小林紀子バレエ・シアター「マクミラン・トリプルビル」(8月23日)


  明日も公演があるので、さしさわりのない程度に(なるか?)。

  午後5時に始まって、終わったのが8時近く。間に25分、20分の休憩を挟んだとはいえ、内容の濃い贅沢な公演でした。大満足です。

  オーケストラは今回も東京ニューフィルハーモニック管弦楽団です。去年の『マノン』では、ある奏者の凡ミスをきっかけに演奏が全面崩壊しました。今日の公演でも、最初の「コンチェルト」でやらかしてくれました。第一楽章の冒頭部分で、管が弦から大いに遅れてしまい、音が完全にズレて、またしても演奏が崩壊。

  この他にも、ソロで演奏していた管楽器の音程が外れた上に、途中で何度か切れるということがあり、なんかもうここまでくると、管楽器はもう演奏自体をやめたほうがいいんではないかと思ってしまいました。へっぽこ演奏ならまだ許せますが、ダンサーたちの踊りを邪魔して、ダンサーたちを危険にさらすような演奏なら、いっそないほうがマシ。

  第一楽章のソリストは真野琴絵さんと上月佑馬さんでした。最初の演目とあって、真野さんは緊張気味のように見えました。それが、おそらくは演奏がズレを起こしたせいで、音を取れなくなってしまったようです。踊りがいっそう不安定になりました。しかし、大きなミスはなく、よく持ちこたえたと思います。第三楽章では完全復活していたのでよかったです。

  上月さんは動揺を見せず、力強く踊っていました。去年のNHK「バレエの饗宴」よりもすばらしくなったと思います。

  群舞は、第一楽章はちょっとバラつきがありました。でも第三楽章ではみな興に乗ってきたのか、きれいに揃っていて見ごたえ充分でした。

  島添亮子さんとジェームズ・ストリーターによる第二楽章は圧巻。冒頭、横を向いた島添さんが上半身をゆっくりと前に落とし、腕でゆるやかに円を描いていくのを見ただけで、涙がこぼれそうになりました。それほど美しかったです。

  喜入依里さんが「コンチェルト」第三楽章でソリストを、『三人姉妹』ではオリガを、「エリート・シンコペーションズ」でもソロを踊りました。白とピンクの衣装で頭にお花畑を乗っけてる人です。

  今日の公演を観て、この喜入さんはいったい何者なんだ、と衝撃を受けました。小林紀子バレエ・シアターが『マノン』を初演したとき、喜入さんはレスコーの愛人を踊りました。そのとき、この役を踊るのが初めてだとはとても思えないような、強靭な技術に裏打ちされた安定した踊りっぷりと表現豊かな演技とで、すごく驚いたのを覚えています。

  正直、『三人姉妹』のオリガはどうかな、なにせ若すぎる、と観る前は思っていたのです。ところが、まったく違和感なし。「コンチェルト」第三楽章では、喜入さんはちょっと緊張していたようでした。しかし、オリガ役と「エリート・シンコペーションズ」での喜入さんの踊りは衝撃的なほどに見事でした。

  「コンチェルト」での振付が、シンプルな美しさを強調したクラシカルなものであるのに対して、『三人姉妹』でのマクミランの振付は非常に独特かつ複雑です。ストーリーよりも、それぞれの登場人物の性格、心理や感情を表現することに重きを置いている振付だからです。

  「エリート・シンコペーションズ」の振付はコミカルなように見えますが、実はかなり難しいものであるのは、英国ロイヤル・バレエ団が上演した映像を観ると分かります。

  喜入さんのオリガの踊りは、技術的に安定しているのはもちろん、妹たちであるマーシャとイリーナ、マーシャの夫であるクルイギンを案じつつ見守るオリガの母性的な性格がよく出ていました。喜入さんの踊りは非常に雄弁で、その踊り方も、何と表現したらいいのかなあ…、DNAにマクミランを上手に踊れる遺伝子が入ってる的な?

  「エリート・シンコペーションズ」でも、喜入さんのソロ(カリオペ・ラグ)を見ていて、音楽を巧みに捉えてるし、手足の動かし方が絶妙だし、膝から下の線は弓なり、足の甲は三日月形に突き出ていてきれいだし、いたずらっぽいフェミニンな雰囲気を醸し出してるしで、うーん、あらゆる面で天賦の才に恵まれてる人って、やっぱりいるんだな~、と思わざるを得ませんでした。

  喜入さん礼賛になってしまいましたが、今日はそれほど「喜入さんショック」が大きかったということで。もちろん、他のダンサーのみなさんもすばらしかったです。『三人姉妹』は、これが初演とは思えないほどの出来でした。

  アントニーノ・ステラは、今日は『三人姉妹』のみの出演でした。「エリート・シンコペーションズ」は客席で観ていたらしく、終演後に客席で見かけました。緑色のTシャツにジーンズ姿でした。小柄でほっそりした人でしたが、やっぱりダンサーだけに人目を引くというか華があるというか、人の顔を覚えるのが苦手で目も利かない私がすぐに気づいたくらいです。カッコよかったです。

  全公演が終わってから、詳しい感想をあらためて書きたいと思います。

  ではでは今日のところはおやすみなさい。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )