ケイの読書日記

個人が書く書評

林真理子 「小説8050」 新潮社

2024-05-26 09:50:33 | 林真理子
 社会現象にもなっている「8050問題」を他人事だと考えている人は少ないと思う。それほどまでに、この中年引きこもり問題は世の中に広まっている。自分の家族、親せき、友人、近所の人の中に、当事者が必ずいる。

 「あのひと、そういえば弟さんがいらっしゃるはずだけど全く話題に出てこないわ。ご両親がこの前亡くなっているから、喪主は弟さんがやっただろうけど、お元気にしていらっしゃるかしら?」なんて思っていたら、その相手から「実は長年、弟がひきこもっていて親が元気な時はまだよかったんだけど、亡くなったら弟に関するすべての面倒ごとが自分に降りかかってきちゃって…」などと相談される。

 この小説の主人公一家も、父親は2代続いた歯医者、母親は専業主婦、姉は早稲田を出て一流企業に勤め、今度その同僚との結婚話が進んでいる。弟の翔太は20歳。中高一貫の進学校に入学したが、中2の時から引きこもり、いまだに暗闇の中にいる。
 親はイジメにあったのではないかと学校に相談するが、けんもほろろ、イジメはないの一点張り。親は、同じ小学校から進学した男子生徒に食い下がり、イジメの事実を把握。裁判で息子とともに闘おうとする。

 この、同じ小学校から進学し、今は別のクラスだが、翔太に対してひどいイジメが行われていた事を知っている男子生徒の発言が一般的な世間の考えなのかもしれない。
「14歳とか15歳とかだと、善悪の境目がぼやけているんです。彼らはおそらく、そんな悪いことをしていたなんて、これっっぽっちも思っていないはずです。」「自殺する子がいますよね。いじめられて。(中略)死んだ子は、自分をイジメた子たちはこのことで一生世間から責められ、罪人として一生過ごすに違いないって考えるはずです。でも違うんですよ。(中略)すぐ忘れます。そして学校を出て大人になって、イジメた子のことなんか、どっか遠くにいくんですよ。そして、のうのうと普通に生きていくんです」
 確かにその通りだ。彼の母親は、彼が翔太に対して行われているイジメを告発しようかと悩んだ時、高校進学に不利になるかもしれないから言うな!知らぬ存ぜぬで過ごせ!と諭した。とっても普通の感覚の人だ。だけど、自分の子どもや孫がイジメにあったら、同じ感覚でいられるだろうか。

 なんにせよ、人間が人間である限り、イジメは無くならない。いじめっ子に対する最大の復讐は、自分が幸せになる事だろう。

 
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林真理子 「中島ハルコはまだ懲りていない!」 文藝春秋社

2022-06-22 14:54:46 | 林真理子
 「中島ハルコ」シリーズ第2弾。第1弾がとても面白かったので第2弾も読んでみる。中島ハルコは名古屋出身の53歳会社経営者。このシリーズの語り手のフードライター菊池いづみに「日本一厚かましい女社長」と呼ばれている。
 第1弾ではハルコの出身地・名古屋のお話も少しはあったが、今回は全く無し。ちょっと寂しいね。上流階級の縁談の話が多い。

 お見合いって絶滅したと思っていたけど、お金持ちや家柄がすごい家では、まだまだ多いらしい。そりゃそうだ。配偶者の実家に資産があったり、社会的地位が高かったりすれば、今後の自分の仕事に大きなプラスになるものね。
 ただ、男の方は、いくら良家のボンボンでも、大学のサークルで知り合ったり職場結婚したりと、良さそうな物件はどんどん売れていくのに、お金持ちの家に育った女の子は、自分より貧乏な人と結婚したがらず(当たり前か!)どうしても上流社会では女の子が余ってしまう傾向がある。

 でも庶民の間でも、年頃の娘や息子を持つ親の体感では、実数では男の方が多いけど、結婚したいと思っている人数でいけば、女の方が多いような気がするなぁ。
 ひと昔前まで、男は結婚しないと社会的に認められなくて出世しにくい傾向があった。そういった意識が薄くなり、結婚から自由になった気がする。もちろん経済的な問題で結婚を最初からあきらめている人もいるけど。
 それに対し、女の方は結婚で豊かになろうと考えているような。本人がというより親が。

 ああ、話が大幅に脱線してしまった。とにかく日本一あつかましいハルコがズバズバ言いたい事を言うので、結構面白いです。

 
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林真理子 「本を読む女」

2016-07-09 18:10:09 | 林真理子
 林真理子の御母堂をモデルとして、一人の文学少女の半生を書いた作品。

 万亀(まき)は山梨の片田舎の和菓子屋の娘として、大正4年に生まれた。上は姉が3人、兄が一人。裕福な家で、当時としては珍しく、娘をみな東京の女専にやっている。
 成績はすごく良いが、器量はぱっとしない万亀は、日本女子大に入学する所を、左翼思想にかぶれるかもしれないという心配から、親が勝手に女専に入学手続きを取ってしまう。その学校はお金持ちや良家の子女ばかりで、あまりにも華やか。最初の頃は気おくれしていた万亀にも友人ができ、東京ライフを楽しむようになる。
 この頃が、万亀ちゃんの人生のピークだったような…。

 銀座、有楽町、トーキー、松屋百貨店、円タク、宝塚の小夜福子、SKDのターキー、資生堂パーラー etc おびただしい華やかな出来事。
 時代は昭和ヒトケタだから、大恐慌の真っただ中で、本当に不景気。東北では娘を売ってなんとか糊口をしのいでいるのに、なんという富の偏在、超格差社会。

 当時は、一旗揚げようと、日本人が大挙して大陸(満洲)に押し寄せ、現地で成功し贅沢な生活を送っていたようだ。(この辺の所は、佐野洋子のエッセイにもよく出てくる。彼女もお父さんが満鉄に勤めていて、満洲で生まれている)
 給料もよく、物資も豊富で、現地人を何人も使用人としてつかい、王侯貴族のような生活をしていた。
 
 そういう所の娘が、東京の女子大や女専に入学してくるわけ。万亀にも、親が満洲で手広く弁護士事務所を経営している同級生と仲良くなり、こっち(満洲)に来ないか?と何度も誘われている。
 ああ、でもこういう人たち、敗戦後どうなったんだろうか? 日本に帰国するのは本当に大変だったみたい。先見の明がある人は、日本の敗戦をみこして、さっさと財産をまとめ、早めに帰国したんだろうか?

 とにかく万亀は国内で教師として働いたり、実家へ戻って祖母を看取ったりしている。昔の知り合いのつてをたどって、東京の出版社で働いていた時、見合いし、夫について満洲に渡ることになる。 
 戦局はどんどん悪くなる。ギャンブル好きなので疎ましく思っていた夫にも赤紙が来て…。本当に大変。子供の頃はあんなに幸せだったのに、どこをどう間違えて不幸になってしまったんだろうと万亀は嘆くが、彼女だけが大変なのではない。日本人みんなが大変だったのだ。
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