1回戦第2局、伊藤匠四段-松尾八段戦
解説は宮田利男八段(2017年3月31日引退)。弟子に斎藤明日斗四段、本田奎五段、伊藤匠四段がいる。
伊藤匠四段は18歳で藤井二冠と同じ年齢。生まれた月が遅いので、現役最年少棋士ということになる。宮田八段にとってはまだまだ子どもに見えるらしく、言葉の端々にそんな気持ちが伺われた。
第1図の松尾八段の△4二玉は最近出てきた指し方(これまでは△3三角、稀に△3三桂)。
対して伊藤四段は▲2四飛と戻し、△7六飛と横歩を取った手に対し▲8四飛と動いた(7筋に飛車が動いたため生じた手)。
▲8一飛成を受けた△8二歩に対し▲8三歩。これに△同歩と応じてくれれば▲同飛成で龍ができて先手は嬉しいが、当然△7二金と受ける。
このままでは8三の歩が取られてしまうので▲8二歩成の一手だが、△同銀で後手の手だけ進むので先手が損なやり取りだ。なので、角交換して▲6一角と絡むのかな……でも、少々無理な動きだろうと見ていた。
実戦もそう進み、第2図。
これに対して、松尾八段は△8三歩や△9五角(王手飛車)も考えられるが、一旦、△7一金と引き▲7二歩に△9五角と打つ。
ここで、伊藤四段の手が止まる。
割と躊躇なく指し手を進めており、▲8三歩~▲6一角は研究範囲と思われたので、不自然な長考だ(その場の思いつきなら、▲8三歩のところで考えるはず)。
なので、宮田八段は「もしかしたら……王手飛車を見落としたのかな」と心配。長考中、2,3度「王手飛車を…」と呟いていたので、本当に心配していたように思える。
おそらく、ここでの指し手が▲5八玉、▲4八玉、▲7七金、▲7七桂など候補手があり、それらの比較で時間を要したのだろう。特に▲5八玉と▲4八玉の比較で悩んだと思われる。それでも、昨今の風潮(AIによる研究の周到さ)からすると、ある程度、横歩を取るなら研究しているような序盤の変化なので、不自然な長考だった。
NHK杯としては“長考”と呼べる時間だったので、それぞれの変化について解説する十分な時間があったが、宮田八段は心配するだけで、ほとんど掘り下げて解説しなかった。まあ、ほほえましい光景であったが、▲8三歩~▲6一角の成否は気になるところだ。せめて、感想戦でもう少しはっきり訊いて欲しかった。▲5八玉で難しそうとの感想戦だったが、実戦は▲4八玉。(今年度から、画面にAIによる形勢判断が示されるようになったが、それによると▲4八玉の局面は“後手優勢”だったが、優勢から勝ち切るまでは大変で、画面表示ほど形勢に差がないように思える)
▲4八玉以下、△8四角▲7一歩成△同銀▲8二歩と進む。
ここで、今度は松尾八段の手が止まる。実際、△8八歩、△8六歩、△2八歩、△8二同玉などいろいろ浮かび、悩ましい局面だ。
松尾八段の指し手は△2六歩。この手に宮田八段は驚く。この手は次に△2七歩成~△3八歩と打たないと先手玉に響かない。しかも、△3八歩と打ってもまだ実利は得られず、次に△3九歩成と銀を取っても王手にならない。つまり、△2七歩成~△3八歩の間に桂銀をぼろぼろ取られてしまう。実戦も△2六歩▲8一歩成△2七歩成▲7一と△3八歩と進んだ。
AIの形勢判断はどうだったかというと、△2六歩で後手勝勢→先手有利(先手58%)と逆転!
ただし、△3八歩まで進んでみると、後手優勢になっていた。△2七歩成に▲7一とと銀を取らずに▲5八玉とするのが正着だったらしいが、人間、少なくとも私には理解不能だ。
その後は松尾八段が優勢を維持し勝ち切った。以下は局面のみを挙げておきます。
画面の示すAIの形勢判断は形勢が離れていたが、秒読みの中、冷静な指し手で勝ち切る松尾八段は強さを示した。
AIは《勝ちたい》《怖い》という精神的プレッシャーも感じないし、1秒に1億手を読むAIにとっては大差かもしれないが、人間にとってはその差は小さく、逆に勝ち切るのは難しい局面は多い。
対局の佳境に、そんな形勢判断を示されるのは、サスペンスドラマで犯人追及前のCMの時に、「犯人は○○だ」とばらされるようなものだ。将棋の場合は、一手の悪手で逆転するのでネタバレとは違うが、それでも勝負の醍醐味や味わいを大きく半減させてしまう。
如何なものだろうか?
解説は宮田利男八段(2017年3月31日引退)。弟子に斎藤明日斗四段、本田奎五段、伊藤匠四段がいる。
伊藤匠四段は18歳で藤井二冠と同じ年齢。生まれた月が遅いので、現役最年少棋士ということになる。宮田八段にとってはまだまだ子どもに見えるらしく、言葉の端々にそんな気持ちが伺われた。
第1図の松尾八段の△4二玉は最近出てきた指し方(これまでは△3三角、稀に△3三桂)。
対して伊藤四段は▲2四飛と戻し、△7六飛と横歩を取った手に対し▲8四飛と動いた(7筋に飛車が動いたため生じた手)。
▲8一飛成を受けた△8二歩に対し▲8三歩。これに△同歩と応じてくれれば▲同飛成で龍ができて先手は嬉しいが、当然△7二金と受ける。
このままでは8三の歩が取られてしまうので▲8二歩成の一手だが、△同銀で後手の手だけ進むので先手が損なやり取りだ。なので、角交換して▲6一角と絡むのかな……でも、少々無理な動きだろうと見ていた。
実戦もそう進み、第2図。
これに対して、松尾八段は△8三歩や△9五角(王手飛車)も考えられるが、一旦、△7一金と引き▲7二歩に△9五角と打つ。
ここで、伊藤四段の手が止まる。
割と躊躇なく指し手を進めており、▲8三歩~▲6一角は研究範囲と思われたので、不自然な長考だ(その場の思いつきなら、▲8三歩のところで考えるはず)。
なので、宮田八段は「もしかしたら……王手飛車を見落としたのかな」と心配。長考中、2,3度「王手飛車を…」と呟いていたので、本当に心配していたように思える。
おそらく、ここでの指し手が▲5八玉、▲4八玉、▲7七金、▲7七桂など候補手があり、それらの比較で時間を要したのだろう。特に▲5八玉と▲4八玉の比較で悩んだと思われる。それでも、昨今の風潮(AIによる研究の周到さ)からすると、ある程度、横歩を取るなら研究しているような序盤の変化なので、不自然な長考だった。
NHK杯としては“長考”と呼べる時間だったので、それぞれの変化について解説する十分な時間があったが、宮田八段は心配するだけで、ほとんど掘り下げて解説しなかった。まあ、ほほえましい光景であったが、▲8三歩~▲6一角の成否は気になるところだ。せめて、感想戦でもう少しはっきり訊いて欲しかった。▲5八玉で難しそうとの感想戦だったが、実戦は▲4八玉。(今年度から、画面にAIによる形勢判断が示されるようになったが、それによると▲4八玉の局面は“後手優勢”だったが、優勢から勝ち切るまでは大変で、画面表示ほど形勢に差がないように思える)
▲4八玉以下、△8四角▲7一歩成△同銀▲8二歩と進む。
ここで、今度は松尾八段の手が止まる。実際、△8八歩、△8六歩、△2八歩、△8二同玉などいろいろ浮かび、悩ましい局面だ。
松尾八段の指し手は△2六歩。この手に宮田八段は驚く。この手は次に△2七歩成~△3八歩と打たないと先手玉に響かない。しかも、△3八歩と打ってもまだ実利は得られず、次に△3九歩成と銀を取っても王手にならない。つまり、△2七歩成~△3八歩の間に桂銀をぼろぼろ取られてしまう。実戦も△2六歩▲8一歩成△2七歩成▲7一と△3八歩と進んだ。
AIの形勢判断はどうだったかというと、△2六歩で後手勝勢→先手有利(先手58%)と逆転!
ただし、△3八歩まで進んでみると、後手優勢になっていた。△2七歩成に▲7一とと銀を取らずに▲5八玉とするのが正着だったらしいが、人間、少なくとも私には理解不能だ。
その後は松尾八段が優勢を維持し勝ち切った。以下は局面のみを挙げておきます。
画面の示すAIの形勢判断は形勢が離れていたが、秒読みの中、冷静な指し手で勝ち切る松尾八段は強さを示した。
AIは《勝ちたい》《怖い》という精神的プレッシャーも感じないし、1秒に1億手を読むAIにとっては大差かもしれないが、人間にとってはその差は小さく、逆に勝ち切るのは難しい局面は多い。
対局の佳境に、そんな形勢判断を示されるのは、サスペンスドラマで犯人追及前のCMの時に、「犯人は○○だ」とばらされるようなものだ。将棋の場合は、一手の悪手で逆転するのでネタバレとは違うが、それでも勝負の醍醐味や味わいを大きく半減させてしまう。
如何なものだろうか?
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