ケイの読書日記

個人が書く書評

青山七恵「ひとり日和」

2011-08-29 13:56:56 | Weblog
 第136回芥川賞受賞作。
 選考委員をつとめた石原慎太郎が「私には、ちょっと退屈だった」と何かに書いてあったので、そのつもりで読んだが、どうしてなかなかドラマチックな所もあるのだ。

 親戚のおばあさんの所に居候することになった、若い女性の話。

 母親が仕事で中国に行く事になったが、日本に残りたい知寿は、親戚の吟子さんというおばあさんの家で居候する事を条件に、東京で暮らすことになる。

 コンパニオンのバイトをしているから、それなりの容姿の持ち主だろうに、知寿はサッパリもてない。
 本来なら、母親が外国へ行くのをきっかけに、付き合っている男のアパートに転がり込めばいいのだが、ある日、男のアパートへ行ったら下着姿の女の子がいて、ひと悶着。

 新しい彼も、吟子おばあさんの家でお昼寝するくらい仲良くなるが、かわいい女の子が彼の仕事仲間になると、もうダメだと引っ込んでしまう。

 なんせ知寿は70歳をすぎた吟子ばあさんと、張り合うようなところもあって、読んでいて恥ずかしい、というか情けない。
 フツー、知寿のような、20歳前後の若い女の子は、オバサン以上を相手にしないよ。

 おまけに知寿は手癖が悪く、金目の物ではないが、他人のちょっとした物(タバコ、ボタンなど)をくすねては箱にしまっておき、ヒマな時に取り出しては色々思い出す、という悪癖がある。

 最後は、アルバイト先で真面目にやっているという事で、正社員になり、会社の寮に入って吟子さんの家を出る。
 ただ、悪癖はなかなか治らないからなぁ。会社の寮に入るとトラブルを引き起こすかも。
 この知寿さんの行く末が心配になります。
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大野更紗「困ってるひと」

2011-08-24 20:58:24 | Weblog
 私としては珍しく本屋で購入。早く読みたかったこともあるが、この本の作者・大野更紗さんは、原因不明の難病を発症し、経済的にも困っているという話なので、少しでも足しになれば、と思ったのだ。

 筆者・大野更紗さんは、おフランスに憧れ、上智大学フランス語学科に入学したが、ビルマの難民問題に関心を持つようになり、支援活動に熱心に取り組むようになる。

 この人はスゴイ! 募金を集めた、講演会を開いた、程度ではなく、現地のタイ・ビルマ国境にある難民キャンプに足を運び、現地調査。それも年に何回も。
 疲労が限界に来ているのに、それでもなお活動しようとする大野さんに、大野さんの身体は反乱を起こす。

 布団から起き上がれない、全身の力が入らない、身体中がパンパンに腫れる、触るだけで痛い、関節がガチガチに固まって曲がらない、どんな薬を飲んでも熱が下がらない。

 自分の免疫システムが勝手に暴走し、全身に炎症を起こす、自己免疫疾患と呼ばれるタイプの難病を発症。

 こういう病気は、いったん発病すると本当に難しいみたい。一生付き合っていかなければならないようだ。


 ただ救いがあるのは、大野さんが強気な事。自分は困っている難民の人たちを助けたから、自分が困っている時は、周りの人が自分を助けるのは当然だ、というキッパリした態度。
 ヘタに遠慮されるより、これやってあれやって、と指示された方が周りもかえってラクだと思う。
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有栖川有栖「長い廊下がある家」

2011-08-19 13:16:24 | Weblog
 有栖川有栖、健在なり、という作品集。それほど話題にはならなかったようだけど。
 2009~2010年の最近に書かれたものだが、本格推理を貫いている所が、すごいなぁ。
長年書いていて、よくトリックやアイデアが枯渇しないなぁ、と感心します。

 特に『長い廊下がある家』のトリックは、奇をてらっておらず、比較的分かりやすくて優れている。


 山奥の打ち捨てられた村にある、隣り合った2軒の廃屋。この二つの家の間の地下に長い長い廊下があって(地下通路といった方が分かりやすい) その中間地点に、閂で鍵が掛けられる扉がある。
 この家と長い長い廊下には、幽霊が出没するという噂が広がり、オカルトファンの間では、有名になっている。

 ある日、オカルト雑誌の取材チームが、その幽霊を取材しようとやってきた。仕事が終わった後、徹夜で打ち上げ、ドンチャン騒ぎ。
 翌朝、帰る前にもう一度見学しようと地下通路に下りていくと…昨夜、怒って先に帰ったはずの仕事仲間が殺されていた!

 容疑者は、取材チームのメンバーしかいない。たまたま、このメンバーの中に、山に迷った火村の教え子が混じっていて、彼の証言から、メンバー全員のアリバイが成立する。

 どうやったら、このアリバイを崩す事ができるのか?

 作者は親切だから、分かりやすいと思う。
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歌野晶午「長い家の殺人」

2011-08-14 08:04:09 | Weblog
 先日、読んだ「名探偵の掟」の解説に、この歌野晶午の「長い家の殺人」が紹介されていた。
 そういえばサナダさんのブログにもこの作品の感想がUPされていた事を思い出し、さっそく読んでみる。

 文字通り、学生向けの長い長いペンションで起こった殺人。死体の消失と出現。
 トリックはすごく素直で分かりやすくて、好感が持てる。

 推理作家の中には、ものすごく捻って分かりにくくしたトリックが、読者サービスだと思い込んでいる人もいるようだけど、(もちろんそういった凝ったトリックが好きな読者もいるだろうけど)正解率30~40%くらいが一番読んでいて楽しいんじゃないかな。
 だって、毎回ハズレだと読む気なくすよ。


 ただ真犯人が…ね。この人が犯人より、もっともっと犯人に当てはまる人がいるのに。わざわざ別の人を犯人に仕立てるとは、これも読者サービスのつもりかな?


 巻末の解説を島田荘司が書いている。私は、綾辻行人たちと同じように、大学の推理研関係で、島田荘司と知り合ったのかと思っていたが、なんと!!!歌野晶午は、何のアポもなく、島田荘司の家のチャイムを鳴らして「推理作家になりたい」と言ったらしい。

 それがキッカケで、島田宅に出入りするようになり、島田荘司の適確なアドバイスのもと、この本が生まれる事になった…ようだ。

 へーーーー!何事も行動してみるものですなぁ!
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東野圭吾「名探偵の掟」

2011-08-09 10:19:34 | Weblog
 天下一大五郎という、ふざけた名前の名探偵が、密室・時刻表トリック・バラバラ死体・童謡見立て殺人・フーダニット・ハウダニット…といった本格推理の12のトリックをサクサク解いていく。

 それだけではなく、本格推理の様々なお約束に対して「内心うんざり」「別にやりたいわけじゃないですよ」「で、それがどうしたんですか?」「ご都合主義なんて、トリック小説にはつきものでしょう」などという禁句を言ったり言われたりして、笑いのめしている。

 ちょっと毛色の変わった本格推理小説なので、最初のうちは喜んでクスクス笑っていたが、そのうち段々腹が立ってきた。

 そりゃ、本格推理小説っていうのは、現実的に考えれば、ずいぶんおかしなものだ。
 トリックを使おうと、いっぱいお金をかけて屋敷を改装する余裕があるなら、殺し屋をやとえ、とか、アリバイなんか工夫して作るから、ばれた時言い逃れできなくなる、証拠が無ければ逮捕できないんだから、アリバイを作るのはおかしい、とか…。
 私も、そう思うよ。

 でも、本格推理小説ってのは、一種の様式美なんだと思う。
 一風変わった名探偵がいて、ぼーっとしたワトソン役がいて、ボンクラな警察がいて、どう考えても不可能な犯罪が起こり、怪しげな容疑者が3~5人ほど。
 捜査は行き詰るが、ワトソン役の何気ない一言が名探偵にひらめきを与え、事件は解決へ向かう。
 名探偵は、関係者を一堂に集め、謎解きし、最も怪しくない人物が真犯人として捕まる、あるいは真犯人は自殺する。

 それが読みたくて、私は本格推理小説を手にするのだから、ワンパターンとか、よく飽きないね、とか言われたくないです。
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