今から25年前の冬の深夜の出来事。日本海に面した9階建ての大学の建物。その4階に実験室があった。室内から窓越しに、目を日本海に向けると、ホタルイカ漁の漁り火が漂い始めている。
ある池の堆積物中に生育するバクテリアの計数を行っていた。寒天平板に出現するコロニーの数を計時的に計数。コロニーの出現パターンから、現場にすんでいるバクテリアの生理学的状態や種類を推定しようとしていた。
1、2、3、4、、、とコロニーを数え上げる。誰もいないはずの建物。下の階から、突然スピーカー音が聞こえて来る。うるさいな。これでは、コロニーを数えられないではないか! 誰だろう?お化けか?
おそるおそる、下の階への階段を下り始める。3階だ。真っ暗なフロアーの中にあって、A先生の研究室だけ明かりが灯っている。ああ、A先生か。上の階まで響き渡る音量でラジカセ(ラジオ付きカセットテープレコーダーのこと)から音楽を流していたのだ。
かけていたのは、五輪真弓の「恋人よ」。
♪恋人よ そばにいて~ 凍える私の そばにいてよ~♪
大学の先生と言えども、人の子。学生には言えない悩みがあるんだろうな。
そのまま、4階の実験室に戻り、コロニーの計数を再開。窓の外に目を向けると、雪がちらつき始め、漁り火が見え隠れしていた。
先日、全学のある委員会に出席。配布された資料に目を通す。委員の名簿を眺めていたら、A先生と同姓同名の名前を見つける。もしかして? 斜め向かいに、25年の年月を経たA先生が座っていた。ビックリ。その後、会議中、A先生のことばかり気になってしまった。頭の中で、五輪真弓の歌が駆け巡り、過去と現在が交差する。
四半世紀と言う時の流れ、はやいのか、おそいのか?
何はともあれ、A先生、どうやら、お元気そうなので、ほっとした。A先生は私のことを知らない。会議後、他の先生に声をかけられ、A先生にご挨拶する機会を逸してしまった。できるなら、そのうちに、、、、。
今の季節、研究室に泊まりがけになることもある。そんな時は、井上陽水の「ワカンナイ」を良く聴く。今度は、大河内ひまわりの「女のわかれ道」をBGMにかけよう。天海雪が舞う、北海道の夜には、ぴったりの曲だ。そう思い、CDショップに足を運んでみたが、まだリリースされていなかった。うーむ、テレビの見過ぎか?