ケイの読書日記

個人が書く書評

笠井潔 「魔」

2007-10-31 11:56:59 | Weblog
 収められている「追跡の魔」と「痩身の魔」の2編より、後半の「笠井潔スペシャルエッセイ」「笠井潔スペシャルインタビュー」「笠井潔論」の方がうんと面白い。

 それにしても、笠井潔って理屈っぽい人だね。家族に一人でもこういう人がいるとゲッソリしそう。

 また、彼は本当に気合を入れて探偵像を作り、構想を練って作品を書き上げていくんだね。それにしては、出来上がった小説は、それほどでもないけど。


 私立探偵とサイコセラピストのコンビというのは、いい組み合わせだと思ったが、どうもうまく機能していない。やっぱり日本で私立探偵が主人公のハードボイルドというのは、無理かも。
 それプラス、ストーカー、拒食症、外国人労働者問題など現代の社会問題が取り入れられているから、よけい散漫な感じになる。


 私立探偵に調査を依頼するサイコセラピストが、自分のクライアントに裏切られたり、騙されている所が興味深い。
 私達のような素人にとって、大学の心理学科助教授のサイコセラピストなんて、神様のようにクライアントの事を何もかもお見通し、と考えている。
 でも、何のことは無い、クライアントに良い様にあしらわれてアリバイ作りに利用されたり、有利な証言をするよう仕向けられたりする。


 小説の中だけじゃなく、現実でもそうだろうと思う。カウンセリング万能みたいな事を唱える人がいるが、人間は一筋縄ではいかないよ。
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山本文緒「結婚願望」

2007-10-26 10:03:19 | Weblog
 山本文緒の小説には、ちょっとした毒が含まれていて、それが彼女の小説の魅力だが、エッセイにはその毒がほとんどない。こんな素直な無防備な山本文緒は大丈夫だろうか、と心配になってしまう。

 このエッセイは彼女の37歳の時に書かれ、2000年に出版されたもの。彼女は25歳で結婚し、しばらくして離婚し、このエッセイを書いた当時は「結婚の予定は無い、生涯独身でいる覚悟」とあとがきに書いたが、恋多き女・山本文緒がそれでおさまるはずも無く、2,3年ほど前に再婚した。


 「結婚願望」というより「恋愛願望」という内容ですね。


 世の中には、恋愛体質の人と、そうでない人がいる。いうまでもなく山本文緒は前者で私は後者。
 恋愛体質の人が、非恋愛体質の人を心のどこかで「もてない可哀想な人」と思っているのは知っているが、非恋愛体質もなかなか良いもんです。  ラク。

 ちょっと前に「ホタルノヒカリ」というテレビドラマをやっていた。
その主人公の干物女が恋愛体質になろうと努力して『ステキ女子』に変身していく、というストーリーらしい。(私は見ていないが)

 でも、干物女で何が悪い!! 干物女を好きという男も、少数ながらいるのではないか?『ステキ女子』ばかりだと男も疲れますよ。


 恋愛体質の女性の「運命の人」待望論も、聞いているだけで疲れます。「ねぇねぇ、これって運命の出会いかな」はいはい、あんた、3ヶ月前にも半年前にも1年前にも運命の出会いがあったわね。それ、どうなりました?   不毛です。
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宮野叢子「鯉沼家の悲劇」

2007-10-21 14:01:47 | Weblog
 素晴らしい名作。いままで読まなくて損した気分。

 以前、たかさんのブログで紹介されていたし、二階堂黎人も作品中で褒めちぎっていたので、ぜひ読みたいとは思っていたのだ。


 終戦間もない日本。美しい水の里とうたわれた農村にある旧家・鯉沼家。
 江戸時代は、大名をもしのぐ名家中の名家。明治に入ってから勢いは衰えたものの、それでも何十人もの使用人を召し使っている大家だったが、戦後はすっかり落剥して人の気配もほとんど無い。

 この鯉沼家には、4人姉妹がおり、次女は結婚して家を出て、その息子がこの物語の語り手になっている。
 後の3人は未婚。長女(50位)婚約者が死んだので、彼に操を立て生涯独身を誓い、三女(40過ぎ)四女(40前)は気位ばかり高く、あれも嫌これも嫌とごねているうちに縁談が無くなった。

 あと、4人姉妹には行方不明になっている兄と、妾腹の妹(駆け落ち同然に家を出ている)がいる、という複雑な家庭。

 未婚の女3人という本家には、当然ながら跡継ぎの子供がいない。そこに、駆け落ちしていた妾腹の妹が狂人のようになって子供を連れて戻ってきた。
 そして、不吉な事を次々と予言する。


 その不吉な予言が次々現実のものになっていくのだが、物語後半の推理部分はあまり効果的でないというか、無い方が良いんじゃないか?
 推理小説では無くなるが、3人の姉妹だけでマクベスの3人の魔女を思い出し、恐怖小説としては十分。

 しかし、いくら名門の娘とはいえ、この人たちは一体毎日何をして暮らしているのだろうか?
 10代の頃は女学校へ通ったり、花嫁修業をしたり、やることはあるが、嫁がないと決めた今、家事をやるわけでない(女中さんにまかせきり)農作業をするのでない、カルチャースクールが近くにあるわけでもない、テレビも普及していないこの時代、何をやって暇をつぶすのだろうか?

 だいたい名門に生まれた子どもが一番すべき事は「血統を絶やさない」事ではないだろうか?

 犯人も「鯉沼家のため」と言いながら次々に殺していったら皆死に絶えてしまって一番「鯉沼家のため」にならなかった。

 なんにせよ、戦後の農地改革で(山林は残ったかもしれないが)田畑は取られてしまったろうから、どちらにせよ鯉沼一族には、こんなお城のような旧家を維持できなかっただろう。

 なんと、この鯉沼邸の周囲には塀がぐるりと巡らされ堀が掘られていて、朝、門を開けて小橋を渡して、夕方、小橋を引き上げ門を閉めていたそうだ。まさにお城。


 横溝正史の世界が好きな人は必読の一冊。
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島田荘司「上高地の切り裂きジャック」

2007-10-16 13:50:41 | Weblog
 「上高地の切り裂きジャック」と「山手の幽霊」の中篇2編が収められている。
 2作品ともまあまあかな。両方とも殺されても仕方ないような、ひどい女とひどい男が出てくる。

 島田荘司の女性観って、どうなんでしょう?
 キレイな若い子大好き。でも、全面的には信用できない。でも、キレイな若い子大好き。性格良くても、若くなくて外見がパッとしない子は遠慮したい…というあまりにも一般的な好みでしょうか。


 しかし、御手洗が女性をはっきり拒絶しているのに、石岡はちょっとだらしないですなぁ。こんな調子で里美に下心たらたらで、この先もつきあっていくんだろうか?


 それにしても、御手洗潔は本当に偉くなっちゃったね。「占星術殺人事件」のさっぱりお客が来ない占い師、「斜め屋敷の犯罪」の売れないお笑い芸人みたいな御手洗が懐かしいです。
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有栖川有栖「乱鴉の島」

2007-10-11 10:40:27 | Weblog
 本格派お約束の孤島もの。といっても、そんなに華々しく連続殺人が起こるわけではない。
 

 ご存知、犯罪学者・火村と推理作家・有栖川は骨休めのため、三重県の小島の民宿に出掛けるが、手違いがあり、違う無人島にたどり着く。
 その島は、いつもは無人島であるが、その時は数人の謎めいた男女がバカンスに訪れていた。船の手配が出来ない火村たちを、彼らは仕方なしにもてなす。
 そこに、ホリエモンのような時代の寵児的経営者がヘリで乗り込んできて、バカンス客の一人に何かを頼むが断られる。
 トラブルにならなければいいが…と心配していると、やはり第一第二の殺人事件が…。


 実際二人殺されるが、その動機、犯人、トリックなどは重要ではない。
 それよりも、この島に集まっている男女の真の目的は何か?で読ませている。

 その新の目的が、殺人の動機と関係あるんじゃないか、と期待していたが、全くのハズレで拍子抜けした。


 どうも私は、有栖川有栖と相性が良くないみたい。カッコつけてる、というか気取ってると感じてしまう。
 だいたい、なんでミステリに『至高の愛』が出てくるんだろう。ミステリに若く美しく純粋な心を持った素晴らしい奥様は必要ない。
 ミステリに必要なのは、若い愛人が出来て、どうやって亭主を事故死に見せかけ殺そうか陰謀をめぐらしている奥様なんですよ!!

 それとも、有栖川有栖のもっと初期の作品を読めば、面白いお話と出会えるんでしょうか?
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