

両親の離婚によってほとんど関わりあうことなく生きてきた父が、難病を患った末に亡くなった。衿子は遺品のワープロを持ち帰るが、そこには口を利くこともできなくなっていた父の心の叫び―後妻家族との相克、衿子へのあふれる想い、そして秘めたる恋が綴られていた。吉川英治文学賞受賞、魂を揺さぶる傑作。








夫の父親を思った。
父親は死んだ。と聞いていたが、カシミアの素敵なセーターを着てボロボロの特養にいた。
転勤族故たまたま近くに住むことになり、しばらくしてから実はと聞き、ヤンチャリカの長男と赤ん坊の次男を連れて会いに行った。
その時はなんだかよくわからなかったみたいで、もうわからなくなっちゃったかな・・・と寂しそうだった。
もうすでに近くには住んでいなかったけれど、事情ができ、再び特養を訪れた時には見違えるほどの施設となっていて、大部屋にいたはずなのにきれいな個室に置かれた車いすにちんまりと座っていた。
夫が名乗ったら、その顔を見て驚きそしてマヒの残っている歪んだ顔でとてもうれしそうに出にくい声を張り上げていた。
やはり妻と子供たちを捨てた人だった。
そして母は強かった。
資産家だった父から相当取ったんだろうね。なので夫は大きなお家で何不自由なく育って優しい人間になり、母親と同じくらい私みたいな過激な人間を奥さんにしちゃったのね。
その父親が亡くなったときに喪主になり、何の感情もないのだろうなーと挨拶の席に一緒に立ったら、おいおい泣いた。
泣いたことなんか見たことなかったからひどく驚いてつられて泣いた。
もう危ないですよ。となったときには時間をつくって必死に会いに行っていた。
まるで時間を取り戻すかのように・・・