ケイの読書日記

個人が書く書評

鎌田慧 「橋の上の『殺意』 畠山鈴香はどう裁かれたか」

2016-04-25 10:04:12 | Weblog
 2000年4月、秋田県の山間の町で、小学4年生の彩香ちゃんが友達の家に遊びに行くといって家を出たまま帰宅せず、翌日、川の中州で水死体となって発見された。警察は、川に転落した事故死と判断した。
 それから1か月後の5月、彩香ちゃんの家の隣の隣の家の小学1年生の男の子・豪憲君が行方不明になり、翌日、川の土手で絞殺死体となって発見された。
 なにしろ28世帯しかいない町営住宅で、小学生二人が1か月の間に、あいついで死体で発見されたのだ。町は大騒ぎになる。

 ここで初めて警察は、2件を事件として関連付け捜査を開始。逮捕したのは、最初、川への転落事故として処理された彩香ちゃんの母親・鈴香だった。


 もう10年も前の事件になるんだ。でもはっきり覚えている。なにしろTVのワイドショーは、毎朝この事件でもちきりだった。鈴香は連日TVに出演し、自分の娘と近所の豪憲君を殺した犯人を捕まえてほしいと訴えた。
 ただ地元では、最初から母親の鈴香があやしいという噂が流れ、豪憲君殺しも彼女ではないかと囁かれていた。
 なんせ豪憲君は、自宅から80メートルほど離れた所で友達やその母親とサヨナラして、鈴香の家の前を通り、家に帰るところで行方不明になったのだ。不審者、不審車両の情報はなし、被害者の叫び声も悲鳴も聞こえてこなかった。


 彩香ちゃんについては、殺意があったのか事故だったのか、本人にも分からない。ただ彩香ちゃんが橋から川に転落した時、すぐに救急車を呼ばず家に逃げるようにして帰ったのは(弁護側の精神科医は『健忘』としている)もし事故だとしても、鈴香に重大な過失があったのだろう。

 でも、母親としての鈴香の気持ちも分かるような気がするなぁ。
 夕方になって娘が川で魚を見たいと言い出す。暗くなってるから見えないよと諭しても、娘は見たいと駄々をこねる。しかたがないので車でサクラマスがよく集まるという橋の上に行き、川をのぞかせ帰ろうとしたら、娘が身を乗り出してもっとよく見たいから「お母さん、身体をつかんでいてね」と頼んでくる。
 体調が悪くて、早く家で横になりたいのに、なんて身勝手な子だろう。ああ、うざい。目の前から消えてくれたら…
 そういう気持ちが一瞬でも胸の中をかすめても不思議はない。

 豪憲君殺しは認めている。ただ、その動機を鈴香の弁護側は「自分の娘は死んでこの世にいないのに、豪憲君は元気なのでうらやましい。天国で娘と一緒に遊んでほしいと思い、豪憲君を殺した」と主張しているが無理がある。
 もしそうなら、同じような年恰好の女の子を殺害するだろう。だいたい、カッとなって衝動的に首をしめたなら素手でだよね。わざわざ軍手をはめ、紐で首を絞めるだろうか?どう考えても計画性があると思う。
 裁判所は「彩香ちゃんが邪魔だから殺したと噂された鈴香が、世間や警察の目をかく乱しようと連続殺人犯をでっちあげた」という判断をしている。しかし…これもしっくりこないなぁ。
 一部の人が主張している「彩香ちゃんを車に乗せ橋に行くところを豪憲君に目撃されたor目撃されたと思い込んだ鈴香が、口封じのために殺した」が一番納得できるような…。


 筆者の鎌田慧は、さかんに「鈴香の育った劣悪な家庭環境」を言い立てているが、私にはそれほど劣悪だとは思えない。
 確かに、父親は暴君で暴力で家族を支配したけど、娘を風俗に売り飛ばして自分はギャンブルするようなタイプではなく、彼なりに娘を愛していた。鈴香は、母親と弟とは、すごく仲が良かった。彼女は「私には、母と弟と元カレの3人の味方がいる」と言っていたそうだ。(元カレはさっさと検察側に寝返った)
 ただ、母親を味方とするのは分かるが、弟を自分の味方と考える人は少数で、幸せな家庭だったんだなと思うよ。
 この弟さんは、鈴香が出頭するとき、車に乗せ警察署まで送って行ってた。TVのワイドショーに映っていた。なんて姉想いの優しい弟なんだと、感心した。
 だって、自分に置き換えて想像してごらんよ。私には兄がいるけど、兄が殺人を犯したかもと疑われた時、付き添うだろうか?絶対できない、絶対やれない。遠く離れた場所に逃げていき、知らんぷりする。

 この弟さん、本当に気の毒だなぁ。
 親はその道義的責任はまぬがれないだろうが、兄弟姉妹は本当に気の毒。
 鈴香のお父さんは病死、お母さんは離婚して県外の実家に戻り、弟さんはどうしてるんだろう。あの狭い集落で息をひそめ生活してるんだろうか?

2009年5月18日  畠山鈴香 無期懲役刑 確定。
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