[用例研究 162] 〈假定法-條件節省略⑦〉
(BLONDIE By Dean Young & Stan Drake)
1 Sir, I just want you to know I’d sell my soul if it would benefit the J. C. Dithers Company!
1 bam
2 That’s ridiculous! That’s crazy talk!
3 But just out of curiosity, how much would it cost me?
[解説]
1
・just: want を強調してゐます。
・I’d sell~: 「~を賣るだらう」(=I would sell)
・if it would benefit: 假定法の條件節での would のニュアンスは小生にはわかりませんでした。この would のはたらきについて諸兄の御指導をいただけるとありがたいです。
主語が人稱代名詞の場合は、「もし萬一~するつもりがあれば」といふ意味であり、will に比して假定の意味が強いとされます。しかし、ここでは主語が it であり、このitは「自分の魂を賣ること」「自分の良心に反してでも職務を達成すること」であらうと思はれます。下記の[意味把握チェック]では、would が「話者の推量・豫測を控へめに表はす」はたらきをしてゐると解し、「利益をもたらしさうなら」もしくは「利益をもたらすと豫想されるなら」としてみました。
□參考例文: 人稱代名詞の場合の例文です。
162.1 If you would, you could make it.
もしあなたにその氣があるなら、成し遂げることができるでせう。
162.2 Alexander could have conquered the whole world if he would have done so.
アレクサンダーは、もし彼にその氣があつたなら、世界を征服できただらう。
・bam [bæm]: (擬聲語で)「バン」「ドスン」などの音を表現してゐます。
2
・talk: talk に冠詞がついてゐませんから、不可算名詞の扱ひとしてゐるのでせう。一應「空論/話」としてみました。
3
・just: out of curiosity を強調してゐます。
・out of curiosity: 「好奇心から」
・how much would it cost me: 「君の魂は(/君の魂を買ふなら)どれくらゐ(費用が)かかるんだらうか」。假定法過去の歸結節のかたちで、條件節が省略されてゐます。條件としては、例へば「もし君が自分の魂を賣るとしたら」「もし私が君の魂を買ふとしたら」などが考へられます。
[意味把握チェック]
1 「社長、もし會社(J. C. Dithers Company)に利益をもたらしさうなら(/利益をもたらすと豫想されるなら)、私は自分の魂を(も)賣るだらう、そのことをあなたに是非ともわかつて欲しいんですよ」
1 「バン」
2 「そいつはばかげてる。突拍子もない空論(/話)だな」
3 「ただ好奇心から訊ねるんだがな、君の魂はどれくらゐ(費用が)かかるんだらうか(/君の魂を買ふとすると値はいくらだらう?)」
[笑ひのポイント]
・利に敏く強慾な Dithers 社長の本音が言譯とともに現出し、言動の矛盾が笑ひを誘ひます。