英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

将棋界(順位戦)の歪み その5「棋界全体の実力分布(年度成績~概況~)」

2013-01-09 23:03:19 | 将棋
『将棋界(順位戦)の歪み その4「棋界全体の実力分布(通算成績~下位棋士~)」』
『将棋界(順位戦)の歪み その3「棋界全体の実力分布(通算成績~上位棋士~)」』
『将棋界(順位戦)の歪み その2「昇級争いにおける対戦相手の分析とC級2組の実力分布の偏り」』
『将棋界(順位戦)の歪み その1「菅井悲劇をもたらした棋界の現状」』の続きです。

今回からは単年度成績について考えてみたいと思います。

 成績の指標として「勝率」が考えられるが、棋士の場合、勝率と実力のシンクロ率はそれほど高くない。今までも述べてきたが、上位棋士の場合は本戦から登場するので強敵ばかりと対局することになる。タイトル戦に登場となると負け星が増えるのが必然である。もちろん、ストレート勝ちすれば勝率はアップするが、その相手が羽生三冠や渡辺竜王となると、それが至難の業であることに反論の余地はないであろう。
 逆に若手の有望株となると、一次予選からなので自然と勝率は高くなる。なので、上位棋士と下位棋士との勝率を同列に並べて比較するのは妥当とは言えない

 勝数の方が棋士の実力を反映すると言える。もちろん、上位棋士が勝ち星を挙げるのが難しいことには変わりはないので、勝数も実力をきちんと反映しているとは言えないが、勝率ほど負数(負け星)が足を引っ張らない点で信用度が高い。
 実は普通の棋士は年間の負数にそれほど差が出ない。トーナメント戦の場合、タイトルに挑戦しない限り必ず1敗する。挑戦者リーグ戦がある棋戦の場合は負数が増えるが、リーグ入りできる棋士は限られている。なので、王位、王座、棋王、王将、棋聖、朝日杯、NHK杯、銀河で各1敗で計8敗。竜王戦はランキング戦、昇級者決定戦、残留決定戦(クラスによってはない)とあるので1~3敗。新人王、日本シリーズ、大和証券杯、加古川戦は参加棋士に制限があり不確定要素がある。
 フリークラスの属する棋士は順位戦がなく、参加制限のある棋戦への参加はまずないと思われるので、9~11敗と考えられる(年度をまたぐ棋戦によって上下することもある)。
 順位戦参加棋士は負数に幅が生じるが、順位戦指し分け棋士で14~16敗、若手棋士だと新人王、加古川戦で負数が増える可能性がある。
 各棋戦で8敗、竜王戦で3敗、順位戦を10戦全敗し、若手棋士だとプラス2敗すると計23敗となる。これが最大なので、年度成績で20敗近くしている棋士は逆にどこかで活躍(タイトル戦登場やリーグ入り)していると考えてよいかもしれない。もちろん、活躍しているのだから勝数も多い。そういう意味で対局数も活躍度の尺度になる。
 それでも、活躍や実力の尺度として負数を考慮するのは、やはり適切ではない。本当に強い棋士はあまり負けない。負数が増えるということはどこかで痛い目(タイトル失冠や挑戦失敗、リーグ戦で負けが込む)にあっているはずだ。(以下続く)
 
 参考のため、昨年度の成績ランキングを挙げておきます。

2012年3月30日対局分まで(3月1日~4月1日の期間は30局以上のみ表示)
勝率ランキング         勝数ランキング
1 中村 太地 0.851 40- 7     1 羽生 善治 44
2 渡辺 明  0.765 39-12    1 豊島 将之 44
3 橋本 崇載 0.744 29-10    3 中村 太地 40
4 菅井 竜也 0.735 36-13    4 渡辺 明   39
5 豊島 将之 0.733 44-16    5 菅井 竜也 36
6 船江 恒平 0.727 32-12    6 糸谷 哲郎 35
7 阿部健治郎 0.700 28-12    7 広瀬 章人 32
8 羽生 善治 0.698 44-19    7 船江 恒平 32
9 佐藤 天彦 0.694 25-11    7 大石 直嗣 32
10 大石 直嗣 0.681 32-15   10 永瀬 拓矢 31
11 飯塚 祐紀 0.677 21-10   11 牧野 光則 30
12 永瀬 拓矢 0.674 31-15   12 郷田 真隆 29
13 北浜 健介 0.667 20-10   12 橋本 崇載 29
13 伊藤 真吾 0.667 20-10   14 稲葉 陽  28
15 阿久津主税 0.658 25-13   14 阿部 健治郎28
16 広瀬 章人 0.653 32-17   16 深浦 康市 27
17 稲葉 陽   0.651 28-15   16 戸辺 誠  27
18 佐々木勇気 0.650 26-14   18 佐々木勇気 26
19 横山 泰明 0.649 24-13   19 阿久津主税 25
20 糸谷 哲郎 0.648 35-19   19 佐藤 天彦 25
                      19 村山 慈明 25
                     19 遠山 雄亮 25
                     19 阿部 光瑠 25

対局数ランキング
1 羽生 善治 63
2 豊島 将之 60
3 糸谷 哲郎 54
4 渡辺 明 51
5 広瀬 章人 49
5 菅井 竜也 49
7 牧野 光則 48
8 久保 利明 47
8 郷田 真隆 47
8 深浦 康市 47
8 中村 太地 47
8 大石 直嗣 47
13 永瀬 拓矢 46
14 丸山 忠久 45
14 村山 慈明 45
16 三浦 弘行 44
16 船江 恒平 44
18 佐藤 康光 43
18 戸辺 誠 43
18 稲葉 陽 43

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4 コメント

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お願いです (九鬼)
2013-01-11 10:11:39
この連載を毎回興味深く拝読しているのですが、連載が長くなってきて、だんだんこれまでの議論の流れや英さんの目指すところが、分かりにくくなってきました。私の頭が悪いだけかもしれませんが。。。

一読者として、各回の考察に副題をつけて頂けたら、流れを把握しやすくて嬉しいです。それと、「歪み」のない状態について、英さんが現時点で具体的にどういうイメージを持っているか、クラス分け方式自体み反対か(囲碁界には無いですね)、それともクラス分け方式はあってもいいけど昇級降級基準を見直すべきと考えているのか、お聞かせ頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。
返信する
おっしゃる通りです ()
2013-01-11 12:23:07
九鬼さん、こんにちは。

>連載が長くなってきて、だんだんこれまでの議論の流れや英さんの目指すところが、分かりにくくなってきました。

 ええ、おっしゃる通りです。私もそう思います。書きながら、あれこれ膨らんでしまうのが私の悪い癖です。
 「その3」から「その4」まで間が空いてしまったので、「4」を書くにあたってまとめたのが次の文章です。

=======================
 順位戦C級2組順位6位の菅井五段が9勝1敗で昇級を逃したことに、不運以上のものを感じ、それが勝負の世界の「実力のない者は去る」の掟が甘くなっている将棋界の現状に起因しているのではないかと考えた。現状の問題点としては、順位戦システムの問題と棋界の構造の問題が考えられる。(その1)
 念のため、きっかけのC2の昇級争いを精査する必要があると考え、昇級者3名と菅井五段の対戦相手を分析すると、難易度にかなりの差があった。これが、くじ運の範囲かもしれないが、順位戦システムそのものの問題と棋界全体の問題が大きく関与していると思われる。
 そして、その分析過程で、C級2組の実力分布にかなりばらつきがあることが判明した。(その2)
 このばらつきこそが、現状の将棋界の歪みによるものではないかと考えたが、バラツキを分析するのに、棋士にとって大変失礼な作業であるが、棋士をランク分けする必要がある。その一つの目安(基準)として、通算勝率がある。(2012年3月末時点) トップ棋士(タイトルホルダー)のボーダーラインとして、通算勝率で6割4分が妥当ではないかと考えられる。(その3)
======================

 まとめたつもりですが、分かりにくいですね。そこで副題を付けるとすると、「その1」が「菅井悲劇をもたらした棋界の現状」、「その2」が「昇級争いにおける対戦相手の分析とC級2組の実力分布の偏り」、「その3」が「棋界全体の実力分布の分析(通算成績~上位棋士~)」、「その4」が「棋界全体の実力分布の分析(通算成績~下位棋士~)」、「その5」が「棋界全体の実力分布の分析(年度成績~概況~)」というところでしょうか。
 次項では「「棋界全体の実力分布の分析(年度成績~分析~)」の予定です。

>「歪み」のない状態について、英さんが現時点で具体的にどういうイメージを持っているか、クラス分け方式自体み反対か(囲碁界には無いですね)、それともクラス分け方式はあってもいいけど昇級降級基準を見直すべきと考えているのか

 順位戦制度は良い制度だと思っています。しかし、年月が経て、実情と合わなくなってきていることも確かです。昇降級の枠を広げて風通しを良くするべきだとは思いますが、フリークラスという救済枠があるのでは、根本的な解決には至らないような気がします。
 私は順位戦制度の不備より、棋界全体の歪みが根本的な問題だと考えています。
 「その1」の最後に、この記事の主旨「「弱い者は去れ」という勝負の掟が適応されていない緩やかな将棋界の現状とその是正案(引退基準)を述べたい」と書いたのですが、その結論を出すには、それに足りる分析や考察が必要と考えています。
 なかなか分析が進まず、結論までの道のりは長そうですが、おつきあいよろしくお願いします。

 正直に言うと、ある程度の結論はは立てて書き始めました。1「通算成績の[負数-勝数]が50を超える」、2「年度勝率が3年連続3割台」、この二つのうちどちらかでも観たしたら引退が妥当だと考えています。
 底辺棋士が減れば、対戦相手のバラツキはなくなると思います。
返信する
御礼 (九鬼)
2013-01-11 17:24:31
身勝手なお願いにもかかわらず、早速丁寧に対応してくださって、ありがとうございました。副題は本当にありがたいです。英さんの結論予告についても本当はお返事したいのですが、そのためには私自身の考えをまとめなくてはならず、今はその段階にありません。と言うか、知識不足の私には自力で分析できないことが多そうです。今後もこの連載に建設的にコメントできればと思っております。逃げのようですが、ご勘弁ください。
返信する
いえいえ ()
2013-01-11 19:11:32
九鬼さん、こんばんは。

 レスの最後の方は、グタグタな文章になってしまいました。
 「ある程度の結論はは立てて」→「ある程度の結論を立てて」、「どちらかでも観たしたら」→「どちらかでも充たしたら」でした。

>英さんの結論予告についても本当はお返事したいのですが、そのためには私自身の考えをまとめなくてはならず、今はその段階にありません。

 いえいえ、私もよくわかっていません。
 ずっと棋界の歪みを感じ、ずっと(相当以前から)考えていました。いままで何度も年度成績や通算成績を見てあれこれ考えてきました。菅井五段の件はきっかけでした。
 ただ、書き始めるとなかなかまとめられません。結論を急がず、あれこれ考え検証してみたいです。結論が変わるかもしれません。

>今後もこの連載に建設的にコメントできればと思っております。

 疑問に感じたことがありましたら、どしどしご指摘ください。
 副題がまだ長いので、「その3」~「その5」の「分析」という言葉は省きます。
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