○モーツァルト 「ドン・ジョバンニ」 フリッチャイ/ベルリン・ドイツ・オペラ他 1961年9月23日(ゲネラル・プローペ、映像収録)
1961年、新しく建てられたベルリン・ドイツ・オペラの杮落とし公演のゲネ・プロ。自由ベルリン放送によって映像収録されました。
日本では、レーザーディスクで発売され、初日の9月24日の演奏とされていましたが、プーフェンドルフ氏の記録では、前日のゲネ・プロとされていて、こちらが正しいと思われます。また、9月24日の演奏とされる別の演奏も、ゴールデン・メロドラムなどから販売されています。
さて、この杮落とし公演の準備は、全てが順調にいったものではありませんでした。フリッチャイと演出家エーベルトとの間で意見の相違があったのです。
F=ディースカウによれば、「(病気に進行が彼をそのようにしていたのだろうか)いくらか独断的傾向が見え始めていたフリッチャイが私に1時間半にわたって彼の演劇論を理解させ押し付けようとした・・・その理念はおよそエーベルトの考えとは一致しそうもないものだった・・・」というものです。この狭間にあってF=ディースカウは、「演出も含めて全体のアンサンブルを乱さない範囲で自分自身の解釈を見出さなければならなかった。」とのことです。その結果は、フリッチャイの総譜の扱いから感じ取ったものであったということです。
演奏ですが、全体にわたって緊張感が持続し、引き締まった演奏です。その中で、ティンパニがずっしり響く音色で、曲にアクセントをつけています。
序曲では、フリッチャイの指揮姿を見ることができます。非常に厳しい表情で、全体を掌握している様子がわかります。
声楽陣では、女声が配役の性格に合っていて素晴らしいです。グリュンマーのドンナ・アンナは、張りがあって潤いのある声が魅力的ですし、ケートのツェルリーナは、可憐でかわいらしいです。そして、ローレンガーのエルヴィラは、容姿も含め、彼女の高貴さ、哀れさが表出されていています。男声では、グローブのドン・オッタービオはりりしく惚れ惚れします。
F=ディースカウのタイトル・ロールは、さすがに存在感があります。ただ、シャンペンの歌では、テンポが速すぎて、ついていくがやっとという感じもします。
1960年4月にフリッチャイの邸宅で行われたゼルナー(総監督)、ゼーフェルナー(副監督)との会談で、フリッチャイはベルリン・ドイツ・オペラの音楽監督に就任することになりましたが、2ケ月後の6月には、病気を理由に辞退しています。シュトゥットガルトで行われた3者会談でフリッチャイは「指揮者としては協力するがGMDの重責は引き受けられない。」とゼルナーとゼーフェルナーに伝えたのです。ちょうどこのときは、体調が最悪の中で南ドイツ放送交響楽団と「モルダウ」のリハーサルと本番を収録したころでした。結局、音楽顧問、客演指揮者という地位につき、杮落とし公演を指揮したものの、2回目の演目に予定されたカルメンは指揮することができませんでした。