いいところがなかったなあ……それにしても、午後0時7分の投了とは!
後手の羽生竜王が横歩取りに誘導したのを見て、嫌な予感がした。
かつて、横歩取り戦法は羽生竜王の得意戦法だったが、最近では佐藤天名人に敗れ去ってからは、いいイメージが浮かばない。
それは佐藤天名人以外の相手にもかなり敗れている印象がある。
2016年4月以降(佐藤天八段に名人位を奪取されたのが2016年)以降、横歩取り戦は17勝15敗。まあ、今年度の羽生竜王の成績は19勝19敗なので、戦型別の得意不得意を論じられる状況ではないが…(2016年4月以降の横歩取り戦での対佐藤天名人戦は2勝5敗、他の棋士に対しては15勝10敗)
私が思うには、横歩取り戦は飛角桂が主で、駒交換も頻繁に行われ、一気に終盤に突入する激しい戦法だが、これはソフトを使っての検討・検証しやすい戦型と言える。
その恩恵で、今までは見通しが悪くて薄暗い密林の中を進んでいた感覚だったものが、LEDの照明に照らされ、GPSによる地図を駆使してドライブするような感がある。
羽生竜王の手を疑心暗鬼で考え、いろいろ迷いながら思慮することは少なく、≪その手に対しては、こう指せばこちらが良くなるはず≫と手順を手繰り寄せ、読みを入れる……そんな感じが多いのではないだろうか?
とにかく、今までの人力の研究では、今での経験や大局観と自力の読みで、≪この手順で行けそうだ≫とか≪たぶん互角にはなるだろう≫というような結論と言うより目算を立てて対局に臨んでいたのだが、ソフトを使えば、この手に対してはこの手が有効(評価値が高い)と短時間で割り出すことができる。それに、人間の思い込みによる研究手順の“抜け”が生じていたが、PCソフトを使えばそういう研究の抜け穴も格段と減らすことができる。それどころか、ソフトは先入観を持たないので、人が思いつかないような手を提示してくれることも多い。
PCソフトを駆使した研究は恐るべきほど効率がよく、ある程度詳細なマッピング(定跡構築)が可能である。これが長い目で見ると棋力を高めることができるか疑問だが、目前の対局に勝つことに対しては非常に有効である。
そんな状況下で、激しくてすぐ終盤になってしまう横歩取り戦法を指すのは、羽生竜王にとっては得策ではない。
羽生竜王の優れた大局観と柔らかい思考や精密な地力の読みが必要な将棋に持ち込んだ方が勝ちやすいはずである。第5局のように、銀を中心に押し上げていく中盤の長い将棋、遠見の角を放ちそれを軸とするような構想力がモノを言う将棋……今期、羽生名人が勝った将棋は≪やはり羽生竜王は強いなあ≫と思わせる内容が多かった。
将棋を振り返るのは気が進まないが、備忘録として残しておきたい。
先手の広瀬八段が青野流を目指したのに対し、羽生竜王は△7六飛と横歩を取り、互いに飛車で横歩を取る相横歩取りとなった(以前からある相横歩取りとは違う)。実戦で指されたことは少ないらしいが……
△7四飛の飛車のぶつけに対し▲同飛と応じ△同歩と進んだ第1図は、ある意味、注目の局面。
【棋譜中継の解説から引用】
つい先日、Google傘下のDeepMind社が開発したプログラム「AlphaZero」の論文が発表された。第27回世界コンピュータ将棋選手権で優勝したコンピュータ将棋「elmo」に大きく勝ち越す強さだ。
AlphaZeroとelmoの棋譜がDeepMind社のサイトで100局公開され、その中から10局を羽生が注目局としてセレクトしている。100局の中には△7四同歩まで進んだ棋譜もあり、▲2四歩と垂らしていた。【引用・終】
実戦の広瀬八段は▲2四歩ではなく▲3七桂。
羽生竜王はこの手に対し、△7七角成▲同桂に△8六歩と垂らす。
実は、この局面までは、今期B級2組順位戦の▲澤田六段-△永瀬七段戦と同一(永瀬七段が勝利)。
ここで、澤田六段は▲2二歩△同銀を利かせてから▲6五桂と跳ねたが、本局の広瀬八段は単に▲6五桂と跳ねる(第2図)。
羽生竜王は△8七歩成▲同金に△8九飛と金銀両取りに打ち込み、広瀬八段は▲8八角と両取りを防ぎ(すぐには動けないが、香取りになっている)、羽生竜王は△8六歩と叩いて対応を問う。
▲8六同金には△4四角と打って▲同角△同歩とし、再度の▲8八角に△6四角と打てば▲4五桂と跳ねる手がないので後手が良いらしい。
そこで▲7七金と辛抱するが、これにより先手の8八の角の働きが低くなってしまい先手が面白くなさそうだが、後手の8九の飛も威張れる駒ではない(いつでも角と交換できるが、先手に飛車を渡すマイナスも考慮しなければならない。(先の▲澤田-△永瀬戦も▲2二歩△同銀の手の交換はあるものの、同様に進行)
角の働きはともかく、先手は6五に桂を跳ねられたことが大きい。次に3七の桂も4五に跳ねることができ、後手玉の頭の5三の地点を強襲できる。後手が△6二銀(△4二銀)と足しても、いつでも▲5三桂成△同銀▲同桂成△同玉と攻めて、桂2枚と銀1枚の交換の駒損になるが、後手の玉が露出させることができる。
ほぼ同様に進んだ▲澤田-△永瀬戦の永瀬七段は△6四歩と桂を攻め先手の玉頭殺到の順を避けたが、これも勇気のいる手で▲5三桂成△同玉▲8三飛を覚悟しなければならない(実戦は▲8二歩)。
▲7七金に羽生竜王は△5四角。
この手も6五の桂を攻めた手で、▲5三桂成△同玉▲8三飛と強襲される心配もない。さらに▲4五桂も防いでいるうえ、将来の△8七歩成も見据えている。羽生竜王の研究手かもしれない。
しかし、先手陣への直接の響きが弱く、さらに5二の玉と5四の角と先手の6五桂との位置関係が悪かった。△5四角では△4四角と玉当をカバーしつつ、△7七角を見せて先手の攻めを牽制した方が良かったかもしれない。
たとえば、いきなり▲5三桂成△同玉▲5六飛と強襲されても後手は神経を使う将棋になってしまう。
実戦は、少し含みを持たせて▲5五飛だが、これも相当威力を発揮しそうだ。
羽生竜王は△6二銀と補強したが、▲4五桂と加勢されて危険度は変わらない。
何だか縁台将棋で出てきそうな単刀直入の素人攻めのようだが、これをきっちり受けきるのは難しそうだ。
実戦は、羽生竜王は△4二銀と更なる補強をしたが、構わず▲5三桂右成△同銀右▲同桂成△同銀に▲7八銀と飛車を捕獲する手があった。
“捕獲された”と言っても、△8八飛成▲同銀で飛角交換にはなり、駒割は▲飛銀歩歩歩対△角桂桂でほぼ互角(やや後手の得かも)。
しかし、後手陣は飛車の打ち込む地点があり、先手の持ち歩が5枚もある事が大きい。
そこで、羽生竜王は△3七角と飛車香両取り(間接的に8二にも利かす)と角を打ち込む。
ここで一日目終了となったが、読めば読むほど先手が良さそう。良さそうな手の中で、▲8五飛が一番よく、しかも自然な手で、2日目は苦しい将棋になりそうだなあと、『シン・ゴジラ』観賞(現実逃避)に走った。
後手の羽生竜王が横歩取りに誘導したのを見て、嫌な予感がした。
かつて、横歩取り戦法は羽生竜王の得意戦法だったが、最近では佐藤天名人に敗れ去ってからは、いいイメージが浮かばない。
それは佐藤天名人以外の相手にもかなり敗れている印象がある。
2016年4月以降(佐藤天八段に名人位を奪取されたのが2016年)以降、横歩取り戦は17勝15敗。まあ、今年度の羽生竜王の成績は19勝19敗なので、戦型別の得意不得意を論じられる状況ではないが…(2016年4月以降の横歩取り戦での対佐藤天名人戦は2勝5敗、他の棋士に対しては15勝10敗)
私が思うには、横歩取り戦は飛角桂が主で、駒交換も頻繁に行われ、一気に終盤に突入する激しい戦法だが、これはソフトを使っての検討・検証しやすい戦型と言える。
その恩恵で、今までは見通しが悪くて薄暗い密林の中を進んでいた感覚だったものが、LEDの照明に照らされ、GPSによる地図を駆使してドライブするような感がある。
羽生竜王の手を疑心暗鬼で考え、いろいろ迷いながら思慮することは少なく、≪その手に対しては、こう指せばこちらが良くなるはず≫と手順を手繰り寄せ、読みを入れる……そんな感じが多いのではないだろうか?
とにかく、今までの人力の研究では、今での経験や大局観と自力の読みで、≪この手順で行けそうだ≫とか≪たぶん互角にはなるだろう≫というような結論と言うより目算を立てて対局に臨んでいたのだが、ソフトを使えば、この手に対してはこの手が有効(評価値が高い)と短時間で割り出すことができる。それに、人間の思い込みによる研究手順の“抜け”が生じていたが、PCソフトを使えばそういう研究の抜け穴も格段と減らすことができる。それどころか、ソフトは先入観を持たないので、人が思いつかないような手を提示してくれることも多い。
PCソフトを駆使した研究は恐るべきほど効率がよく、ある程度詳細なマッピング(定跡構築)が可能である。これが長い目で見ると棋力を高めることができるか疑問だが、目前の対局に勝つことに対しては非常に有効である。
そんな状況下で、激しくてすぐ終盤になってしまう横歩取り戦法を指すのは、羽生竜王にとっては得策ではない。
羽生竜王の優れた大局観と柔らかい思考や精密な地力の読みが必要な将棋に持ち込んだ方が勝ちやすいはずである。第5局のように、銀を中心に押し上げていく中盤の長い将棋、遠見の角を放ちそれを軸とするような構想力がモノを言う将棋……今期、羽生名人が勝った将棋は≪やはり羽生竜王は強いなあ≫と思わせる内容が多かった。
将棋を振り返るのは気が進まないが、備忘録として残しておきたい。
先手の広瀬八段が青野流を目指したのに対し、羽生竜王は△7六飛と横歩を取り、互いに飛車で横歩を取る相横歩取りとなった(以前からある相横歩取りとは違う)。実戦で指されたことは少ないらしいが……
△7四飛の飛車のぶつけに対し▲同飛と応じ△同歩と進んだ第1図は、ある意味、注目の局面。
【棋譜中継の解説から引用】
つい先日、Google傘下のDeepMind社が開発したプログラム「AlphaZero」の論文が発表された。第27回世界コンピュータ将棋選手権で優勝したコンピュータ将棋「elmo」に大きく勝ち越す強さだ。
AlphaZeroとelmoの棋譜がDeepMind社のサイトで100局公開され、その中から10局を羽生が注目局としてセレクトしている。100局の中には△7四同歩まで進んだ棋譜もあり、▲2四歩と垂らしていた。【引用・終】
実戦の広瀬八段は▲2四歩ではなく▲3七桂。
羽生竜王はこの手に対し、△7七角成▲同桂に△8六歩と垂らす。
実は、この局面までは、今期B級2組順位戦の▲澤田六段-△永瀬七段戦と同一(永瀬七段が勝利)。
ここで、澤田六段は▲2二歩△同銀を利かせてから▲6五桂と跳ねたが、本局の広瀬八段は単に▲6五桂と跳ねる(第2図)。
羽生竜王は△8七歩成▲同金に△8九飛と金銀両取りに打ち込み、広瀬八段は▲8八角と両取りを防ぎ(すぐには動けないが、香取りになっている)、羽生竜王は△8六歩と叩いて対応を問う。
▲8六同金には△4四角と打って▲同角△同歩とし、再度の▲8八角に△6四角と打てば▲4五桂と跳ねる手がないので後手が良いらしい。
そこで▲7七金と辛抱するが、これにより先手の8八の角の働きが低くなってしまい先手が面白くなさそうだが、後手の8九の飛も威張れる駒ではない(いつでも角と交換できるが、先手に飛車を渡すマイナスも考慮しなければならない。(先の▲澤田-△永瀬戦も▲2二歩△同銀の手の交換はあるものの、同様に進行)
角の働きはともかく、先手は6五に桂を跳ねられたことが大きい。次に3七の桂も4五に跳ねることができ、後手玉の頭の5三の地点を強襲できる。後手が△6二銀(△4二銀)と足しても、いつでも▲5三桂成△同銀▲同桂成△同玉と攻めて、桂2枚と銀1枚の交換の駒損になるが、後手の玉が露出させることができる。
ほぼ同様に進んだ▲澤田-△永瀬戦の永瀬七段は△6四歩と桂を攻め先手の玉頭殺到の順を避けたが、これも勇気のいる手で▲5三桂成△同玉▲8三飛を覚悟しなければならない(実戦は▲8二歩)。
▲7七金に羽生竜王は△5四角。
この手も6五の桂を攻めた手で、▲5三桂成△同玉▲8三飛と強襲される心配もない。さらに▲4五桂も防いでいるうえ、将来の△8七歩成も見据えている。羽生竜王の研究手かもしれない。
しかし、先手陣への直接の響きが弱く、さらに5二の玉と5四の角と先手の6五桂との位置関係が悪かった。△5四角では△4四角と玉当をカバーしつつ、△7七角を見せて先手の攻めを牽制した方が良かったかもしれない。
たとえば、いきなり▲5三桂成△同玉▲5六飛と強襲されても後手は神経を使う将棋になってしまう。
実戦は、少し含みを持たせて▲5五飛だが、これも相当威力を発揮しそうだ。
羽生竜王は△6二銀と補強したが、▲4五桂と加勢されて危険度は変わらない。
何だか縁台将棋で出てきそうな単刀直入の素人攻めのようだが、これをきっちり受けきるのは難しそうだ。
実戦は、羽生竜王は△4二銀と更なる補強をしたが、構わず▲5三桂右成△同銀右▲同桂成△同銀に▲7八銀と飛車を捕獲する手があった。
“捕獲された”と言っても、△8八飛成▲同銀で飛角交換にはなり、駒割は▲飛銀歩歩歩対△角桂桂でほぼ互角(やや後手の得かも)。
しかし、後手陣は飛車の打ち込む地点があり、先手の持ち歩が5枚もある事が大きい。
そこで、羽生竜王は△3七角と飛車香両取り(間接的に8二にも利かす)と角を打ち込む。
ここで一日目終了となったが、読めば読むほど先手が良さそう。良さそうな手の中で、▲8五飛が一番よく、しかも自然な手で、2日目は苦しい将棋になりそうだなあと、『シン・ゴジラ』観賞(現実逃避)に走った。
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