福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

極光の架橋

2006-12-09 08:59:10 | 南極

ゆず餅。これが昨日午後の会議で用意したお菓子。イレギュラーで行われている、Aさんとの会議の議題は結構重い。そんなとき、いつもの「憩いのお店」で買って来た季節限定商品は、会議を柔らかくさせてくれます。会議中に写真を撮るわけにはいかないので、言葉だけでお許しください。

ゆず餅(正式名は、『柚子餅』)は、十勝産の小豆あんが道明寺で包まれた和菓子です。甘さが控えてあり、口の中に入れると品の良い道明寺のしっとり感とほのかなゆずの香りが味わえます。

そんな時、研究分野が全く違うAさんと共通の話題が自然と湧いて来ます。その一つが、南極です。越冬隊員の誰々さんは元気でやっていますかねえ、とか。

2006年2月12日、昭和基地で越冬隊員と別れた後、彼らとの連絡手段は砕氷艦しらせから衛01_19星通信での電子メールか、衛星電話です(3月下旬シドニー港に入港するまでは「しらせ」での船内生活です)。インターネットはできません。衛星電話はコストが高くつきますし、電話をかけたときに相手が電話に出ることのできる状況にあるとは限りません。気軽さと言う意味で電子メールが頻繁に使われます。しかし、衛星02_8回線が細いので、200キロバイトを超えるメールを送ることができません。もちろん、電話もメールも使用した分だけ、ポケットマネーで料金を払わなくてはなりません。

そんな状況のもと、夏隊員と越冬隊員との架橋になったのが、『み・くりさんのブログ』です。み・くりさんは小学校にお勤めのかたわら、第47次南極地域観測隊を応援するブログを毎日アップしています。しらせ乗船中、夏隊員は「しらせ便り」として、日本にいるみ・くりさんにメールを送り、彼女は昭和基地からの情報と合わせてブログをアップします。昭和基地の越冬隊員はインターネットが使えますからネット上で記事を読むことができます。私たち夏隊員にはブログ記事のテキスト版がみ・くりさんから送られて来ます。

彼女のブログ記事の秀逸さは、内容の掘り下げの深さにあります。昭和基地からの情報をもとに、彼女自身で調べて、論理立てて平易に解説してくれます。また、自然現象に対する彼女の疑問はわれわれ科学者のそれと一致します。

夏隊員は帰国後、それぞれの職場に戻りますが、“南極”が身近な職場はほんの一Sirase握りです。現在の仕事に集中すればする程、時とともに昭和基地からの精神的距離も遠くなることは否めません。そんな現実を受け入れながらも、昼食後の休憩時間にみ・くりさんのブログに入ります。すると途端に、越冬隊員の皆さんと一緒に越冬しているような感覚に襲われます。

越冬隊員のご家族にとっても、み・くりのブログはもはやかけがえのない存在になっているようです。ご家族にとってみれば、南極観測や昭和基地のことなど、まとまって情報を得る機会はそうありません。

01_20越冬隊員のご家族、夏隊員、そして南極へ行ったことのない一般の人々を一瞬にして昭和基地へ連れて行ってくれる『極光の架橋』、それが「み・くりさんのブログ」です。

彼女のブログを本にしたら、『微生物ってなに?』よりも評判をはくすかもしれないなあ。