ケイの読書日記

個人が書く書評

三津田信三 「密室の如き籠るもの」(ひめむろのごときこもるもの)

2015-09-25 10:23:43 | Weblog
 4編の中・短篇収録。最初の『首切りの如き裂くもの』が、この刀城言耶シリーズの1作目のようだ。いつも、このシリーズの設定年代はいつ頃だろうと迷うが、昭和20年代の後半というところか? 西暦で言うと、1950年代の半ばごろ?

 戦前・戦中と弾圧されていた探偵小説は、戦後、一気に花開く。探偵小説雑誌の創刊が相次ぎ、その中の1つ、怪想舎の月刊誌『書斎の屍体』(すごいネーミング!そういえばクリスティの小説にも同じ名前があったような…)に連載している作家の1人が刀城言耶。
 彼は、怪奇譚蒐集家で、あちこち怪異話を求めてさすらうが、そこで遭遇する事件を解決する、隠れた名探偵。
 そこで、いろんな未解決事件が、彼の所へ持ち込まれる。


 表題作となっている『密室の如き籠るもの』が、4編の中で一番長いし、筆者も、作品中に密室談義(ほら、カーや乱歩が分類してる)を入れたりして、力を入れて書いているのは分かるが…つまらないです。
 それよりも『迷家の如き動くもの』が、一番良かったと思う。
 「迷家(まよいが)」というと、遠野物語に出てくるメルヘンチックなお伽噺を思い出す。

 村人が、山の中で道に迷っていると、やがて一軒の家をみつける。立派な屋敷で、庭には花が咲き、馬屋や牛小屋もあるが、なぜか人の気配がしない。もしや山男の家かも、と急に怖くなった村人はあわてて逃げ出し、ふもとの村までたどり着くことができた。
 その家から逃げ出すとき、村人はお椀を一つだけ持ち出していた。これで米を計ると、不思議な事にいつまでたっても、米びつが空にならなかった。

 ああ、ため息が出るような美しい民話です。でも、三津田信三の「迷家」は怖ろしい。人を誘い込んで家の中に入れ、喰ってしまう「迷家」なのだ。怖かったなぁ。もう一人で登山なんかできない。最後には、刀城言耶の解釈で、一応解決する。
 日本アルプスで地震多発地帯の山小屋の話だから、そういう考え方もできるんだろう。

 ただ、山登りしていて、予定より時間がかかり、宿泊地にたどり着く前に日が暮れてきたら…そんな時、半分朽ちかけた小屋が現れたら…中に入るより、野宿した方がいいと思わせる、そんなお話です。

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