南緯69度28分、東経39度35分。ここは南極宗谷海岸スカルブスネスの鳥の巣湾の近く。1年前、高野さんとペンギンルッカリー調査への往路中、コケ群落を見つけました。氷河融解水の流れにそって岩間に群落が広がっています。
コケ群落の表面は、濃い深緑から鮮やかな緑色を呈し、活発な光合成活動を類推させてくれます。その表面の温度を測定したところ、19.6℃です。この時期の気温は約プラス5℃からマイナス5℃で、平均気温は約0℃ですから、コケ群落は微小な生き物にとっては「オアシス」といったところでしょうか。
それにしても、どうしてこんなところにコケ群落が発達するのでしょう?生育のための光条件は十分確保できたとしても、栄養塩はどこから来るのでしょう?
群落を観察していると、そのヒントに出会います。写真の黄色の温度計の下を見てください。ペンギンの羽根が落ちています。つまり、アデリーペンギンが海水中でオキアミを摂食し、陸に上がりルッカリーに戻る途中で糞をあちこちに排泄して行くのです。糞の中には栄養塩がたっぷり含まれているので、コケの生育にはうってつけです。
つまるところ、南極のコケ群落は海産の生産力に支えられている、と見ていいのでしょうかねえ。
そんなふうに考えると、昭和基地のある東オングル島にもペンギンがやってきます。しかし、島中くまなく探してみても、コケ群落はほんの僅かしか残っていません。南極と言う極寒地では、一度破壊された生態系は修復されにくいと言うことでしょうか。
輝く緑色のコケ群落が昭和基地のあちらこちらに観察できるようになるためにも、環境保全担当隊員の皆さんや環境省の皆さんの活躍に期待しています。