ケイの読書日記

個人が書く書評

唯川恵「途方もなく霧は流れる」 新潮社

2022-08-31 15:54:24 | 唯川恵
 久しぶりに唯川恵の小説を読む。最近はサッパリだが、以前は唯川恵や山本文緒といった女流作家の大人の恋愛小説をよく読んだのだ。山本文緒さん、少し前に病気で亡くなったね。唯川さんと山本文緒さんはプライベートでも仲が良かったらしく、旅行を一緒に行ったこともあったらしい。才能のある人だった。残念です。

 梶木は50歳目前で会社を辞め、東京を引き払い、父親が所有していた軽井沢の別荘に引っ越してくる。8年ほど前に妻と離婚し、娘とも離れ離れになる。長く付き合っていた恋人とも別れる。
 子供の頃、父親が失踪し負い目を感じてはいたが、学力も体力も容姿も優れていた梶木は、一流大学に進学、ラクビー部で活躍し、国内トップの航空会社に入社。外国から飛行機を輸入する部署で、やり手で通っていた。颯爽と働いていたんだ。
 会社は長い間赤字経営だったが、まさか倒産するとは思わなかった。梶木はリストラされる。最も信頼していた上司から「君の仕事はもう無いと思ってくれ」と言われて。

 しかし何もなく放り出された訳じゃない。それなりの上積みされた退職金は貰ったし、何といっても失業保険がある。

 この梶木も、なかなか贅沢癖が抜けないんだよね。自炊すればいいのに、近くの色っぽい女将が切り盛りしている小料理屋に足繫く出掛ける。夏の軽井沢は爽やかかもしれないが、冬はべらぼうに寒く、通年暮らすとなれば防寒工事をしなければならない。その費用は相当なもの。大型犬が迷い込んできて飼うことになったり、何かと物入り。大丈夫か、梶木!!

 その梶木の前に、去って行った恋人、小料理屋の女将、ワケありな人妻、知的な獣医、分かれた元妻、が次々と現れる。無職の男が、どうしてこんなにモテる?! おかしいよ!

 いつも思うけど、唯川さんの小説に登場する男の人って本当にカッコ良くってモテるタイプの人ばかり。そうじゃなければ恋愛小説にならないんだろうが、世の中、キモヲタの男もいっぱいいるわけで…。キモヲタを出せ!!!
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「新訳ペスト」 ダニエル・デフォー著 中山宥訳 興陽館

2022-08-21 15:40:44 | 翻訳もの
 このダニエル・デフォーって人は、ロビンソン・クルーソーを書いた人なんだ!1665年のロンドンペスト大禍の時、彼はわずか5歳だったから、この本は彼の伯父や父親の手記という体裁で出版されている。わずか5歳とはいえ、当時の異常な雰囲気はよく覚えていたんだろう。
 当時のロンドンの人口は50万。そのうち10万人以上が亡くなったという。すざまじいねぇ。でも、裕福な人たちは、ペストが発生した初期の段階で、家族や使用人を連れ、遠くの領地や別荘に逃げだした。あのデカメロン物語のように、お金持ちは行動できた。
 金持ちでなくても、逃げる先がある人は続々とロンドンを脱出した。逃亡しなかった人は逃げ出せなかったんだ。お金もなく頼る田舎もないから。
 それでも、死にたくないからロンドンを脱出しようとする人は、森の中で野宿し物乞いした。他の町や村には入れない。ペストを警戒する村人たちに、村に入るなと銃で脅されたので。

 ペストの原因を「何か目に見えない悪いモノ」が引き起こしているという認識だけで、その正体がはっきり分からない。そうだ、細菌の存在が分かったのは、もっと後の事なのだ。だから、患者と視線を合わせると感染する、なんていうメチャクチャな事を言う人もいた。他には、神様が不信人な人を狙って感染させているという信心深い人もいた。

 そのせいか、まるっきりネズミの話は出てこない。以前読んだカミュの「ペスト」は、第2次大戦後の話だから、一応ペスト菌はネズミに寄生するシラミかダニが保菌していると理解している。だけど、この17世紀のペスト大禍期には、猫や犬は悪い空気を運ぶかもしれないから殺処分するようにというお触れが出たけど、ネズミについては触れてない。でも、ネズミが元凶じゃないかって経験的に分かっていた人はいたんじゃないかな?

 ワクチンも治療薬も何もないこの時代、人々はバタバタと死んでいった。でも、カミュの「ペスト」でもそうだったが、何か月かペストが猛威をふるった後、その勢いはパタッと衰えるんだ。どうして?特効薬が開発された訳でもないのに。これが集団免疫って言うんだろうか?
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今村夏子 「むらさきのスカートの女」 朝日新聞出版

2022-08-13 13:38:39 | 今村夏子
 この小説が芥川賞をとった時、NHKの女子アナが作者の今村夏子さんにインタビューしている番組を見た事がある。その時、その女子アナは「小説の最後で、むらさきのスカートの女と黄色いカーディガンの女は同一人物?!のように受け取れるんですが」という意味の発言をしていた。
 それを覚えていて心して読んだが、私にはそう読めなかったよ。読解力がないのかな?

 わたし「黄色いカーディガンの女」は、近所に住む「むらさきのスカートの女」が気になって仕方がない。彼女と親しくなろうと、自分と同じ職場で働くよう誘導し始める。
 
 この「むらさきのスカートの女」は、普通の女性なのだ。年齢は30歳前後。不運な事が続いて、その上失業してしまったので、げっそりとやつれていたが、新しい職も見つかり(黄色いカーディガンの女もいる)生活も安定して元気になる。職場の先輩たちとも馴染み、その上上司の既婚男性とも親密になり、どんどん派手になっていく。休日は二人で楽しくデートする時もあれば、相手の奥さんに嫌がらせの無言電話をかける時もある。
 そんな不倫関係が、女ばかりの職場の先輩や同僚たちに知られない訳がなく、尾ひれがついたヒドイ噂話が流れ始め…

 それに比べ、黄色いカーディガンの女はかなりエキセントリック。むらさきのスカートの女の座るベンチに、丸を付けた自分の職場が載っている求人誌を置いたりして、なんとか自分の職場に彼女を誘導することに成功。
 黄色いカーディガンの女はむらさきのスカートの女の先輩になるが、たぶんむらさきのスカートの女は、彼女の事は名前以外知らないと思う。他の推しが強くにぎやかな先輩たちと親しくなっていく。親しくしないと職場で上手くいかない事を知っているから。
 黄色いカーディガンの女は、先輩たちの中でいじめられている訳ではない。影が薄い存在なのだ。親しい人もあまりいないんだろう。だから、元気のなかったむらさきのスカートの女を自分の同類だと思い、友達になろうとしたんだろう。

 ここらへんの心理、よくわかるなぁ。友達があまりいなかった私は、小中学校の頃、転校生が来ると色々話しかけて仲良くなろうとしたなぁ。ちょっと切ない思い出です。
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「進撃の巨人」23巻~34巻 諌山創 講談社コミックス

2022-08-06 08:01:01 | その他
 まずはお詫びしたい。先回のブログで「進撃の巨人」はまだ連載中なんて書いてしまったが、2021年に連載は終了している。間違った事を書いて申し訳なかったです。ごめんなさい。

 22巻までは、エレンやミカサ・アルミン達が、壁外の巨人や壁内の反対勢力と戦い勝利して、自分たちが住んでいる所はパラディ島という島で、海の向こうにはもっと強大な敵対勢力が存在している、というところで終わっていた。
 こういうダークファンタジー系の話って、悲しい事にめでたしめでたしで終われないんだ。登場人物はトシをとらず、争いはあるが調査兵団104期兵たちは百戦錬磨で、ピンチはあるが最終的に次々出現する敵を打ち負かす。ウルトラマンや仮面ライダーみたいに。そんな期待は打ち砕かれる。

 仲間内の結束は固いと思われたが、エレンはミカサやアルミンとも距離を取り、自分の信念を貫いていく。23巻~34巻はほの暗い。読むのが苦しくなっていくほど。

 脇役だがフロックという男がいる。エレンたちと同じ104期だが、調査兵団じゃなく内地に勤務。しかしシガンシナ区決戦のため義勇兵を募った時、調査兵団に入隊。獣の巨人をリヴァイに仕留めさせるためエルヴィン団長とともに獣の巨人につっこみ玉砕した。誰も生き残った者がいないと思われたが、フロックは生き残り、虫の息のエルヴィンを背負ってリヴァイの所に向かう。しかし最終的にエルヴィンは死亡。

 そのフロックが23巻~34巻では、エレン・イエーガー派として活動する。彼は、巨人化する可能性のあるユミルの民を世界が抹殺しようとするなら、自分たちユミルの民には世界の人たちに反撃し抹殺する権利があるはずだ、と考え行動する。彼は彼なりに自分の正義を貫き、最後に射殺される。

 正義の反対は悪じゃない、もう一つの正義だ、という言葉は本当に真実だと思うよ。
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