようにまん丸で、長い前髪がふっさりと眉の下まで垂れている。子どもじみて華奢な脚のせいで、短パンが半ズボンに見える。
 童顔のくせに、全体的な雰囲気はどこかおっさんじみている。年齢不詳。30歳くらいか?

 唐沢なをき氏の猫丸先輩を描いた表紙絵があまりにカワイくて、借りてしまった。本屋で平積みになっていたら、間違いなく買うと思う。
 本当にラブリーな猫丸先輩なのだ。

 話としては、本格推理なのだが殺人とか盗みとかは出てこない。日常生活の中の謎を、非凡な推理力を持つ猫丸先輩が解決していく。

 そう、北村薫の『円紫さんと女子大生』シリーズみたいなカンジ。

 この猫丸先輩は、興味を持った事柄だけに、子猫みたいな好奇心で首を突っ込む。30歳になってはいるが、定職にはつかず、アルバイトをこなしながら、誇り高い野良猫のごとく、孤立を恐れない生活を続けている。

 変人でハタ迷惑な猫丸先輩は、名探偵として主役を張れる素質十分。しかし…この短篇集がさほど面白くないのはナゼか、私なりに考えてみた。

 ワトスン役に、いいキャラがいないのだ。御手洗に対する石岡君のような、火村に対するアリスのような。

 だから、猫丸先輩が面白くても、かけあい漫才をやる相手がパッとしないから、空回りしちゃうんだよね。
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岸本葉子「できれば機嫌よく生きたい」

2011-07-14 15:07:47 | Weblog
 私の敬愛する岸本葉子さんのエッセイ集。2008~2010年あたりの、色んな雑誌に掲載されたエッセイを加筆修正し、1冊の本にまとめたもの。

 さすがは岸本さん。色んな出版社からコンスタントに仕事をもらっていますね。なかには中外製薬株式会社なんていう依頼主もいる。社外広報誌かな。

 昔から彼女のエッセイを読んでいるので、親戚の女性の手紙を読んでいるような気分。ああ、葉子ちゃん、元気にやってるわねって。

 岸本さんが40歳でガンになった時は、私も一読者としてショックだったし、すごく心配したけど、彼女は持ち前の強い意志で乗り切った。
 5年たっても再発せず、なによりです。病院の事を色々調べ、自分の納得のいく主治医に手術をお願いし、患者の自助サークルに入会し、自然食にとことんこだわる。

 この先、私が大きな病気になり、手術・入院なんて事態になったら…。岸本さんを心の師と仰ぎ、克服していこうと思う。
 こんな時は、岸本さんだったらどうするだろうって考えて…。


 そうそう、このエッセイ集の中に「私のヒロイン」という小品がある。
 北村薫の「鷺と雪」のヒロイン・花村英子の事を書いたエッセイ。
 私も先日この「鷺と雪」を読んだけど、利発で正義感が強い花村英子嬢は、岸本さんの好みだろうな、と思っていたのだ。  ドンピシャ!!

 そうだよね。今のヒロインって露悪的すぎる。偽悪的というか…。
 寝た男の数を競い合ってどうするの?
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津村記久子「ポトスライムの舟」

2011-07-09 17:13:33 | Weblog
 第140回芥川賞受賞作。

 製造ラインで働く契約社員ナガセは、29歳独身。実家で母親と一緒に生活し、物欲も強くないので、質素ながら生活は成り立っている。
 そのナガセが、会社の休憩室に貼ってあった世界一周船旅のポスターを見て、行ってみようと費用を貯める目標を立てる。
 総額は、彼女の年収とほぼ同じ163万円。

 本当に穏やかな日常が書かれていて、私はこういった作品は好きだが、読んでいて眠くなってくる人も多いだろう。

 薄給だが職場の人間関係が良く、大学卒業後、新卒で勤めた職場を、上司のパワハラで辞めた主人公にとって、今は心のリハビリ中。

 この上司のパワハラ描写がとても詳しいので、作者の津村さんもこういった職場で強いストレスがあったんだろうか?



 同時収録されている「12月の窓辺」には、さらにパワハラ・職場でのイジメが前面に出てくる。

 ツガワは印刷会社に入社したての新入社員。古参社員のV先輩にイジメ抜かれている。愚痴を言おうにも、そもそも同期の女子総合職はほとんどおらず、2~3歳年上の先輩達も、とばっちりが自分達に向かないようにと、見て見ぬふり。
 実際、殴られることは無いが、言葉の暴力を浴びるサンドバック状態。

 一種のマインドコントロールだね。これは。スパッと辞めればいいんだろうが、それも出来ない。
「あんたなんか、どこでも使い物にならない」「何よ、その顔」「辞めても、お前になど行き場がない」などと脅されて、小突き回されている。

 録音して公的機関に訴えでたら?
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