ケイの読書日記

個人が書く書評

コーネル・ウールリッチ 宇野利泰訳「聖アンセルム923号室」 

2016-05-04 09:13:16 | Weblog
 以前、読んだ有栖川有栖の「鍵のかかった男」の中に、この小説が紹介されていた。どうしても読みたくなって図書館で予約する。
 原題は『HOTEL ROOM』というらしい。

 ニューヨークの聖アンセルムホテル923号室を舞台に、ホテルを開業した1896年から廃業した1957年まで、7つの短編をつらねて、このホテルの一生を書いている。
 色々なお客様が、この923号室に泊まっていった。
 開業した初日には、初々しい新婚夫婦、アメリカが第1次大戦に参戦した1917年4月6日夜には、愛国心に燃え軍隊に入隊したばかりの若い男とその恋人。彼らは戦争が終結した1918年に、同じ部屋で再会したが、その時にはすっかり熱は冷め、それぞれ別の相手と付き合っていた。
 1924年、禁酒法真っ只中には、権力を失いかけたギャングのボスが、数名の手下と女たちを連れ923号室に身をひそめるが、手下や女たちは彼を見限り、次々と姿を消す。そして殺し屋が現れ、彼の最期の時は近づく…。
 1929年の大恐慌の時は、株式で大損した男が、923号室の窓から飛び降りようと身を乗り出し…。
 真珠湾攻撃で、日米開戦する前日、923号室に泊まった訳アリの二人組もいた。
 そして、さらに時代は流れ、聖アンセルムホテルも老いを深めていく。

 筆者は同性愛者だったようなので、マイナーな立場の人々の事が気にかかったようだ。
 例えば、1917年にアメリカがドイツ側に宣戦布告した後、ホテル内でのドイツ系宿泊客に対する嫌がらせはひどい。宿泊名簿からドイツ系の名前を探して、追い出しにかかる。ドイツから来た観光客じゃないんだよ。先祖がドイツ人というだけのアメリカ生まれのドイツ系アメリカ人を標的にした。
 また、1941年12月には、日系と思われる青年が出てくる。この人も親が日本から移民してきたというだけで、アメリカ生まれの日系アメリカ人。彼らのこの先の苦難を思うと、胸がつぶれるような気がします。


 筆者のコーネル・ウールリッチ(ウイリアム・アイリッシュという名の方が有名だろう)も、実際18歳くらいの時から、母親と一緒に、母親の死後は一人でホテル暮らしをしていたようだ。

 たまに泊まる分には浮き浮きするホテルだが、そこで暮らすとなると、どうだろう? 荷物なんかどうするの? 当時にもトランクルームってあったんだろうか? それとも彼は、モノを所有するのが嫌いな人だったんだろうか?
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