ケイの読書日記

個人が書く書評

三浦しをん 「まほろ駅前多田便利軒」 文春文庫

2018-11-30 15:37:20 | 三浦しをん
 巻末の解説で鴻巣友季子が「読んでいて気持ちがいい」と書いている。鴻巣は、文章・文体で気持ちがいいと表現しているみたいだけど、私は…登場人物が読んでいて気持ちがいい、読後感が気持ちがいい、作品全体が気持ちいいと表現したい。

 そう、清々しいのだ。もちろん、主要登場人物の多田や行天にも、内面にマイナスの感情は渦巻いているが、それすらドロドログチャグチャしない。女流作家にしては、珍しい人だと思う。

 まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。(どうも町田市をモデルにしているらしい) 駅前で便利屋をやっている多田のもとに、高校の同級生・行天が転がり込んできた。といっても2人は高校時代、仲が良かったわけではない。多田は調子のいい男だったし、行天は変人奇人だった。偶然、再会した2人。会社を辞め、行くところのない行天が転がり込んだのだ。

 便利屋の経営も大変だと思う。庭の草むしり、ペット預かり、塾の送迎、納屋の整理などなど。「自宅前にバス停があるが、どうもバス会社が間引き運転をしているようだ。1日見張ってチェックしてくれ」という変わった依頼もある。自宅前だったら、カメラでも設置してチェックすればいいのにと思うが、便利屋さんに頼んだ方が安いんだろう。いったい時給いくらなんだろうか?

 そういえば、私の実家の近くで、便利屋を開業した夫婦がいた。実家の母も、時々片づけを頼んでいたが、いつのまにか転職していた。やっぱり儲からないよ。12月のように忙しい月ばかりではない。

 なぁんて、いらぬ心配をしてしまう。だって金が無いからといってエアコンを付けないのだ。ヘビースモーカーだし、大酒を飲むし。特に行天。
 行天は、下っ端ヤクザにもケンカをふっかけるクレージーな所がある男だ。彼のおかげで、覚せい剤の売人と知り合うが、この売人をも爽やかに描いちゃうから、しをん先生、いけません。

 どうして、こういうサッパリした雰囲気なんだろうな? 性的なドロドロを書かない(書けない)せいなんだろうか?
 行天の元妻が言う。「健康上の理由や信条のために禁欲しているひとなんて、いっぱいいますよ。べつにおかしくないでしょう」その他の理由で、いや理由なくても禁欲している人、いっぱいいる。
 女流作家にありがちな「恋愛こそすべて」「男を発情させてなんぼ」「性交回数、性交人数は多いほど素晴らしい人生」なんていう押し付けがましさが、三浦しをんには無い。

 そこが、コットンの下着のように気持ちいい。
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たもさん 「カルト宗教 信じてました」 彩図社

2018-11-26 10:45:55 | その他
 『エホバの証人2世』の私が、25年の信仰を捨てた理由  というサブタイトルが付いている。

 たもさんのお母さんは、たもさん小学校5年生の時『エホバの証人』に入信。姉弟4人の中で上から2番目のたもさんが、一番お母さん子だったんだろう、エホバの証人の集会について行くようになり、どっぷりと宗教につかって、13歳でバプテスマ(洗礼のようなもの)を受けて、正式にエホバの証人になった。
 13歳、つまり中学1年か2年の時。自らの意志とは言え、ちょっと早いような…。
 キリスト教圏では、生まれてすぐ洗礼を受けるのが普通じゃん?という声が聞こえてきそうだが、なんといっても世間的にはカルト宗教。成人するまで周囲が待つように諭すべきだと思う。

 エホバの証人の信者という事が周囲に分かってしまっているから、学校ではクラスメートから距離を置かれることが、よくあったみたい。学校には居場所が無くて、エホバの証人のコミュニティで自分は受け入れられている、ここが自分のいるべき場所だ、と思い込んでしまったんだろうね。

 この思い込みを吹っ飛ばすのが、息子さんの病気だった。たもさんは25歳の時、同じエホバの証人の旦那様と結婚。かわいい男の子を生んだ。この息子さんが4歳の時、重い病気を発症。血液製剤を投与し、輸血の必要があるかもしれないと、同意書にサインを求められる。

 エホバの証人は、学校現場でもめることが多く、柔道や剣道、ボクシングなどの闘う教義はNG。でも一番NGで有名なのは輸血拒否。実際、昔これで親が未成年の子供の輸血を拒否し、死亡したことがあったらしい。
 今は、そういう場合、病院は輸血拒否した親を裁判所に訴えて、親権を停止し輸血を強行するようだ。

 結局、たもさんたち夫婦は、輸血の同意書にサインし、教義に疑問を持つようになり信者をやめる。親としては当然だと思うよ。

 熱心な信者の、たもさんのお母さんは、死に瀕している孫を前にしてこう言い放つ「ちはる(孫の名)が輸血で助かったとしても、せいぜいあと数十年生きるだけでしょう?輸血を拒否すれば、エホバから永遠の命を貰えるのよ! 数十年と永遠、どっちが長い?」
 狂信的な人には、何を言っても無駄!!

 すごいなぁ、なかなか言えないよね。こんなセリフ。だいたい、そんなに永遠に生きたいだろうか? 人魚の肉を食べたので死ねなくなって彷徨う尼さんの伝説があったなぁ。
 この世はサタンが支配しているため、近い将来、エホバはハルマゲドン(なつかしーーー!オウム真理教もハルマゲドンが来ると言ってた)でこの世を滅ぼして、エホバを信じる人だけが生き残り、死んだ信者たちも復活し、地上の楽園で年を取ることなく、永遠に生き続ける、という教義。

 不老不死って刑罰だと思う。
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三浦しをん 「乙女なげやり」  新潮文庫

2018-11-20 15:22:03 | 三浦しをん
 三浦しをんさんは、デビューが結構早い。24歳。で、このエッセイ集は、彼女の20代半ばから後半の日常を綴ったもの。
 まだ実家暮らしだが、だんだん仕事量も増えてきて収入もUP! 仕事場を外で借りようとしている。おお! 順調な仕事ぶり!

 エッセイ内では、よく弟さんの事を書いている。どうもまだ学生さんらしい。勤め人ではないようだ。しをんさんは全く男っ気がないので、弟さんといちゃつこうとするが、すげなくあしらわれる。「あっ、ブタさん」とか呼ばれて。
 弟さんの動向にも興味を示す。弟さんと近所の友人ジロウ君が、深夜のドライブを楽しんでいるのに嫉妬し、あれやこれや邪推する。どーーーして、しをんさんはいつも話をBL仕様にするのかね。まっ、楽しいけど。

 私には弟はいないからよく分からないが、やっぱり姉にとって弟とは可愛いものなんだろうか? 出産する時も、一姫二太郎。最初は女の子が生まれ、次に男の子が生まれるのが望ましいなんて言われる。(女の子1人、男の子2人の割合が望ましいという説もある)

 姉弟と言うと、私には真っ先に、群ようこ姉弟を思い出す。今は、お母さんの介護や経済的なあれこれがあって仲が悪いが、子供の頃は仲良しで、群さんのエッセイによく弟さんが登場した。 お姉さんが売れっ子作家になってからは、そのお金をあてに、弟さんのおねだりが激しくなったが、何百万もするようなエレキギターの購入費用をポンと出してあげるんだもの、やっぱり可愛かったんだろう。

 そうそう、現役時代はロッテで三冠王を獲った元中日監督の落合も、お姉さん大好き子だったみたいね。奥さんも9歳年上姉さん女房。
 お姉さんがいる男って大成するって話を聞いた事がある。坂本龍馬と乙女姉さんなんて有名。でも龍馬が結婚すると、新妻に邪魔にされちゃうんだよね。現代でも同じ。

 しかしね、しをんさん。エッセイに弟など登場させてどうする? 元カレ、今カレを登場させんしゃい!! 20代半ばから後半、人生で一番フェロモンが出ているであろうこの年代に、異性の登場が父親と弟だけとは…。
 低恋愛体質のしをんさんが大好きだが、やはり現世の幸せも追求してもらいたい。
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恩田陸 「クレオパトラの夢」  双葉文庫

2018-11-15 15:25:44 | 恩田陸
 神原恵弥シリーズの第2作。やっぱり第1作より、ちと落ちますね。でも十分面白い。

 北海道のH市を訪れた神原恵弥。不倫相手を追いかけて行った妹を連れ戻すのが目的だが、実は、その裏に別の思惑もあった。このH市には、ずっと以前から『クレオパトラの夢』と呼ばれる、けっして存在してはいけないものが、密かに受け継がれていた形跡があるのだ。果たしてそれは…。

 主人公の神原恵弥は、外資系製薬会社に勤めていて、ウィルスハンターを仕事にしているので、その『存在自体が絶対の禁忌』というモノがどんなモノか、だいたい推測できる。

 核兵器って本当に恐ろしいけど、生物兵器の方が、もっともっと恐ろしいよね。通常兵器が使われると、人間もいっぱい死ぬが、建物も瓦礫の山になって、「ああ、これが戦争なんだ」と実感するだろうけど、生物兵器って、人間は細菌やウィルスでバタバタ死んでいくのに、建物はそのまま。ゴーストタウンになって不気味だと思う。

 だから、戦争を始める為政者は、戦争後の復興の経済的負担を考えると、通常兵器を使うよりも、生物兵器を使いたいだろうなって思う。(もちろん生物兵器は禁止されている)
 でも、ワクチンを作って、自分たちは接種済みで安全。だから、自分たちは生物兵器の被害を受けないと楽観していても、ウィルスってどんどん変化していくらしいから、感染が広がり、ウィルスがモンスター化し、どんなワクチンも効かなくなることだって考えられる。
 いやーーー、恐ろしい。

 そもそも、世界が終わってしまえ!と生物兵器の自爆テロを起こす人がいれば、防ぎようがないだろうね。

 山岸涼子の『日いづる処の天子』の中で、天然痘(日本では疱瘡と呼んだ)で、人がバタバタ死ぬ、もちろん帝や皇子たちも例外ではなく死んでいく場面があった。何年かの周期で大発生し、自然に収まるのを待つしかなかった。
 どうやって自然に収まるんだろう? だって、ものすごい感染力なんでしょう? 結局、隅々までウィルスがいきわたり、ほとんどの人が免疫を持つようになったら、自然に終息するんだろうか?

 この『クレオパトラの夢』の中に、新大陸アメリカに上陸したヨーロッパ人が、敵対する原住民のインディアンに、天然痘患者の毛布を送り付ける話がある。これは史実として本当らしい。
 いやぁ、スゴイことやるね。もともとアメリカには天然痘ウィルスはなかったらしく、全く免疫を持たないインディアン達は次々死に、数万人いた村人が数百人になったというケースもあったとか。

 あくどい!!!! 本当に誰がこんなあくどい事を考えたんだろうか! ああ、でも日本人も731部隊の話とかあるし、人の事いえないんだよね。

 
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恩田陸 「MAZE」(メイズ)  双葉文庫

2018-11-11 17:30:57 | 恩田陸
 神原恵弥シリーズの第1作。以前読んだ「ブラックベルベット」が第3作ながら良かったので、このシリーズを読んでみたくなった。映画でもTVドラマでも、第1作が一番面白いから期待して読んだが、期待を裏切らない秀作。

 アジアの西の果て(イラクと国境を接していて米国とも良好な関係というから、トルコかヨルダン?)地元の人でもめったに訪れない荒野の果てに、ポツンと白い直方体の建物が建っている。遺跡のようにも見えるが、何の文献も残っていない。ただ、不気味な言い伝えだけが、地元で囁かれている。

 一度その建物の中に入ると、出てこれない人間が多数いるらしい。内部は細い通路になっていて、迷路のような構造で、2人並んで進むことはできない。1人ずつ数珠つながりのように入るしかない。しかも出入り口はひとつだけ。
 昔、地元の軍の偵察部隊が30人、この建物に入り、そっくり消失してしまったらしい。
 ただ、一緒に入っても、出て来れる人と出てこれない人がいる。3人で入っても、真ん中の1人が、いつのまにかいなくなる、といったような。動物も同じ。

 その「人間消失のルール」を解明すべくやってきた4人の男。1人は本シリーズの主人公・神原恵弥で、他は彼の友人でコック兼雑用係の満(彼は「ブラックベルベット」にも登場)あとの2人は米軍関係者と地元の有力者。

 ね?! 本当にそそられる設定でしょ? 
 あそこら辺は、地面からニョキニョキ岩の塔が生えているみたいな、どう考えてもこんな物、自然に作れる訳がないと思うような奇観が、あちこちにあるんだもの。吹きさらしの荒野の少し小高くなっている場所に、直方体の白い建物があって、その周りには、サボテンが進化した鉄条網のような灰色の植物が生い茂っている、そんな景色がいかにもありそう。
 「世界ふしぎ発見!」で、ミステリーハンターが、丘の上の建物らしきものを指さして、「皆さん、あれはなんでしょうね?」と叫んでいる姿を想像しちゃうなぁ。

 コック兼雑用係の満が、持ち前の推理力を働かせて、いろんな仮説を立てていく。特に「この建物は一種の食虫植物説」は怖かったなぁ。食虫植物の口の中に、匂いに誘われやってきたハエがポトッと落ち込んで、どんどん溶けていく。うわーーー! もしこの説が本当だったら、オカルト小説じゃないか! 私、オカルトは嫌いなんだ。恩田陸はオカルトを書かないから絶対違う!大丈夫! と自分を励ましながら、読み進んだ。

 最後は、あっと驚くというか、そりゃそうだ、米軍関係者がいるんだもの、という結末。満が真相に肉薄する。

P.S. そうそう、「MAZE」って迷路という意味です。
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