ケイの読書日記

個人が書く書評

芥川龍之介 「海のほとり」

2020-05-08 14:05:15 | その他
 純文学って、こういう作品だよなぁと思わせるような地味だけど印象的な短編。大正14年、芥川33歳の時に、自分の青春時代の思い出を書いたものらしい。

「ぼく」は、この7月に大学の英文科を卒業し、友人と2人で千葉の片田舎にある海辺の鄙びた宿でゴロゴロしている。教師になろうとは思っているが、まだ勤め先が決まった訳ではなく、座布団を枕にして『里見八犬伝』なんかを読んでいる。もう夏も終わり。ぼくらがこの宿に来た当初には大勢いた海水浴客は、どんどん少なくなって海辺は物悲しい。

 これが、ヨーロッパの避暑地のバカンスを題材にした短編なら華やかなんだろうが、極東の島国の、そのまた片田舎にある海辺の話なので、貧乏ったらしい。だいたい、その当時・大正時代に海水浴なんてする人は、かなりのハイカラさんだったと思う。地元の漁師さんたちにとって海は生活の糧を得る場所で、遊ぶ場所ではない。
 でもね、少数でもいるんだよね。きゃぴきゃぴしている若い女の子たちが。深紅の海水着や、虎のような黒と黄の縞模様の海水着をきて。
 で、僕らは砂の上で寝そべりながら、そんな女の子たちをながめ、インテリらしくドイツ語であだ名をつける。肉感的な顔立ちだから「ジンゲジ」と。
 他にも、海辺で顔見知りになった15、16歳の男の子を『えんぜん』というあだ名で呼んでいる。もちろん本人の知らない所で。どうも、彼が若木に似た瑞々しさを持っていて、嫣然と微笑んだかららしい。

 昔の人も、地味だけどちゃんとアオハルをやってるんだ!!

 芥川って、どういう生徒・学生だったんだろうね。すごく興味をそそられる。私は、小説家って言うと芥川龍之介の写真を思い浮かべる。次に川端康成。二人とも神経質そうで自死しそう。芥川って第一高等学校→東京帝国大学英文科のエリートだけど、どう考えても社会不適合者タイプではないか? でも、第一高等学校の時には、1年間寮生活を経験してるんだ。それに、子どもの頃から同級生と回覧雑誌などを作ったりしているので、私が思っているよりも、環境に適応できるのかも。そこそこ協調性はあるんだろう。
 一高時代の日記などがあったら読んでみたい。

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