博士の学位を取得後、すぐにパーマネントの研究職に就ける保証はありません。現在は、各種研究プロジェクトのポストドク(博士研究員)のポストに応募するのも一つの道ですし、キャリアを積む上でも大切です。ただし、ポストドクとして給料をもらう訳ですからテーマの自由度に何らかの制限があります。
海外のポストドクポストは競争がより激しいので、学位取得前に自らの研究実績を示す証拠として国際誌に掲載された論文リストが選考の鍵を握ります。
本当に自分の研究テーマを自由に続けたい、と言う場合は、日本学術振興会(学振)の博士研究員になることでしょう。また、海外ですと、海外学振の研究員でしょうか。その他にも外国政府の奨学金制度を利用することです。たとえば、ドイツでしたら、フンボルト財団やドイツ学術交流会があります。
私も博士2年の時、ドイツ学術交流会の奨学金を応募したことがあります。当時、ワープロはなく、申請書はすべてタイプライターで打って完成させました。高校から大学院までの成績証明書や修了書、健康診断書、研究計画など、すべての書類をドイツ語と英語で書かなくてはなりませんでした。当時、ドイツ語の辞書を駆使して、申請書を完成させたことを覚えています。ここで重要なことは、申請書を提出する前に受け入れ研究者から承諾を得ておくことです。電子メールが使えない20年前、どんな研究をこれまで行って来たか、これからどんな研究を行いたいか、などを手紙に記して、論文の別刷を添えて航空便でコンスタンツ大学のノルベルト・ペニッヒ先生(Norbert Pfennig)に送りました。幸い、ペニッヒ先生はすぐに返事を送ってくれたのです。その手紙にはこんなことが書いてありました。
「私たちの研究室を留学先に選んでくれてありがとう。あなたの研究内容でしたら、マールブルグ大学のフリードリッヒ・ヴィッデル博士の研究室が最適です。すでに、あなたの手紙は彼に転送したので、彼に直接連絡を取ってください」
この手紙をいただくとすぐに、ヴィッデル先生に手紙を送り、彼から快諾の返事をいただきました。博士論文の研究をまとめていく中で、こうした海外の研究者とやり取りすることは大変なことです。ちょっと気を緩めてしまえば、あっという間に時が過ぎ、留学生申請時期を逸してしまいます。あらかじめ、自分なりの見通しを持って行動しないと、道が拓けません。
その後、何とか申請書をドイツ学術交流会に送り、博士課程3年生(D3)になって、いよいよ留学生試験です。東京・青山のゲーテインスティチュートでドイツ語の試験です。この奨学金は、音楽や法学を専攻する学生に人気があり、彼らの中にはあらかじめゲーテインスティチュートでドイツ語の特訓を受けている人が何人もいました。実験で忙しい私にはそんな余裕はありませんでしたが、幸い1次試験を通過し、D3の晩秋の頃、英語での面接試験に臨みました。すべてが初めての経験で、今となっては良い思い出です。
大学院時代、先のことを考えながら、研究をして欲しい。自らの道は自らの力で切り拓いて欲しい。『チャングムの誓い』総集編を見ていて、そんなことを思ってしまいました。
ちなみに、日本学生支援機構のホームページに「海外留学のための奨学金」ガイドが掲載されています。