英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

名人戦第3局雑感 その4

2010-05-11 11:23:32 | 将棋
 まず、前日(その3)のおさらいから。
 三浦八段の▲4六香から5四の角の頭を攻める構想が功を奏し、9六の僻地にいた飛車が中央で力を発揮しだした。
 後手の羽生名人は中央のゴタゴタを解消すべく、先手の桂香と自角を交換し駒損ながら飛車取りを残し、先手陣に迫ろうとした。
 しかし、ここで三浦八段の一着▲5七銀が好手で、後手の狙いである△7六歩を甘くしている。

 第10図では、後手の玉飛の位置が悪く、▲8三角と打たれるのが相当の嫌味。先手と後手の飛車の価値は逆転した感がある。後手としては△7六歩と突いて飛車の価値を高めたいところだが、△7六歩に▲8三角と打たれて△8四飛とかわせられない(手順に▲7六飛と歩を払われてしまう。第10図周辺の詳しい変化は昨日の記事で名人戦第3局雑感 その3)。
 というわけで、あっさり飛車を取らざるを得なかったのかもしれない。
 △5六角▲同銀と進み、昨日も述べたが、▲6五桂が可能になり、玉の脱出路がひらけ、さらに△7六歩が甘くなった。形勢は相当難しくなっている。

 ここで△4四桂と打つ。(第11図)

 △4四桂は△5六角▲同銀の継続手で、先手の要所にある銀に働きかけるので、自然な手に見える。対する▲1二角はその銀に紐をつけた手。同じ角を打つのなら▲8三角と攻めたり、同じ銀に紐をつけるなら▲2三角の方が働きがありそう。実際は▲8三角は△8四飛▲6五桂△8三飛▲7四角に△6三香以下後手よし、▲2三角は△2二香がある。なので、銀に紐をつけただけの▲1二角は辛抱の一着と見られた。
 しかし、この2手の交換は、後の進行を見ると後手の損のように思えた。
 これについては、後述するとして、後手は△7六歩と突いて飛車を働かして先手に迫るしかないが、その前に△2七歩▲3九銀を利かせたのは流石で、金気1枚分の価値がある。
 △7六歩に▲6五桂(第12図)。

 「バシッ」。三浦の駒音が鳴り響いた(中継サイトより)。それはそうだろう、取られそうな桂馬が5三の銀取りになる跳躍だ。先の飛車に続いて、桂馬も捌けたのだ。
 もう行くしかない△7七歩成(空成り、2手すき)に、▲5三桂成(王手、銀を取る)△同銀。そして、▲4五角成(第13図)。

 銀に紐をつけただけの▲1二角だったが、4五に成り返ると玉の上部を制圧する圧倒的な存在になった。▲6三角の厳しい狙いもある。これに対して銀取りに打った△4四桂は銀を取れずにいる。
 こうなってくると先の2手(△4四桂▲1二角)の交換は、先手の得だったのではないか。
 まず、この2手の交換を入れないで、単純に実戦と同様に進んだとすると変化図になる。
(もちろん、△4四桂と打っていないと銀を取られる制約が先手にはないし、先手の持ち駒も角が2枚あるので、同じ手順で進むとは限らない。最後の▲4五角も未確定)

 第13図と変化図の違いは、馬と角の違いと4四の桂の有無で、これがどのように影響するかというと、
①先手玉の広さはあまり変わらない
②6三と5四への角(馬)の利きは変わらない
③5四に駒を打った際の響きが違う(後手玉を5三に呼んでも、▲5四同角は王手に成らない)
④△5六桂と銀を取る手がある
⑤後手の持ち駒にあと銀がもう一枚あれば、△5六桂と銀を取る手が詰めろになる
と、④⑤まで考えると、後手にとっては第13図の方が良いような気がする。

 さらに、
⑥先手が後手玉を攻めて4五の角(馬)が消えた時、後手の4四の桂が先手玉の動きを制する可能性が強い。
⑦4五が角だと、本譜のように5四でバラして▲5四飛と迫る順にはならないが、もしそうなったとすると、4四の桂がいないと4二に逃げても即詰みがある

 リアルタイムで見ていた時、△4四桂▲1二角の2手の交換は、後手がかなり損をしたのではないかと思ったが、改めて考えると、名人ならでの深い読みがあったのだ!(たぶん)


 おかしい……
 簡単に『雑感』として感想を述べるつもりだったのに、どんどん、深みに嵌っているような気がする。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする