ケイの読書日記

個人が書く書評

海渡英祐 「伯林 一八八八年」

2015-09-20 19:51:48 | Weblog
 たかさんのブログに紹介されていて面白そうだったので、読んでみた。ドンピシャ、私好み! 19世紀後半、ビスマルク首相ひきいるドイツが、ヨーロッパの強国にのし上がっていく時代、本当に興味あります。

 1888年、ドイツ留学最後の年を迎え、コッホ研究所で研究に励んでいた森林太郎(後の森鴎外)は、友人から詩人のクララを紹介され、その美しさと知性に惹かれる。
 林太郎は、クララの口利きで、ビスマルクの甥・ベルンハイム伯爵の城に招待される。彼が館についたその夜、ビスマルクが甥を訪ねてきた。
 しかし、ベルンハイム伯爵は、離れの古い城館の鍵がかかった一室で射殺されており、古い城館の周りに積もっていた雪の上には、犯人のものらしき足跡は無かった。この二重の密室の謎は、華々しい割には、なーんだというトリックだが、その舞台設定が素晴らしい。

 北ドイツのプロイセン地方の、森と湖に囲まれた冬の古城。どんよりとした鉛色の空からは、雪がちらつきだし、1時間もしないうちに吹雪に。そして、裏庭に佇む林太郎の横には、ミステリアスな美女クララが…。

 『舞姫』のヒロイン・エリスは、ここでは完全に端役。筆者の海渡にしてみれば、無教養な踊り子エリスより、上流階級のクララの方が、ヒロインにふさわしいと思ったんだろう。

 それにしても、日本の男って、本当に金髪に青い眼が好きだね。ヒトラーなんかも、生粋のゲルマン民族のあかしとして、金髪碧眼が大好きだったようだが、いくらドイツ人でも、金髪碧眼って少数だと思うよ。
 アガサ・クリスティが自分の作品の中で登場人物に、「ブロンド女はトラブルの元」という意味の事を言わせていたが、希少だからこそ美女の象徴になるんだろうね。


 林太郎も、有色人種としてドイツ国内で差別されたことも多かっただろうが、彼の才能がそれらを上回った。専門の医学だけでなく、文学や語学の才能も秀でていたようだ。社交もそつなくこなしている。
 こういう所が、ロンドン留学中、ノイローゼのようになってしまった夏目漱石とは違う所だよね。

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3 コメント

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Unknown (たか@ヒゲ眼鏡)
2015-09-21 10:21:20
TBありがとうございました。こちらからもさせて頂きましたあー。
ミステリとして見ると、完成度はどうも……(^^;。ですよね。あのトリックがありなら、誰でも密室書けるじゃん! と思っちゃいました(笑)。
ちなみにボクは、鷗外より漱石が好きです(笑)。
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Unknown (たか@ヒゲ眼鏡)
2015-09-21 10:22:12
↑あ、文字化けしてますね。「鴎外」です。
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たかさんへ (kei)
2015-09-23 10:01:09
 コメントありがとうございました。TBも、ありがとうございました。
 それにしても、鴎外って理系頭のはずなのに、語学に強いとは…。こういう、万能の人ってたまにいるよね。
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