「その1」の続きです。

後手の羽生名人が防戦一方に追いやられ辛抱し続けた第5局。
先手は持駒がないものの、6一の角や3四の歩、3七の桂、2八の飛が要所に利き、2三歩成と王手で金を取れそうな局面。
羽生名人は攻撃の軸のひとつの飛車を押さえ込むべき2七に銀を打ったのが第7図。
△2七歩だと▲3八飛と逃げられ、後で▲4五桂と金当たりに跳ねると同時に飛車の利きが通る手が強力で受けきれない。そこで、銀で押さえ込もうとしたわけだが、▲2七同飛と切られる手があり、非常に怖い。
対する行方八段はこの銀打ちを軽視していたという。実際、先手の攻めのもう一つの軸である6一角の利きが強力で、飛車の代償として銀が手に入れば何とかなりそうだと思っていたはずだ。
羽生名人とて大丈夫という確信があったわけではなく、≪これしかない≫という思いだったのだろう。しかし、行方八段にしてみれば、≪自分が何とかなるとタカをくくった△2七銀に羽生名人は踏み込んできた≫と。
これまで攻め続けたが決定打を奪えない本局に加え、第3局、第4局で勝ち切れなかった勝負の流れ……、そこへ、飛んできた△2七銀!………≪自分の攻めの射程距離を見切られている≫と感じたのかもしれない。
将棋を図式化すると、「“相手の玉を詰める”というそれぞれのゴール地点に先に到着するゲーム」と見ることができる。
対局者は定跡や過去の棋譜データなど地図、大局観という磁石、読みの力のレーダー、手筋などのドライブテクニックなどを駆使するのである。
また、単純に速さを競うだけでなく、妨壁や障害物を設置して相手がゴールするのを妨げることも有効で、重要な戦術である。
地図や磁石やレーダーは正確・精巧なものがよく、テクニックは高度で多彩な方がよい。ただ、それだけでなく、それらを場合場合によって使い分け、使いこなす、判断力や精神力、体力なども重要である。
羽生名人の場合、そのどれもが秀でていて、磁場が多少乱れても方角を見失わず道を間違えず、狭くて曲がりくねった道もドライブテクニックですり抜けてしまう。危険察知能力も長けていて、天候の変化や路面変化にも敏感である。
また、相手がゴールにたどり着くのを遅らせることも巧みである。踏み入れるのに躊躇しそうな路地も精巧なレーダーや巧みなテクニックでバック走行で切り抜けたり、急勾配の坂も上り切ってしまう。
一見、平坦で最短に見える直線道路が伸びているが、足を踏み入れてみると、凍結していたりぬかるんでいたりと、なかなかゴールにたどり着けない。そのうち、行方八段のタイヤが摩耗し、燃料の残量もわずかとなり、エンジンの出力も落ちてくる。こちらの到達速度の低下を見切られている。届きそうで届かない羽生玉までの距離……
羽生名人の攻めを跳ね返し、相当リードを奪ったはずだが、路地をすり抜けて差を付けられずに追走してくる。そのうち、タイヤが摩耗してきて……
と、行方八段が口にした“距離感”に強引に結び付けて脚色してしまったが、そんな風に想像させる今期の名人戦だった。
(【補足】追加しました)

後手の羽生名人が防戦一方に追いやられ辛抱し続けた第5局。
先手は持駒がないものの、6一の角や3四の歩、3七の桂、2八の飛が要所に利き、2三歩成と王手で金を取れそうな局面。
羽生名人は攻撃の軸のひとつの飛車を押さえ込むべき2七に銀を打ったのが第7図。
△2七歩だと▲3八飛と逃げられ、後で▲4五桂と金当たりに跳ねると同時に飛車の利きが通る手が強力で受けきれない。そこで、銀で押さえ込もうとしたわけだが、▲2七同飛と切られる手があり、非常に怖い。
対する行方八段はこの銀打ちを軽視していたという。実際、先手の攻めのもう一つの軸である6一角の利きが強力で、飛車の代償として銀が手に入れば何とかなりそうだと思っていたはずだ。
羽生名人とて大丈夫という確信があったわけではなく、≪これしかない≫という思いだったのだろう。しかし、行方八段にしてみれば、≪自分が何とかなるとタカをくくった△2七銀に羽生名人は踏み込んできた≫と。
これまで攻め続けたが決定打を奪えない本局に加え、第3局、第4局で勝ち切れなかった勝負の流れ……、そこへ、飛んできた△2七銀!………≪自分の攻めの射程距離を見切られている≫と感じたのかもしれない。
将棋を図式化すると、「“相手の玉を詰める”というそれぞれのゴール地点に先に到着するゲーム」と見ることができる。
対局者は定跡や過去の棋譜データなど地図、大局観という磁石、読みの力のレーダー、手筋などのドライブテクニックなどを駆使するのである。
また、単純に速さを競うだけでなく、妨壁や障害物を設置して相手がゴールするのを妨げることも有効で、重要な戦術である。
地図や磁石やレーダーは正確・精巧なものがよく、テクニックは高度で多彩な方がよい。ただ、それだけでなく、それらを場合場合によって使い分け、使いこなす、判断力や精神力、体力なども重要である。
羽生名人の場合、そのどれもが秀でていて、磁場が多少乱れても方角を見失わず道を間違えず、狭くて曲がりくねった道もドライブテクニックですり抜けてしまう。危険察知能力も長けていて、天候の変化や路面変化にも敏感である。
また、相手がゴールにたどり着くのを遅らせることも巧みである。踏み入れるのに躊躇しそうな路地も精巧なレーダーや巧みなテクニックでバック走行で切り抜けたり、急勾配の坂も上り切ってしまう。
一見、平坦で最短に見える直線道路が伸びているが、足を踏み入れてみると、凍結していたりぬかるんでいたりと、なかなかゴールにたどり着けない。そのうち、行方八段のタイヤが摩耗し、燃料の残量もわずかとなり、エンジンの出力も落ちてくる。こちらの到達速度の低下を見切られている。届きそうで届かない羽生玉までの距離……
羽生名人の攻めを跳ね返し、相当リードを奪ったはずだが、路地をすり抜けて差を付けられずに追走してくる。そのうち、タイヤが摩耗してきて……
と、行方八段が口にした“距離感”に強引に結び付けて脚色してしまったが、そんな風に想像させる今期の名人戦だった。
(【補足】追加しました)